「STEAM教育」どう進める?

これからの時代に求められる理数系教育として、欧米などで提唱された「STEAM(スティーム)教育」が注目されています。科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の「STEM(ステム)教育」に芸術(Art)を融合させた教科横断的な教育のことです。中央教育審議会も、年末に公表した「新しい時代の初等中等教育の在り方 論点取りまとめ」で、STEAM教育を推進することを提案しています。

理数系に「リベラルアーツ」(教養)を含め

政府の教育再生実行会議は2019年5月の第11次提言で、人工知能(AI)などの技術が急速に進展した「Society(ソサエティー)5.0」時代に必要な力を育むものとして、「総合的な学習の時間」や高校の「総合的な探究の時間」、「理数探究」(新指導要領の新科目)で問題発見・解決的な学習活動の充実を図ることを提案しました。論点まとめは、これを受けたものです。

論点まとめでは、STEAM教育のAを狭い意味での芸術にとどまらず、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた幅広い範囲(リベラルアーツ=教養)で定義することを提案。そうなれば高校の総合探究や理数探究と▽実生活、実社会における複雑な文脈の中に存在する事象などを対象として教科等横断的な課題を設定する点▽課題の解決に際して、各教科等で学んだことを統合的に働かせながら、探究のプロセスを展開する点……など多くの共通点がある、と位置付けています。

一方で、「各教科等の学習も重要」だと強調。小、中、高校などの各段階を通して、各教科等の学習を円滑に接続すべきだとしています。

感動やドキドキ感も

探究学習やSTEAM教育をめぐっては、ちょうどNPO法人「理科カリキュラムを考える会」が先頃、シンポジウムのテーマとして取り上げました。同会は、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)でも知られる滝川洋二・ガリレオ工房代表(東海大学元教授)が理事長を務めています。

シンポでは海外の先進例として、英キングエドワード6世校のローレンス・ハークロッツ科学技術科主任が講演。同校の「探究に基づく科学学習」では(1)科学者のように考える(2)科学がどう機能しているかを理解する……を重要視しているといいます。実験を通した探究活動も徹底して行うため、大学進学後の研究にもスムーズに入っていけるといいます。

また、国立教育政策研究所の遠山一郎教育課程調査官(兼文部科学省教科調査官)は、これからの教育として▽誰もが感性や創造性を発揮し、自らの可能性を広げる▽教育内容を効果的に編成し、実施、評価、改善する▽小中高を通じて、自分で課題を設定して解決する……が求められていると指摘。「生徒の自己効力感や自己肯定感を高める場も設定してほしい」と要望しました。

具体的な実践例として、早稲田大学高等学院の小川慎二郎教諭は芸術の透視図法学習を物理と、神奈川大学附属中・高校の佐藤克行教諭は工学の「宇宙エレベーター」を物理や情報と融合させた授業を紹介しました。

パネルディスカッションで東京都府中市立浅間中学校の高橋和光指導教諭は、探究を通した対話や感動、ドキドキ感が生徒に多様な学びを与えるとともに、卒業後も長く記憶に残るような学習になると指摘しました。そんなドキドキ感が将来につながる学習として、STEAM教育が広がっていってほしいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※新しい時代の初等中等教育の在り方 論点取りまとめ
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1382996_00003.htm

※理科カリキュラムを考える会
http://www.rikakari.jp/

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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