まだ遠い? パソコン「1人1台」・電子黒板「教室に1台」時代‐渡辺敦司‐

パソコン(PC)やスマートフォン(スマホ)などの情報通信技術(ICT)機器は、今や仕事や日常生活に欠かせなくなりつつあります。学校でもタブレットPCを含め、学習効果を高めるだけでなく、学びの形態や質を変え、これからの時代を生きる力を育成する可能性を秘めていることは、これまでもたびたび紹介してきました。しかし全国どこでも授業で使いたい時に使える環境になるには、まだまだ先が長いかもしれません。

学校における情報化の実態については、文部科学省が毎年調査(外部のPDFにリンク)を行っています。一般社団法人日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)の森本泰弘事務局長は同省の「ICTを活用した教育の推進に関する懇談会」のヒアリングで、政府目標などと比較しながら、今後どのくらいの機器整備が必要になるかを発表しました。

文科省調査によると教育用コンピューターは2012(平成24)年度で6.5人に1台となっており、台数に換算すれば191万台です。一方、2013(平成25)年6月に閣議決定された第2期教育振興基本計画(外部のPDFにリンク)では、計画期間中(2017<平成29>年度まで)に3.6人に1台とすることを目標に掲げています。コンピューター教室に40台、普通教室に各1台、特別教室に6台、どのクラスなどにも持ち運びできるコンピューターを40台整備するには、それくらいが必要だというわけです。しかし、それには350万台が必要になるといい、「だいぶがんばらないと達成できない数値だ」と森本事務局長は指摘しました。文科省は「教育の情報化ビジョン」(外部のPDFにリンク)で、授業で使いたいときにすぐ使えるよう、2020(平成32)年までに「1人1台」の整備を打ち出していますが、児童・生徒全員分となると1,250万台であり、12(同24)年度の6.5倍と、「がんばる」どころか気の遠くなる話です。
電子黒板についても、2012(平成24)年度は1校に2台まで増えたのですが、台数にして7万台余り。しかし振興計画が求める1学級に1台を実現するには47万台が必要であり、あと40万台近く増やさなければなりません。

先の記事で、タブレットPCがもはや「文房具」になりつつある動きを紹介しました。しかし、ごく一部の自治体にとどまっていることも確かです。公立学校の場合、ICT機器の整備費は地方交付税で措置(外部のPDFにリンク)されており、政府目標の達成に必要な額として4年間で6,712億円を計上しているのですが、補助金と違って交付税をどう使うかは自治体の裁量に任されており、橋や道路など他の財源に使われても国は文句を言えません。地方でも財政が厳しい中、先に紹介したような先進自治体と、そうでないところの差が広がってしまう可能性もあります。
現行制度上、ICT機器の整備は自治体の役割ですから、教育の情報化に積極的になってもらうよう、学校関係者や有権者が声を上げていくことも求められるでしょう。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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