「EdTech」で未来の教室はどうなる!?

政府は、教育(Education)と技術(Technology)を融合させた「EdTech(エドテック)」を推進しています。人工知能(AI)など先端技術がどんどん進化する中、教育はどうなるのでしょう。経済産業省が先頃開催した事業成果報告会から、「未来の教室」の姿をのぞいてみましょう。

授業を効率化、その分を協働学習に

経産省は2017年度補正予算に基づき、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に委託して、(1)「未来の教室」創出(2)未来の先生/校長/学校経営者-教育イノベーター創出プログラム(3)「現実の社会課題」を題材とした実践的能力開発プログラム(4)産業界が抱える社会課題を解決するための能力・スキル開発……のテーマで、幼稚園から大学、リカレント教育までを対象とした企業などの提案による49件を実証事業として採択しました。就学前・初中等・高等関連事業の報告会では、このうち5件の成果が紹介されました。

このうち凸版印刷は、映像やデジタル教科書・ドリルを組み合わせた独習サービス「やるKey」を静岡県袋井市立小学校で実証。授業に取り入れることで、習熟度が上がっただけでなく、授業時間も短縮でき、その分を協働学習に充てられたといいます。
広域通信制の「N高校」を設置する学校法人角川ドワンゴ学園は、世界保健機関(WHO)や国際研究プロジェクトATC21Sの提言を基に、社会心理学や精神医学も取り入れながら「21世紀型ライフスキルプログラム」を開発し本格実施しようとしています。AIを活用した人材育成サービスを提供するInstitution for a Global Society社は、自動車業界で求められる人材を学校教育で育成するため、工場の多い三重県の高校で問題解決学習(PBL)を実施しています。 

個別最適化とSTEAMを実現

経産省商務・サービスグループの浅野大介・教育産業室長は報告会で、事業の狙いを、学びの「個別最適化」と「STEAM化」を同時に進めるものだと強調しました。個別最適化とは、教科学習を一人ひとりに合わせることにより短時間で効果的な学びを実現しようとするもの。STEAMはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字を取ったものです。

こうした考えは、2018年6月に同省の「『未来の教室』とEdTech研究会」がまとめた 第1次提言で打ち出されています。STEAMと個別最適化をEdTechで実現することによって「学びの生産性」を上げ、民間教育や公教育の姿を学習者中心に変えることで、超高齢社会など課題先進国とも言われる日本を支える人材を育成しようとしています。
一方、文科省も同時期に、省内タスクフォース(特別作業班、TF)が「Society 5.0 に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」と題する報告書をまとめ、(1)公正に個別最適化された学び(2)基礎的読解力、数学的思考力などの基盤的な学力や情報活用能力をすべての児童生徒が習得(3)文理分断からの脱却……を提言しています。

小学校教育の現場は、教育用コンピューターの整備すら遅れているのが現状です。しかし社会全体に技術革新が及んでいる中、次代を背負う子どもたちに必要な資質・能力を身につけてもらうためにも、ハード・ソフトの両面で最先端の教育を展開してほしいものです。

(筆者:渡辺敦司)

※経済産業省 「未来の教室」ポータルサイト
https://www.learning-innovation.go.jp/

※文部科学省 Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会

http://www.mext.go.jp/a_menu/society/index.htm

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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