AI時代のICT教育、来年度どうする?

人工知能(AI)が今ある仕事の半分を入れ替えてしまうなど、ICT(情報通信技術)をはじめとした先端技術によって、社会が大きく変わる可能性が指摘されています。

そうした時代に備えて、政府は「Society(ソサエティー)5.0」(超スマート社会)への積極的な対応を進めており、文部科学省も来年度概算要求に、ICT教育やAI人材育成などの事業を盛り込みました。一方で学校の現状に関しては、気になる数値も発表されています。

ビッグデータで「誰一人取り残さない」教育へ

小学校のプログラミング教育が関心を集めていますが、これもSociety5.0時代に対応して、小学生のうちからICT教育を強化し、将来、AIに使われるのではなく、AIを使いこなそうとする人材を多く育てようとしているからです。

そこで文科省は概算要求で、「GIGAスクールネットワーク構想」(要求額374億7,300万円)を打ち出しました。学校の全教室を高速・大容量の通信ネットワークでつなぎ、集まった「教育ビッグデータ」を、先生方の経験知と科学的視点の両面から分析し、誰一人取り残さない教育や、特異な能力を持つ子どもにも公正にチャンスを提供する教育を目指します。STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育はもちろん、デジタル教科書やAIドリルが導入しやすくなる効果もあります。

また、「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」に前年度比7.6倍の19億4,900万円を計上。企業などと協働して学校に先端技術を導入して効果を実証する他、遠隔教育システムの導入、1人1台のパソコン環境や高速ネットワーク環境による効果的な教育の方法を研究したい考えです。

概算要求に先立って文科省は、大学などの教育研究用に活用されてきた「学術通信ネットワーク(SINET)」を、小・中・高校などにも開放することにしました。これによって学校のネットワーク環境が飛躍的に整備されるとともに、大学との連携で、学校現場に役立つ研究や技術の開発が一層進むことが期待されています。

依然進まぬ学校のコンピューター整備

しかし、概算要求と前後して発表した「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(速報値)」によると、公立学校で2019年3月現在の教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数は5.4人と、前年同期に比べて0.2人しか改善しておらず、目標としていた3.6人(各学校に(1)コンピューター教室40台(2)各普通教室1台、特別教室6台(3)設置場所を限定しない可動式コンピューター40台……で算出)には遠く及びませんでした。

それでも新しく掲げた目標では、児童生徒用のコンピューターを3クラスに1クラス分程度(どのクラスも1日1コマ程度1人1台で学習できる環境)整備することを目指し、2018年度から5年間、毎年1,805億円を地方交付税で措置する整備計画を進めています。

しかし交付税措置では、地方自治体が公立学校のICT環境整備にしっかり予算を組んでくれなければ、何にもなりません。また、私立は独自に予算を確保しなければなりません。
概算要求では、数理・データサイエンス・AI教育を全国の国立大学に展開することなども打ち出しています。進学先に備えるためにも、高校までの段階で、しっかりICT環境を整備して、AI時代に備えた教育を充実してほしいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※2020年度文部科学省概算要求等の発表資料
http://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/r01/1420668.htm

※学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(速報値)について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/08/1420659.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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