2024.7.1
「自由進度学習」とは? 一斉授業からの変化で学びはどう変わる?
教育の世界でも、「多様化」や「個性の尊重」が言われるようになり、我が子に合った勉強スタイルって何だろう?と悩んでいる方もいるかもしれません。学校においても、子ども一人ひとりに合った授業のあり方を試行錯誤する動きが見られます。そこで注目を集めているのが「自由進度学習」です。
この記事のポイント
「自由進度学習」とは?
「自由進度学習」とは、子どもが自分のペースで進める学びのことです。一定の約束事の下で、子ども自身がオリジナルの学習計画を立て、様々な教材を使ったり、実験などの活動をしたりしながら、自力で学びを進めていきます。
学校の授業では、特定の単元の中で自由進度学習が行われることが多いようです。「単元内自由進度学習」と言って、1980年代ごろには既に一部の学校で行われていました。
ほかにも、学習範囲をある程度区切った上で、学年を超えて行う無学年制のものや、複数の教科にまたがって行われるものなど、様々なバリエーションがあります。
また、学習のペースが一人ひとり異なる学習方法だから1人で学ばなければいけないわけではありません。子ども自身が必要だと思ったら、周囲の友達や先生などともかかわりながら深める学びも自由進度学習の一部です。自由進度学習を実践している学校の数はまだ少ないですが、最近は注目度が高まっており、増加の兆しが見られます。
注目されるようになった背景
自由進度学習が注目を集めているのは、学校の授業スタイルを変える必要性が高まっているからです。今、国が目指しているのは、子ども一人ひとりの興味・関心や発達の状況などを踏まえ、それぞれの個性を伸ばし、生きる力を育む教育です。しかし、これまでの授業スタイルの基本は、皆が同じ内容、時間、場所、方法で一斉に授業を受ける講義形式でした。
その授業スタイルは、1つの決まった答えや、同じゴールに向かって子どもたちを導く上では効率的ですが、それだけでは今目指している教育を実現することはできません。また、1つのクラスの中には、様々な特性を持つ子どもがいて、個に応じた教育・学習環境の整備が今まで以上に求められています。つまり、これまでの授業を見直し、改善していこうとする動きが強まっているのです。
そのような考え方は現行の学習指導要領に既に盛り込まれていますが、さらに踏み込んだメッセージが、2021年に中央教育審議会が示した「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現(答申)」で発信されました。その中のキーワードの1つに「個別最適な学び」が掲げられており、その実現に効果的な学び方の1つとして、自由進度学習が注目されているのです。
自由進度学習の最大のメリットは、「主体的に学ぶ力」が育まれること
自由進度学習の最大のメリットは、子ども一人ひとりの困り事や学力の違い、特性に対応しやすい点。自分に合った内容やペースで学べるため、学習意欲や理解度が高まりやすいのです。
例えば、分からないところは十分に理解できるまでじっくりと取り組むことができますし、「自分だけできていない……」と周囲の目を気にする必要もありません。反対に、十分に理解しているのであれば、より難しい内容や次の課題に取り組んでよいのです。友達と話し合ってもよく、それによって一層理解が深まることもあるでしょう。
また、自由進度学習は、自分で学習計画を立て、学習状況に応じて計画を修正しながら進めていきます。自分自身のことを知り、自分に合った内容とやり方で、自分なりに試行錯誤しながら学習を進めることで、「自己調整力」や「主体的に学習に取り組む態度」が育まれると考えられます。
教師にとっては、自由進度学習によって、子ども一人ひとりの学習状況や理解度を細かく把握しやすくなります。それぞれに応じた課題を出したり、声かけをしたりすることで、より効果的に学力を高めることができます。加えて、普段の授業や学校生活の中でも、「教師が指示する前に、子どもが自ら次の課題を探して取り組むようになった」「学習以外の場面においても、主体的な姿勢が見られるようになった」といった効果が報告されています。
学級経営や授業準備の状況次第でうまくいかないことも
自由進度学習を取り入れる際には気をつけなくてはいけない点があります。まず、学習環境が整っていないと、指導者不在の単なる自習時間と化してしまい、学びが成立しない恐れがあります。学級経営が安定していて、子どもと教師との間に信頼関係がしっかりと構築されている必要があるわけです。
また、教師が指導計画をきちんと立て、学習の見通しや必要な学習材を子どもに示し、子どもが学習の途中で戸惑わないようにする必要があります。子どもの動きや理解度を想定して複数の教材を準備したり、単元や授業の一部を講義形式の一斉授業にして、ほかを自由進度学習にしたりするなど、事前準備が重要になります。
加えて、学校段階によっては、期待通りの効果が見られない恐れもあります。学習内容が高度化する高校や大学入試への対応などの面では、一定量のインプットを教師が行ってからでないと、生徒だけで学習を進めるのは難しいとの声もあります。
自由進度学習の実践例を紹介
【広島県廿日市市立宮園小学校の例】
広島県にある宮園小学校は、1年生から6年生まで自由進度学習を取り入れています。
年間で1、2年生は30時間程度、3、4年生は100時間弱、5、6年生は100時間程度、自由進度学習の授業を実施しています(100時間は総時間数の約1割程)。本記事では3年生の授業の様子をご紹介します。
3年生 算数と理科の合教科
算数:「重さ」
理科:「物の重さを比べよう」
(合計14時間程度)
1.初めに、教科ごと、1時間ごとに学習内容や学習場所、教科書の該当ページや学習プリントがひと目で分かるようにまとめられた「学習計画表」が配られます。
2.学習計画表に基づいて、自分のペースで学習を進めます。学ぶ順番や、使うツール(タブレット、プリント、教科書など)も、自己選択を可能にしています。1コマの中には、「必ずやり終える学習」と「自分で決めて自由にやる学習」の2つを用意し、学習内容や範囲を選択できるようにしています。学習プリントは、学習内容が明確になっており、学力が高くない子どもがなるべくつまずかないように、工夫しています。
学習計画表
写真提供:宮園小学校
3.空き教室を活用して体験的な学習ができる「学習コーナー」も設置。砂や水で1kgを測ったり、粘土やブロックで形を変えて重さを確認したりすることができます。
学習コーナー。必ず詳細な取り組み方法を提示している。子どもたちは自分の教室から何度も往復しながら学習を進める。
写真提供:宮園小学校
4.各自のタイミングでチェックテストに取り組みます。タブレットに入っているアプリの自動採点機能を使うことで、時間短縮と省力化を図っています。テストの結果を確認した教師が、子ども一人ひとりの学習状況に応じて個別に支援しています。
まとめ
普及拡大はこれから。無理のない範囲でエッセンスをご家庭でも
自由進度学習は今後、多様化する子どもにとって有効な学習形態の1つとして広まっていく可能性があります。ICTや生成AIの進化もその後押しをするでしょう。もし、お子さまの学校が自由進度学習を取り入れていたら、家庭学習や日々の生活などでもお子さまが自分で計画を立てて取り組めるようになるチャンスです。実際、自由進度学習を取り入れている学校の児童から、「家庭学習にも意欲的に取り組めるようになった」といった声も聞かれます。
また、学校で取り入れているかどうかにかかわらず、家庭学習などに自由進度学習のエッセンスを取り入れることは可能です。お子さまのやる気がいま一つといった時には、いつもとは違う場所や時間配分、方法で学習することをお子さまに勧めてみるなど、保護者のかたも無理のない範囲でトライ&エラーしてみてはいかがでしょうか。そうする中で、お子さまに合った学びのスタイルや、そのヒントが見つかるかもしれません。
取材・執筆:神田有希子
※掲載されている内容は2024年6月時点の情報です。
監修者
柏木崇かしわぎ たかし
VIEW next編集部 統括責任者