2025/01/20
学会発表報告「外国にルーツを持つ子どもが日本語で学ぶ力を身につける『日本語×教科』デジタル教材開発をめざした試み—国語科の教材のあり方を考える—」日本語教育学会 2024年度秋季大会@姫路市市民会館
1. はじめに
日本語教育学会 2024年度秋季大会(姫路市にて開催)の交流ひろばにて、ベネッセ教育総合研究所学習科学研究室主任研究員の森下みゆき、小野塚若菜が発表を行いました。以下、その内容を簡単にご紹介します。
2. 研究の背景
外国にルーツをもつ子どもは、日常会話に支障がなくなってからも、在籍学年の学習内容と実際に理解できる内容にギャップがあることが多く、学習が高度化・複雑化する小学校高学年から中学校で、その課題が顕著になります。一方、指導・支援にあたる教員や日本語指導者は、教科指導と日本語指導の双方に通じているとは限らず、また外国にルーツをもつ子どもが少ない散在地域では、支援者や専門家の確保が難しいといった状況があります。こうした課題に対して、教科の専門性、日本語の専門性が融合された日本語×教科のデジタル教材の開発が、解決策の1つとなり得るのではないかと考えています。
3. 目的
外国にルーツを持つ子どもの日本語学習と教科学習を支援し、「日本語で自ら学ぶ力」を身につけることができるデジタル教材の開発を目指しています。学習者(日本語のレベル、母語での既習・未習状況、教科内容の理解度等)に合わせた個別対応ができること、既に多くの学校でICT機器が支援に活用されていること、散在地域を含む日本全国に指導・支援を広げやすいことから、デジタル教材であることが重要であると考えています。今回の研究発表は、昨年度の中学校数学科での教材のあり方、教材素案に続き、国語科での教材のあり方を検討することを目的としています。

4. 教材のポイント・考え方の案
系統性に沿って学習の戻り先の設定がしやすい数学科に対して、国語科では学習内容の精査や戻り先をどのように考えたらよいか、そのヒントを得るために、外国にルーツをもつ子どもを対象とした国語科の授業見学や、指導者へのインタビューを行いました。そこから見えてきた、現場での国語科指導・支援の課題、それらの解決を目指す国語科教材のポイント・考え方の案は以下となります。
<現場での国語科指導・支援の課題>
- 学習者の日本語の力と教科書の難易度のギャップが大きい(cf.李,2016,2019※)
- 在籍学級での学習につなげたい。現状では、教科書やテストなど、同じもの(素材)を使うことで近づけたいと考えているが、学習者の日本語の力とそれらの難易度のギャップが大きい。
- 学習者の日本語の力に合わせて、在籍学年より下の学年の素材(教科書など)を使うと、発達段階・認知レベルに合っていないトピック・テーマになってしまう。
- 国語科の学習の目標・内容と日本語の学習の関係性が分かりにくい。
- 入試・定期テストに向けての指導・支援も必要。
<国語科の教材のポイント・考え方の案>
- 扱うテーマを対象者の発達段階の認知レベルに、読解テキストなどの素材を日本語の力に合わせる
- 素材は、教科書とは別に用意。英語の教科書のテーマ(ex.文化、環境、ユニバーサルデザイン等)などを参考に、発達段階にあったテーマ・題材を取り上げ、認知レベルに合わない内容は避ける。
- 学習者の日本語の力別に、3レベル(初期前半、初期後半、初中級)を設ける。また、各レベルで、学習者の日本語の力に合わせて、国語科と日本語の学習内容・量の重みづけを変える(ex.初級前半では、国語科の学習内容<日本語の学習内容)。
- 学習指導要領をもとに、国語科の目標を明確にする
- 国語科の学習指導要領(目標・学習内容)を参照し、学習すべき国語科の目標と学習内容を明確にする。
- 日本語の力に合わせて、国語科の学習内容の精査・調整をする
- 日本語の力に合わせて、国語科の目標と学習内容を精査・調整し、低次から高次へと学習が深まるように設計する(ex.「構成や表現の工夫」を学習する場合、具体例を含む文を読む→資料を用いた文を読む→作者の工夫を評価するといった順に学習する等)。
- 国語科の学習内容の中でも、読むこと・書くこと・聞くこと・話すことで軽重をつける(ex.話すことよりも、読むこと(書くこと、聞いて書くこと)をより多く扱う等)。また、他の教科学習や社会生活にもかかわりが深いことから、主に論説文(説明文)を扱う。
5. 交流ひろばでの実践者・研究者からの声
当日、会場では多くの実践者、研究者の方にご参加いただき、ご質問やご意見、ご助言をいただきました。以下、いただいた声の一部をご紹介します。
- 外国にルーツをもつ子どもが、国語科を通して、日本語の力を伸ばすことは必要。
- 国語科の学習に入る前に日本語の足場かけが必要。
- (支援の現場で)教科書の難しさに苦労している。
- 国語科の教科書の素材を、必ずしも用いる必要がないという考えに賛同。
- 教科書と別素材になることで、定期テストをどうするかなどが課題となりそう。
今後は引き続き、現場で指導・支援にかかわる方々のご意見を聞きながら、教材ポイント案を実際の国語科教材の素案として、具体化していきたいと考えています。