指導要領に「鎖国」復活…どう考えればよい?

次期の学習指導要領(小学校は2020<平成32>年度から、中学校は21<同33>年度から)が、3月末に告示されました。そこでは歴史教育をめぐって、2月の告示案で江戸時代から削除された「鎖国」という表記が復活し、「聖徳太子」も小学校で本名の「厩戸王(うまやどのおう)」を外すなどの修正が行われました。どう考えればよいのでしょうか。

教えやすさ=学びやすさに配慮

政府の重要な決定に関しては、広く国民の意見を聴いてから正式に決める「パブリックコメント」(意見公募手続、パブコメ)が行われています。今回の指導要領案も、2月14日から3月15日までの間に1万1,210件の意見が寄せられました。主な意見に対しては、文部科学省が114項目にわたって、理由とともに受け入れの可否を回答しています。

「鎖国」は2月の案で、「幕府の対外政策」に替えていました。そもそも「鎖国」は当時使われていた言葉ではなく、幕末から明治時代に「開国」との対比で使われたものでした。幕府の管理下で一定の交流や交易が行われていたことも反映させ、改めるよう提案したものです。

これに対して、パブコメに反対が寄せられると、文科省は、▽これまでの学習との継続性や、幕末における「開国」との対応関係に配慮する▽「対外政策」という表記では、内容が理解しにくい……という理由で、「鎖国などの幕府の対外政策」(中学校)というように、表現を復活させました。

一方、聖徳太子は、小学校で「聖徳太子(厩戸王)」、中学校で「厩戸王(聖徳太子)」とする案を示していたのですが、これにも「教えにくいばかりか、児童・生徒が混乱し、理解の妨げとなる」といった意見があり、文科省は、これを受け入れて「聖徳太子」に統一。ただし中学校では、「厩戸皇子」(「古事記」「日本書紀」の表記)が後に聖徳太子と称されるようになった経緯を、史実として扱うよう明記しました。

もっとも高校では、既に鎖国や聖徳太子を強調しない教科書が増えています。
今回の<復活>は、あくまで小・中学校の教員の教えやすさ=子どもの学びやすさに配慮したものと言えます。

重要なのは丸暗記ではなく「深い学び」

ここで注意したいのは、次期の指導要領が「何を教えるか」からの転換を図っていることです。子どもが「何を学ぶか」にしても、「『何を知っているか』にとどまらず『何ができるようになるか』にまで発展させることを目指す」(2016<平成28>年12月の中央教育審議会答申)ものです。

用語を丸暗記することが重要なのではありません。なぜ江戸幕府が海外との交流を制限する政策を取り、それが260年余りの間、国内にどのような変化を与え、さらには、どうして明治維新に至ったのか、その時なぜ「鎖国」と呼ばれたのかまで考察する必要があります。聖徳太子も、厩戸王という人がなぜ死後に聖人視され、後々に信仰が膨らんでいったかを理解することは、日本文化を考えるうえでも重要です。そうした学習が、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)のうちの「深い学び」につながります。

過去の歴史を見つめる目を養ってこそ、今という時代を多角的に見つめることができます。ますます海外の人たちとの交流が活発になる子どもたちにとって、自分なりの歴史認識を持つ力を付けることは、未来を考えるうえでも不可欠だと言えるでしょう。

※学校教育法施行規則の一部を改正する省令案並びに幼稚園教育要領案、小学校学習指導要領案及び中学校学習指導要領案に対する意見公募手続き(パブリックコメント)の結果について
https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000878&Mode=2

※中教審答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(2016年12月)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1380731.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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