2024/12/20
第7回 習い事・学習塾について考える その3 教育費の状況
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 木村治生
その1では習い事の実態について、その2では学習塾の実態について確認をした。このレポートの最後に、そうした学校外の学びにかかる費用(教育費)の状況を検討する。世の中では、子どもの教育費負担の重さが課題になっているが、2015年から23年にかけての経年で見たとき、子ども1人当たりの教育費は増えているのかを確認するとともに、属性による教育費の違いを明らかにする。引き続き、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で実施する「子どもの生活と学びに関する親子調査」2015~23年の結果にもとづいて、今の学校外の学びにかかる費用の状況をみていこう。
教育費の経年変化や学年変化
図3-1は2015年から23年にかけての、子ども1人当たりの教育費の変化を学校段階別に示した。これをみると、小1~3生は11,000円から13,502円に、小4~6生は14,849円から16,393円に増加している。小学生は、支出額がわずかに増えているようだ。これに対して、中学生は17,028円から17,570円に、高校生は13,112円から13,406円へとほぼ横ばいで推移している。
教育費の変化を世帯年収別にみたところ、小1~3生では「800万円以上」の高年収帯で教育費が増加していた(図3-2)。他の年収帯ではほぼ横ばいで推移していて、「800万円以上」の世帯との差が広がっている。小4~6生ではいずれの年収帯もほぼ横ばいで推移している。ただし、小4~6生は他の学校段階に比べて、世帯年収による教育費の差がやや大きい。
続けて、同様に中高生について教育費の変化を世帯年収別に確認した。図3-3をみると、中学生では「800万円以上」の世帯で支出が増加する傾向があるのに対して、それ以外の年収帯では低下していて、世帯年収による差が拡大している。高校生は、「800万円以上」の世帯で支出がわずかに減少しており、差が拡大している様子はみられない。
学年別(図3-4)では、受験を迎える小6、中3、高3で支出が増加しており、通塾率(前回の図2-2)と同じ変化がみられた。小学生では、小6が17,315円でもっとも高く、中1でわずかに低下する。中学生では、中3がもっとも高くて22,595円になる。しかし、高1で10,114円とすべての学年でもっとも低い金額になり、高3にかけて再び17,259円まで増加する。これらはすべて全体平均のため、たとえば通塾している者に限定すると支出額は増える。
属性による教育費の違い
次に、支出額について、男女差と地域差をみてみよう。図3-5に示されているように、男女差はいずれの学校段階でも小さい。男女で教育費支出が大きく異なるということはないようだ。一方、地域差は居住する自治体の人口規模による差が存在する。すべての学校段階で「政令指定都市・特別区」の支出がもっとも多く、人口規模が小さくなるごとに支出額は減少して、「5万人未満」の支出がもっとも少ない。都市部ほど教育費支出が多く、たとえば小4~6生では「政令指定都市・特別区」と「5万人未満」で2倍に近い開きがある。
すべてのデータの最後に、教育費について、通学する学校の設置者(公立と私立・国立)による違いと世帯年収による違いを検討しよう(図3-6)。公私別については、小学生のうちは「私立・国立」に通う子どもの方が「公立」に通う子どもよりも支出が多く、小1~3生では2.2倍、小4~6生では1.8倍の開きがある。ただし、中学生になるとこの差はなくなり、高校生も公私差は相対的に小さい。小学生では、子どもを「私立・国立」に通わせる家庭の教育費支出が顕著である。次に世帯年収別による違いをみると、いずれの学校段階でも高年収であるほど支出が多い。「400万円未満」と「800万円以上」では、小1~3生で2.5倍、小4~6生で2.6倍、中学生で2.1倍、高校生で2.0倍の開きがある。こうした世帯年収による格差は、前回みた通塾率と同様である。
ここまで3回にわたって、習い事の実態(その1 )、学習塾の実態(その2 )、教育費の状況(その3)を概観してきた。全体に傾向は類似しており、経年では習い事率も通塾率も教育費支出も、ほぼ横ばい(小学生の教育費だけ微増)で推移している。男女差はほぼないが、居住する地域別では人口規模の大きい都市部ほど、世帯年収では高年収帯ほど、習い事や通塾が盛んで、教育費支出も多い傾向がみられた。ただし、学年別では習い事と通塾で違いがある。習い事率は小学生がもっとも高く、学校段階が進むにしたがって大きく落ち込む一方で、通塾率は受験を迎える学年で高く、中3がもっとも高かった。教育費支出は通塾率と同じ変化を示し、受験学年で高い傾向がみられる。受験に備えて通塾が増えるためだろう。
近年、教育費負担の重さが社会課題として指摘され、子育てのしにくさや不安感の高まりの原因とされている。教育費については文部科学省が2年おきに「子供の学習費調査 」を実施しており、これにより継続して変化を見ることができる。調査年度や学校段階、公立・私立によって多少の違いはあるが、子どもの学習にかかる費用は概ね増加傾向だ。一方で、習い事や通塾に関しては、信頼のおける継続調査は少ない。今回紹介した結果からわかるように、小学生では8割が習い事をしたり、中3では半数以上が塾に通ったりするなど、学校外で学んでいる子どもは少なくない。そこでは、学校では得にくい貴重な体験をしている子どももたくさんいる。どのような子どもがどのような学校外での学びを行っているのか、また、その機会を得られていないのは誰なのかを分析して、これからの学校外の学びのあり方を考えることが必要である。
近年、教育費負担の重さが社会課題として指摘され、子育てのしにくさや不安感の高まりの原因とされている。教育費については文部科学省が2年おきに「子供の学習費調査 」を実施しており、これにより継続して変化を見ることができる。調査年度や学校段階、公立・私立によって多少の違いはあるが、子どもの学習にかかる費用は概ね増加傾向だ。一方で、習い事や通塾に関しては、信頼のおける継続調査は少ない。今回紹介した結果からわかるように、小学生では8割が習い事をしたり、中3では半数以上が塾に通ったりするなど、学校外で学んでいる子どもは少なくない。そこでは、学校では得にくい貴重な体験をしている子どももたくさんいる。どのような子どもがどのような学校外での学びを行っているのか、また、その機会を得られていないのは誰なのかを分析して、これからの学校外の学びのあり方を考えることが必要である。