国立大学の授業料、ついに独自値上げの時代に?

 東京工業大学が、2019年度以降に入学した学生の授業料を、年53万5,800円から約10万円引き上げて、63万5,400円とすることを決めました。
国立大学は2004年度の法人化以降、一定範囲内なら独自の判断で授業料を増減できるようになっていたのですが、これまでは全大学が文部科学省の定める標準額に設定していました。東工大が先じたことで、国立大学も独自に授業料を設定する時代に突入しそうです。

学部段階は15年間、横並びのまま

 法人化に伴い、国立大学は、運営だけでなく財政でも独自性を発揮できるようになりました。授業料も、2004年度からは標準額の10%、07年度からは20%を上限に、増減させることが認められています。
しかし、現在でも一部を標準額と異なる額に設定している大学は7大学(うち5大学は引き下げ)にすぎず、それも大学院だけです。つまり学部段階では、法人化から15年たっても横並びのままでした。

 東工大は、国内のみならず積極的に海外展開などを行い、2018年度には世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれる「指定国立大学法人」(5大学)の一つにも選定されました。創立150周年を迎える2030年には、世界トップ10のリサーチユニバーシティ(研究大学)となることを目指すとしています。今回の独自値上げも、教育の環境と内容をさらに充実させる「東工大モデル」の教育を実現するためだとしています。
 一方で、学生が経済的状況により東工大を諦めることがないよう、新たな給付型奨学金も創設したい考えです。

財政基盤の確立へ法人統合も検討

 法人化以前の国立大学は、国(文部科学省)の直轄でしたから、文科省がまとめて予算要求を行ってきました。しかし法人化後は独立採算制となり、国からの運営費交付金や補助金が3分の2と多額を占める一方、授業料収入に15%ほどを依存してきました。しかも運営費交付金は、国の財政難を少しでも解消したい財務省に押し切られる形で、予算折衝による削減傾向が続いており、その分を寄付金や事業収入など独自財源で穴埋めしなければなりません。
 ただ、教員養成大学をはじめとして、研究より学生の教育を主とする大学では、独自財源の確保も容易ではないのが現状です。今後、主な入学年齢である18歳人口が減少してくれば、各国立大学の財政運営はますます厳しくなることは避けられません。

 一方、文科省は中央教育審議会の提言に基づき、これまでの1国立大学1法人制を改め、一つの国立大学法人が複数の大学を傘下に置く「アンブレラ方式」を導入することを検討しています。制度化前にもかかわらず、既に▽名古屋大学と岐阜大学▽帯広畜産大学と小樽商科大学、北見工業大学▽静岡大学と浜松医科大学▽奈良女子大学と奈良教育大学……が法人統合に向けた協議を進めています。それだけ財政基盤の確立が急務だということの表れでしょう。

 もちろん法人化されたとはいえ「国立」大学である以上、安易な授業料引き上げは歓迎できません。しかし教育・研究の充実には、ますます財源が必要になることも事実です。「真に必要な子どもたち」(安倍晋三首相)に限った高等教育無償化も本格的に始まりますが、学生の経済的支援に関して総合的な対策が望まれます。

(筆者:渡辺敦司)

※東京工業大学「2019年度以降入学者(学士課程・大学院課程)の授業料を改定」
https://www.titech.ac.jp/news/2018/042337.html

※国立大学の収入構造(財務省ホームページ)
https://www.mof.go.jp/zaisei/matome/zaiseia271124/kengi/02/04/kokuritsu01.html

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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