海外留学の減少は「内向き」のせいだけ? -斎藤剛史-

就職活動などを通して企業が求めている人材の一つに「グローバル人材」が挙げられます。大学を中心にグローバル人材の育成も課題となっており、政府や経済界も海外留学を奨励しています。しかし、海外の大学などに留学する学生は、6年連続して減少していることが文部科学省の調査でわかりました。やはり、最近の日本の若者の間では「内向き志向」が強まっているのでしょうか。

文科省が経済協力開発機構(OECD)などの統計を基に集計した結果(外部のPDFにリンク)によると、2010(平成22)年に大学など海外の高等教育機関に留学している日本人学生は5万8,060人で、前年より1,863人(3.1%)減少しました。海外の大学などへの留学者数のピークは2004(平成16)年の8万2,945人でしたが、それ以降、6年連続して減少しています。
これについては、少子化により若者の数が減っているので、海外留学者数も年々減少するのは当然との見方もあります。ところが2010(平成22)年と留学ピーク時の2004(同16)年を比べると、海外留学者は30.0%も減少しているのに対して、大学進学率が上昇したため大学生(大学院を含む)の数は逆に増えています。このことからも、海外の大学などに留学しようという若者が減っていることは間違いないでしょう。

一方、グローバル人材の育成は、国や経済界にとって急務となっており、海外留学を積極的に奨励しようとしています。そのようななかで政府や経済界が強く問題視しているのが、若者の内向き志向の強まりです。
しかし現在の大学生は、3年生の12月から就職活動が本格的に始まるため、海外留学すれば通常の就職活動に大きな支障が出ます。内向き志向の高まりは事実かもしれませんが、就職活動が年々厳しさを増すなかで、若者の内向き志向を批判するだけでは解決にならないでしょう。
また、東京都は2012(平成24)年度から都立高校生らを対象とした「次世代リーダー育成道場」の事業として海外留学の支援を開始しましたが、150人の定員に対して4倍以上の642人の応募があり、担当者を驚かせました。応募が多かった理由は、1年間で300~400万円ほどかかる留学費用が、25万~85万円ほどで済むためとみられています。つまり、経済的理由で最初から海外留学を諦めている若者が少なくないということです。実際、文科省の調査を見ても、世界的不況が深刻化した2008(平成20)年以降の海外留学者の急減が目立ちます。

今後、企業がグローバル人材をさらに求めていけば、高校や大学での海外留学体験の有無が採用にも大きく影響してくるかもしれません。その時に経済的に余裕のある家庭の子どもだけが海外留学していたら、新たな格差が生まれることにつながります。海外留学者を増やすためには、若者の内向き志向を批判するだけではなく、留学向け奨学金の拡充、大学などによる留学支援の強化、企業の受け入れ態勢の整備などが必要でしょう。


プロフィール

斎藤剛史

斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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