定期テスト廃止

2024.10.25

広まる定期テストの廃止 その背景やメリット、課題を解説

中学校や高校で学期ごとに行われる定期テスト(定期考査)。最近は定期テストを廃止したり、実施回数を減らしたりする学校が増えています。

なぜ、そのような動きが見られるのでしょうか。定期テストがなくなると、成績評価はどのように行われるのでしょうか。保護者世代には当然の存在だった定期テスト。その意義や課題を改めて考えてみましょう。

定期テストの廃止が広まった背景と現状

2018年、東京都千代田区立麹町中学校が定期テストを廃止した(※当時)ことが全国的に注目を集め、同様の動きが全国に広がっていきました。

中学校を中心に見られた定期テストの廃止の動きはその後、高校でも私立で見られるようになり、現在は公立でも定期テストを廃止する学校が増えつつあります。ベネッセ教育総合研究所が行った最新の調査結果(※)によると、2023年時点で中学校の22.9%、高校の13.3%が定期テストを廃止、もしくは実施回数を減らすことを検討しています。

定期テストの廃止の動きを後押ししているのは、「成績評価の方法が定期テストに偏りすぎていないだろうか?」という教育現場の課題意識です。

現行の学習指導要領では、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という3つの観点で児童生徒の学習状況を評価することが求められています。その3つの観点すべてを定期テストの結果だけで評価するのは限界があります。そのため、定期テストの結果以外にも、たとえばレポートの作成や発表、グループでの話し合い、作品の制作といった多様な活動の成果を材料に評価が行われるようになってきています。

定期テストに代わる評価方法は単元テストが大半、定期テストのデメリットをカバー

定期テストを廃止した学校の多くは、「単元テスト」を導入しています。
単元テストとは文字通り、1つの単元の学習が完了したあとに、その単元の定着度を確認するために行うテストのことです。各教科の単元(授業数時間分から成る、学習内容のまとまり)を評価の区切りとすることで、定期テストのような一発勝負ではなく、日々の学習の積み重ねが成績につながるわけです。
単元テストは定期テストに比べると出題範囲も広くないため、定期テスト期間によく見られる、複数の教科・科目を一夜漬けで勉強する生徒は、単元テストを導入するとあまり見られなくなります。

教師も生徒の学習内容の理解度や定着度をこまめに把握することができ、必要な指導が調整しやすくなるほか、ペーパーテスト以外の方法で単元テストを行うことで、より多様な視点で生徒を評価することができます。

また、生徒にとっては、単元や題材等のまとまりごとに自分の理解度を知ることができるため、理解度の低い箇所が増えてしまう前に学び直すことができ、学習内容の定着度を高める効果も期待できます。定期テストの廃止はそれ自体が目的ではなく、「評価をどのように学力向上につなげるのか?」という課題に取り組むための手段の一つであるといえます。

定期テストの廃止によって生じる課題も

とはいえ、単元テストも万能ではありません。単元テストは各クラスの授業進度に合わせて行うため、実施タイミングがクラス間でずれることが大きな懸念点の一つです。
先に単元テストを実施したクラスから、これからその単元テストを実施する別のクラスにテストの問題が流出すれば、成績評価が公平なものでなくなってしまいます。そのため、教師や保護者には、単元テストは自分の学習の到達度を確認し、その後の学習改善に生かすものであることを、生徒に理解させることが求められます。

また、自分の相対的な学力を知りたいと思っても、単元テストは定期テストなどとは異なり、一斉に比較可能な点数として把握しにくいデメリットもあります。さらに、単元テストは単元の数だけ実施することになるため、その実施回数は当然定期テストよりも多く、教師にとってはテストの実施回数が増える分、作問や採点、成績の集計といった業務負担が増える点も課題の一つです。

以上のように、定期テストを廃止して単元テストを導入することは、定期テストで生じる問題を解決する有効な方法の一つになりえますが、単元テストを必ず導入すべきということではありません。それぞれのテストの長所と短所を踏まえて、自校で育成をめざしている生徒像を実現するために最適な評価方法が何かを校内で議論することが重要です。

その結果、定期テストの問題の質や成績評価への生かし方(たとえば、評定に占める定期テストの成績のウエイト)を見直すことが最適であると判断するのであれば、「定期テストの存続」も十分考えうる選択肢の一つです。あるいは、実力テストや外部の模擬試験といった、定期テストや単元テスト以外の評価方法の活用も考えられます。

【定期テスト廃止の事例】


奈良県では、2022年度入学生から全県立高校で定期テストを廃止しています。奈良県立橿原(かしはら)高校は、定期テストに代えて、単元テストやパフォーマンス課題を評価の中心に据えました。

当初は定期テストをすべてやめることに不安を覚える教師もおり、学期末に複数の単元を範囲とする「総括テスト」も併せて実施。ただし、総括テストはあくまでも評価材料の一つとして扱い、評価全体の中での比重を抑えることでバランスを取りました。

同校では、定期テストの廃止を機に評価の在り方と方法を学校全体で考え直した結果、生徒に主体的に学ぶ姿勢が身に付きました。以前は定期テストの直前にプリントの内容を頭に詰め込むだけだった生徒が、授業に主体的に取り組み、授業後には疑問点を質問してくるようになったそうです。

奈良県立橿原高校の取り組みの詳細は、『VIEW next』高校版2024年度6月号をご覧ください。
https://view-next.benesse.jp/view/bkn-hs/article28211/

まとめ~定期テストの「廃止」か「継続」かではなく、評価の意味を考える機会に

保護者世代にとって、定期テストはあってあたり前の存在で、その意義について深く考えることはほとんどなかったと思います。
しかし、これからの時代は、常に確実なことはほとんどなく、どのようなことに対しても「なぜ?」「何のために?」などと疑問を持ち、自ら考えて答えを探すことが大切です。

定期テストの廃止・存続の議論は、評価の目的や学力向上の方法を学校が真剣に考え直そうとしている証でもあります。ご家庭でお子さまがテスト勉強に取り組む際も、その勉強は何のためにしているものなのか、自分のやりたいこととどうつながっていくのか、親子で立ち止まって考える機会にしてみてはいかがでしょうか。

取材・執筆:神田有希子

ベネッセ教育総合研究所 小中高校の学習指導に関する調査 2023

※掲載されている内容は2024年10月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

かしわぎ たかし


VIEW next編集部 統括責任者

1999年にベネッセコーポレーションに入社し、進研ゼミ高校講座の国語教材の企画・編集を担当。その後、高校1・2年生向けの国語・数学教材の企画・編集を経て、2012年に現・ベネッセ教育総合研究所に異動し、『VIEW21』高校版の企画・編集を担当。13年に編集長、18年に統括責任者となり、21年から現職。年間100名以上の学校教師を取材し、現場の実践を始めとする教育情報や学校教育のあり方を問うオピニオンを発信している。経済・金融教育にも関心があり、プライベートではその普及活動に力を入れている。1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者。

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