第6回:どう変わる?大学入試問題。どう変える?進路選択の意識

「読んで解釈できるか、知識が習得できているか」を問う問題が多かった、これまでの大学入試問題。2020年から予定されている大学入試改革によって、「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力」も重視されるようになり、出題形式が新しくなったり、入試で選抜に使う材料が多様化したりなど、さまざまな変化が予想されます。そこで、今度の改革によって大学入試がどのように変わるのか、今から何を備えればよいのか、ベネッセ教育総合研究所の鎌田恵太郎がお話しいたします。

●新しいテストでは“根拠を示して主張する力”が重視される

今度の改革の目玉は、センター試験に代わって大学入学希望者学力評価テスト(仮称)が導入されることです。この新しいテストでは、国語と数学でセンター試験にはなかった記述問題が取り入れられます。特に変化が大きいのは国語。記述問題といっても、「傍線部が指す内容を書く」というような、答えが決まっている問題を指しているわけではありません。例えば、問いに対する自分の主張を例や根拠を示して論述する力等が問われます。論理性・文章の構成力・文章の正しさといった観点で評価されると考えられます。記述式問題では80〜300字程度の文字数が要求されると想定しておくべきでしょう。また、マーク式の問題もこれまで以上に思考力が必要な設問が増えるため、全体的にセンター試験よりも難易度が上がることが予想されます。
英語の試験は、これまでの2技能(聞く・読む)から4技能(聞く、読む、話す、書く)をはかる試験にすることが検討されています。スピーキングやライティングの試験方法は、GTECなどの民間検定試験の活用も含め、現在も検討が続けられています。

新しいテストの実施時期は、当面は従来通り1月になる予定です。複数回実施も議論されていますが、今のところは年1回の実施が有力です。また、CBT化(コンピュータを使った試験)も検討されていますが、実施環境整備の課題や今の高校生のICTスキルなどの問題があり、2020年の時点では見送られることになっています。

●多面的な能力や適性を評価する試験へ

個別試験や私立大学の試験は、一般入試、推薦入試、AO入試に整理・大別されます。一般入試は学力試験が重視されますが、より思考力や表現力といった課題解決基礎力に重点が置かれます。加えて各大学の教育方針に応じて、必要な側面を評価するための選考材料が加えられます。推薦入試は高校の学校長の推薦と調査書で判定する入試で、学力試験は原則として免除されます。今後、調査書はこれまでのように教科評定平均値、いわゆる内申点だけではなく、記述項目を増やして、多面的な力を評価する材料として使用されます。また、AO入試は学習意欲、目的意識、適性などを中心に、基礎学力を含めて、多面的・総合的に判定することになります。

そして、各大学には今まで以上にどのような教育目標を掲げ、どんな学生に入学してほしいかなどを明らかにすることが求められます。それぞれの大学は入学後に必要となる学力や意欲・態度を評価するため、目的に応じて一般・推薦・AOといった入試方式を用いて、教科試験、小論文、面接、集団討論、高校での活動歴、大学での学習計画書等必要なものを組み合わせて入試を行うようになります。
このように大学入試の多様化は加速する流れにあり、入試方式全体の比率でみると、今後は学力試験のみで合否を決める定員比率は下がっていくことが予想されます。

●大学のカラーが明確になり、より主体的な大学選びが必要に

今回の大学入試改革は、高校教育改革・大学教育改革と合わせて行われます。先ほど、各大学では教育目標や学生に求めることを明確にしなければならないと述べました。受験する側はそれらを参考に、大学を選ぶ際、「本当に自分が社会で活躍する力を身につける場になりうるのか」厳しい目で選ぶことが必要になります。そこで参考になるのが、各大学が定める次の3つのポリシーです。

<大学の3つのポリシー>
・アドミッションポリシー(大学に入学してほしい学生像の方針)
・カリキュラムポリシー(教育課程の方針)
・ディプロマポリシー(学位授与の方針)

各大学が改めてこれらを明確にすることで、受験生は大学のホームページや学校案内などを参考にし、今までよりも主体的な大学選びができるようになります。なかでもアドミッションポリシーは入試で問われる内容にも反映されます。どのような学力試験問題が出されるのか、どんな判断材料が使われるのかを通して、大学が伝えたいメッセージを感じ取ることができるようになるはずです。

●言語能力を高め、自分の将来に目を向ける

いま中学2年生のお子さんから、今度の大学入試改革のもとで新しい入試に挑むことになります。「思考力・判断力・表現力」をはかる試験に対応するには、今のうちから言語能力をしっかり身につけていくことが大切です。今後は学校でも言語能力の育成により力を入れていくことになりますが、ご家庭でも夕食時に家族で今日のニュースについて話をするなど、“家庭内アクティブ・ラーニング”を積極的に行い、自分の考えを伝える力を育んでほしいですね。また、言語能力の中でも記述力は、段落構成の仕方などの文章の書き方だけではなく、さらに文章の構成力・論理的な表現力等高度なスキルが必要です。中学生までは、文章を読んで解釈したり、考えたりする際の土台となる知識の体系的な理解を固めるとともに、文章を書くスキルを身につけましょう。
今後の高校教育は、知識の習得と言語能力育成のバランスが見直され、言語活動を通じた言語能力の育成が重視されることになります。社会に出れば、言語能力や主体的に学ぶ態度が重要になるからです。

ここまでご説明した「入試で求められる多様な能力」をすべて高水準で備えることは難しいでしょう。しかし、高校以降の人生においては、本来人によって求められる力がより多様化するはずです。各教科の学力も、進路によって求められる領域や水準は異なります。社会に出てから各領域における専門性がこれまで以上に求められる現代では、一人一人の適性を考えることも重要な要素です。適性に応じた進路を見い出し、必要な能力を身につけて進学できれば学ぶ意欲も高まります。
これからは、自分のやりたいことや適性・能力を見極めて、それを実現できる大学を選ぶことが必要になります。そのためには、中学生のうちから自分の将来のことや適性について、少しずつ考えておくとよいでしょう。また、高校も単に偏差値や大学合格実績だけで選ぶのではなく、教育内容や自分の進路、その先の未来まで見据えて志望校を選ぶことが大切です。

第7回では、大学入試改革によって高校での授業や高校入試がどう変わるのかを解説いたします。
(取材日:2017年2月15日)

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プロフィール


鎌田恵太郎(かまた・けいたろう)アセスメント研究開発室長

1986年福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社。進研模試副編集長、学力分析システム(現スタディーサポート)開発責任者を経て、2003年ベネッセ教育総研主任研究員、2005年ベネッセ教育研究開発研究センター主席研究員、2013年ベネッセ教育総合研究所アセスメント研究開発室室長/主席研究員。

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