「主体的・対話的で深い学び」で授業・家庭学習はどう変わる? 学習指導要領改訂のポイント③

新学習指導要領のキーワードとなっているのが「主体的・対話的で深い学び」です。
新学習指導要領作成の中核的メンバーであり、全国の学校の先生からも「今回の改訂の必然性がよくわかる」という感想が寄せられている『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)の著者・奈須正裕先生に、これからの授業や家庭学習がどう変わっていくのかについてうかがいます。

様々な「正解」から学び合う

知識・技能を身につけるだけでなく、それらを自分らしく、自在に活用して様々な問題解決に役立てる力は、受け身の学び方では育ちません。
新学習指導要領は、そのような「資質・能力」を育成するために必要な学びの在り方を「主体的・対話的で深い学び」としています。「アクティブ・ラーニング」はこれとほぼ同義ですが、ディベートのような特定の指導法を指すと誤解されやすいため、この表現が使われるようになりました。

従来の授業では、正解がひとつに決まっていて、誰が早くそこにたどりつけるかの競争になりがちです。しかし、算数の問題の解き方を班ごとに説明してもらうような授業の場合、「正解」はひとつには決まりません。「A班の説明はいちばん楽しくてわかりやすい!」「でも、答えの出し方が正確にわかるのはB班じゃないかな」と、子どもたちの感想はいろいろに分かれます。面白いのは、「じゃあわかりやすいのと正確なのはどっちがいいの」と尋ねると「どっちもいい!」「わかりやすくて、正確な説明を考えればいいんだ」といった答えが返ってくることです。自分にはない、仲間の良さを認めて学び合っていくんですね。もちろん、算数の問題そのものには正解がありますが、最初うまく正解が出せなかった子も、仲間と一緒にじっくり考えて、なぜそうなるのかを理解しやすくなります。その意味で、理解が遅いからと不安や劣等感を抱いたり、逆に仲間を見下すようなことも少なくなるでしょう。

「少なく教えて豊かに学ぶ」方向へ

上記のような授業の進め方だと、どうしても時間がかかるため、授業時間が足りなくなるのではと心配されるかたもいらっしゃるかもしれません。今回も学習項目を減らすかどうかが議論されましたが、学力低下を懸念する声もあって見送られました。
ただし、国際的にみると、知識・技能の習得だけでなくそれを活用する授業に代えた場合、学習項目は少し減らすのが一般的です。このような授業を先行して行っている欧米諸国ではLess is More、「少なく教えて豊かに学ぶ」という考え方が根付いています。

たとえば理科なら、実験のしかたやデータの扱いなど、単元が変わっても共通する手法や考え方があるので、それらを自在に活用できる力を身につけていけば、未知の対象に対しても科学的なアプローチができるのです。目次レベルで数多くの項目を知っているより、科学的なものの見方や考え方を身につけることのほうが大切です。また、各教科の基礎となる考え方を身につけることで、学年が上がるにつれ、一つひとつの単元を学び取るスピードは速くなっていくといわれています。
最初からなかなか理想通りにはいかないと思いますが、今後は日本の授業も「少なく教えて豊かに学ぶ」方向へ向かっていくでしょう。

機械と人間の仕事を仕分けし、教育を人間化すること

幼稚園や保育園では、好きなように好奇心や創造力を働かせて、仲間と遊びながら学ぶことが当たり前です。ところが、小学校に上がったとたん「お口にチャック」「手はお膝」などと指導され、先生に当てられるまではしゃべってはいけない授業形式になじめなかったお子さんも多かったのではないでしょうか。
従来型の授業は、同じ知識を効率的に学ばせることには役立ちましたが、子どもの思考力や創造力を育むには不向きでした。本来、人間は機械的な暗記や計算より、自分で工夫したり納得したりしながら、考えを伝え合い、仲間と認め合いながら学ぶほうが好きだと思います。その学び方を素直に実践しているのが幼児教育です。
新学習指導要領は、小学校以降も幼児教育に近いやり方で、全ての子どもが生まれながらに持っている学ぶ能力にさらに磨きをかけ、伝統的な学力と新しい学力を上手に保証することを目指しています。

また近年、「今ある仕事の半分近くがAIに取って代わられる」といわれるようになりました。暗記や単純作業は、最もAIが得意とする分野です。機械がすべきことと人間にしかできないことを仕分けし、人間にしかできないことをより豊かに学ぶ「教育の人間化」が、新学習指導要領の目指す理想の姿だと思います。

授業が変わると家庭学習も変わってくるでしょう。保護者のかたが勉強を教えにくいといった面もあると思いますが、お子さまの学んでいることにぜひ興味を持って見ていただき、「自分ならどう説明しようかな」などと、一緒に考えることを楽しんでいただければ、そして「考えるって楽しいね」などと、感想を言葉にしていただければと思います。「お父さん、お母さんも楽しいんだ」「私ももっと勉強を楽しもう」と子どもたちが思ってくれたら、こんなに喜ばしいことはありません。

プロフィール


奈須正裕

上智大学総合人間科学部教育学科教授。新学習指導要領の作成に携わり、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会をはじめ、教育課程企画特別部会、総則・評価特別部会などの委員として重要な役割を担う。著書に『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)など。

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