身近な疑問に目を向けて 社会への興味・関心を引き出すには?

2020年4月から実施される新学習指導要領の方向性を受けて、中学入試や高校入試でも、身近な社会問題を題材とした問題が増えています。
しかし、「うちの子はあまり社会問題に興味がない」「自分の意見を言わない」といった保護者の声もよく耳にします。

社会と向き合い、考える力を伸ばすために保護者ができることは何でしょうか? 筑波大学附属小学校教諭で「小学校社会科授業づくり研究会」メンバーであり、『子ども教養図鑑 世の中のしくみ』(誠文堂新光社)の編集を担当した粕谷昌良先生に伺いました。

自分の意見に自信を持てるようになるには?

私たちの授業を見て、子どもたち全員が手を挙げて発言することに驚くかたが多いようです。皆が発言できるのは、知識を問うのではなく、もともと皆が知っていることやその場で共有した知識をもとに「あなたの考え」を問うているからです。大人でも、よく知らないテーマについては発言しにくいけれど、好きな趣味の話なら、いくらでも語れるのではないでしょうか。

それでも、自分の考えを口にするのが苦手な子はいて、先生や友達にどう思われるか不安だという子が多いようです。そういう子にはまず自信をつけさせてあげることが大切です。自分の考えをノートに書いてもらい、毎回コメントを返していくうちに、「どんな意見も受け入れられる」と安心でき、徐々に自信を持って発言できるようになっていきます。
ご家庭でもぜひ、「正解」を用意せず、お子さまの考えを、興味を持って聞いてあげてください。

共感を大切にしつつ、誰かを悪者にしないこと

私たちは、多角的に考える力を育てるため、対立する価値観を含む題材を選んで授業を行っています。異なる立場に立つ力を育むには、「どちらの意見もわかる」と感じ、価値観を揺さぶられ、迷う体験が必要なのです。その場合、具体的な数値など客観的な事実と、子どもたちの実感や共感を呼び起こす体験や資料とのバランスが大切です。

たとえば、『世の中のしくみ』の本で取り上げている「世界中で増えている難民、日本でも受け入れる? 受け入れない?」というテーマ。難民キャンプでの暮らしを知ることは共感につながります。「ひどい!」「困っている人たちは絶対に助けるべきだ」と、怒りなどの感情が湧くことは深い問題意識につながり、よいことです。しかし、それだけでは難民の受け入れに反対する人や国を「悪者」と決めつける、一方的な見方を助長することになります。
そこでこの本では、難民受け入れに消極的な日本の事情や、受け入れた国で起きた問題についても、子どもたちの理解を得られるように提示しています。

ご家庭で身近な問題やニュースについて話題にするとき、保護者のかたも、「悲しい事件だね」「私もひどいと思う」などと、ご自分の考えをお子さまに伝えてかまわないと思います。でも、誰かを悪者にして終わるのではなく「どうしてこんなことが起きたのかな」「この人はなぜこうしたんだろう」などと問いかけ、ぜひ違う立場にも目を向けさせてあげてください。その上で、「自分たちにできることは何か」と一緒に考えていただけたらと思います。

「自分たちで決める」体験を大切に

おうちの中での約束事は、ぜひお子さまと話し合って決めてください。たとえばゲームをする時間。一方的に大人が「一日○分」と決めても子どもは納得しませんが、「一日2時間はやりたい」「でも長時間やると目が悪くなるよ」などと話し合ってお互いが納得できる答えを見つければ、子どもはそれをよく守ります。互いの意見を尊重しつつ、「ここは譲れる」「ここは譲れない」と話し合いながら合意に至る経験は、社会科の目標である「公民的資質」の原点となります。

社会問題のほとんどは、環境と経済、多数の幸福と個人の権利など両立しにくい要素が含まれており、白黒のつけがたいものです。地方自治体、国など関わる人が多いほど利害関係も複雑になり、全員の合意は難しくなります。しかし、家庭や学級など小さな単位の中でこそ、ていねいに話し合って全員が納得できる答えを見つけるプロセスを大切にしてほしいと思います。話し合いには時間がかかりますが、子どもたちの中で多角的に考える力は確実に育っていきます。

「その問題、片方の意見だけじゃ決められないよ。違う立場の意見も聞いてみなきゃ」。「話し合う」「異なる立場に立つ」授業を続けているうち、クラスの子どもたちはこんなことを言うようになりました。

社会の「希望」に光を当てて

世の中には解決の難しい問題が数多くあります。ある立場から見ると、別の立場は「悪者」に見えることがありますが、実際はそれぞれの立場で問題を解決しようと奮闘している人たちがたくさんいるのです。

保護者のかたはぜひ、さまざまな立場の「よい面」に光を当ててあげてください。「このおじさんたち、大変だけどがんばっているなあ」「世の中って捨てたもんじゃないなあ」「私も将来、こんな大人になりたい」……子どもたちがそんな希望を持つことができ、民主的な社会の形成者へと育ってくれること。それが社会科の究極の目標かもしれません。

***書籍紹介***


プロフィール

粕谷昌良

筑波大学附属小学校教諭。日本社会科教育学会員。2020年1月より、小学校社会科授業づくり研究会代表。

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