教育用語解説 ラーケーション

2024.7.30

注目を集める「ラーケーション」とは?登校しなくても欠席にならない?取り組むメリットと課題を解説

一部の自治体や学校で「ラーケーション」を取り入れる動きが始まっています。新たな学びのスタイルとして注目を集める「ラーケーション」とはどのようなものでしょうか。今注目を集める背景や、取り組むメリット、そして現在の課題を解説します。

ラーケーションとは?

ラーケーションとは、《ラーニング:learning》(子どもの学び)と、《バケーション:vacation》(保護者の休暇)」をかけあわせた造語 で、子どもが保護者等とともに、学校外での体験や学びを目的として休暇を取得することを指します。

子どもが学校以外の場所で体験活動などをすることで、学校だけではできない学びを深めることが期待されています。たとえば、地域の博物館や史跡を訪れたり、公園の植物を調べたり、登山やキャンプなど五感を使った体験をしたりといった活動が想定されます。

都道府県や市区町村などの自治体ごとに取り組んでおり、都道府県単位で導入したのは愛知県が初めてで、茨城県、山口県が続きました(2024年7月時点)。市区町村単位では、大分県別府市、沖縄県座間味村などが導入しています。

ラーケーション導入の背景に、社会の働き方・休み方改革の必要性

ラーケーションが注目される背景には、日本の「休み方」に関する課題があります。

まず、日本の有給休暇の取得率は、世界的に見ても低いことが明らかになっています。加えて、休暇は個人で好きな時に取るのではなく、業種や職種の慣例に沿った特定の曜日に休む文化が根強いため、業種によっては休日そのものが少なかったり、平日にしか休めなかったりします(*1)。共働きの家庭が増えていることもあり、大人も子どもも、より充実した休みを取れるようになる工夫が求められているのです。

そこで、保護者の休みに合わせ、子どもが学校外での体験や探究的な学び等を実践できる取り組みとして「ラーケーション」が注目されています。

*1 総務省「2021年社会生活基本調査」によると、有業者のうち平日に働いている人の割合は83%、土曜日に働いている人の割合が46%、日曜日に働いている人の割合は30%。

ラーケーションのメリットは、「家族時間」の増加&学校ではできない学びの充実

ラーケーションを取り入れるメリットは、大きく3つあります。

1. ラーケーションが広まることで、働く保護者が平日に休暇を取りやすくなる
家族との充実した時間を増やすことで、保護者自身がよりよいワークライフバランスを保つきっかけになります。また、子どもの学びの場に保護者が居合わせることで、家庭の教育力を高めることにもつながります。

2. 学校外ならではの体験を通じた学習効果と、コミュニケーションの機会
子どもにとっては、学校外ならではの体験ができたり、自分の興味・関心に応じて、授業の内容を広げたり深めたりできます。ラーケーションで学んだことを学校の授業に生かすことで、探究的な学びにつながることも考えられます。学習面以外でも、家族とのコミュニケーションが深まり、充実した時間が増えるメリットも大きいでしょう。特に保護者が土日に休みを取りにくい家庭の子どもの場合はなおさらです。

3. 地域における経済効果
ラーケーションで家族が地域の名所や商店街などを訪れることにより、その地域の経済効果が高まります。また、混雑する土日祝日以外で宿泊や飲食サービスなどを利用する人が増えれば、その業種の労働生産性も高まるなど、人が「休みを取る」ことは地域活性化につながります。

このように、ラーケーションは大人にも子どもにも、地域にもメリットがある取り組みといえます。

ラーケーションの課題

一方で、課題もあります。新しい取り組みのため、社会も、家庭も、ラーケーションに対する理解が十分でないことです。

ラーケーションを取り入れている地域であっても、たとえばある会社で社員がラーケーションを理由に休暇を取ろうとしても、なかなか理解が得られにくいシーンもあるでしょう。保護者も、ラーケーションの日に何をするのがよいのか戸惑うケースもあります。

また、学校側でも、新たな負担が増えることへの対応が必要です。たとえば、ラーケーションで休んだ子どもにはその日の給食費を返金する作業が発生することがあります。

これらの問題が起きないようにするために、ラーケーションの導入にあたっては自治体が地域全体に周知して理解を得るだけの十分な準備と時間を確保することが大切です。

【愛知県の取り組み】
全国に先駆けてラーケーションを導入した愛知県。社会全体で「休み方改革」を実現する一環として、2023年度の2学期から「ラーケーションの日」を導入しました。

ラーケーションの日は年に最大3日取ることができ(取らなくても可、年度繰越しは不可)、学校に登校しなくても欠席ではなく出席停止や忌引などと同じ扱いになります。導入にあたっては、家庭向けのリーフレットを配って周知理解を促した他、教員の新たな業務負担を抑えるために校務支援員等を配置しました。

ラーケーションの日は必ず外出したり遠方の施設に行ったりする必要はなく、「保護者と一緒に」、「学校ではできない体験や探究活動を通して学びを広げる」ことを重視しています。
ラーケーションを使った子どもや保護者からは、「子どもとの時間の過ごし方を考えたり、いろいろなことを話すきっかけになった」、「新しいことに挑戦するきっかけになった」などの好意的な感想が多く聞かれます。


令和6年 愛知県教育委員会「ラーケーションの日」に関するアンケート調査より
(対象:県内の市町村立学校に通う生徒の保護者 48,707名)

ラーケーションの日を取りまとめる愛知県教育委員会は、「自分の興味関心に応じた学校外での学びや体験を通して、学習の幅を広げ、自ら課題を発見し、解決する力を育みたい。ラーケーションが有効活用されるよう、県内の企業に制度を周知するリーフレットを配布したり、保護者に具体的な活動事例を紹介したりしていきたい」と話します。

(まとめ)ラーケーションを活用し、お子さまの「好き」に寄り添おう

ベネッセ教育総合研究所 研究員 福本優美子

ラーケーションについて「休みを取らなければいけない」「子どもを学ばせないといけない」と考えすぎると、ご家庭も負担に感じてしまうかもしれません。学校外での体験の選択肢の一つとして、お子さまが好きなことに寄り添うチャンスと気楽に考えてみてはいかがでしょうか。

まずはお子さまが関心のあることをいっしょに楽しみ、親子でその経験について話をするだけで十分です。好きなことに夢中になる体験がある子どもは、やる気や自己肯定感が高いという調査結果もあります*。ラーケーションが取り入れられていない地域の保護者の方も、お子さまが好きなことや熱中した経験についての話を聞いてみてください。お子さまの成長を実感できる、家族にとってうれしい時間になるのではないでしょうか。

*ベネッセ教育総合研究所 ニュースレター
『チャレンジングな経験』は子どものさまざまな能力と関連

取材協力:愛知県教育委員会
取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2024年7月時点の情報です。

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