求められる「起業家教育」 希望者激減で-斎藤剛史-

政府がまとめた2014(平成26)年版「中小企業白書」で、起業を希望する人が年々減少していることがわかりました。安倍政権は2013(平成25)年6月の「日本再興戦略」の中で、経済の活性化などのため、起業の件数を現在の2倍に増やす方針を盛り込んでおり、起業家の育成を重視しています。このため同白書は、起業する人を増やすために小学校から大学までの「起業家教育」の充実を図るよう求めています。「起業家教育」とはどのようなものなのでしょうか。

同白書によると、起業希望者は1997(平成9)年に166万5,000人だったものが、2002(同14)年は140万6,000人、07(同19)年は 101万4,000人と減少し、12(同24)年は83万9,000人と97(同9)年のほぼ半分にまで減っています。起業希望者の減少の背景には、長期的不況や雇用形態の変化による安定志向の強まりや、「ハイリスク・ハイリターン」という起業イメージの悪化などが挙げられます。
実際、被雇用者と自営業のどちらを選ぶかという選好度調査では、米国は50.9%が自営業を選択したのに対して、日本は22.8%にすぎませんでした。また、開業コストなど起業環境の国際比較では、シンガポールが3位、香港が5位、韓国も34位なのに対して、日本は120位と他のアジア諸国にも後れを取っています。外国に比べて起業に対する社会的評価が低く、起業の環境も不十分というのが日本の実情のようです。

これに対して同白書は、「起業意識の変革」を今後の大きな課題の一つに挙げています。たとえば、起業に無関心な者と起業を志向する者を比べると、自分の周囲に自営業や起業に携わる者がいたかどうかで大きく意識が左右されていると分析し、子どもたちに早いうちから起業に関心を持ってもらうための「起業家教育」が重要であると提言。具体的には、小学校では伝記や体験談、社会体験などをとおして起業家と接点を持たせ、中学校・高校・大学などでは起業家のもとでのインターンシップのほか、簿記やマーケティングなど起業に必要な実務的なことを教育すべきだとしています。さらに、あまり芳しくない起業へのイメージについては、「ハイリスク・ハイリターン」なものだけが起業ではないとして、自作した日用品などを委託販売するなど「小さな起業」の実例をいくつも紹介。起業家教育について「人生の早い段階で起業家に触れることで、将来の選択肢の一つとして起業を意識することができ、雇用されるだけではなく、起業を含めた、より多様性のある職業選択が可能になる」と説明しています。

企業などに就職して被雇用者となるだけが職業選択ではないということを子どもたちに示しておくことは、将来の進路選択や生き方をより豊かなものにできる可能性があります。そのような視点で「起業家教育」という提言を考えてみることも必要ではないでしょうか。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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