何も話さない子どもに対しては……[やる気を引き出すコーチング]

前回、いかに「子どもの夢を引き出すか」というお話をお伝えしましたが、
「やっぱり何も答えてくれないのですよ。うちの子!」
「それでもしゃべらない子にはどうしたらいいですか?」
これもよくある現実です。
時々、講演会後、「うちの子がどんなに話さないか」について、涙をぽろぽろこぼしながら訴えてこられるお母さんもいらっしゃいます。こちらがどんなに働きかけても返ってくるものがないと、つらくせつない気持ちになってしまいます。そこまで胸を痛められなくても、何か方法や考え方があるような気がします。


まずペーシング

「おっはよー! 石川でっす。今日はよろしくねっ!!」
初対面だから第一印象が大切! 第一印象は明るく元気に!! そう思って、初めは、就職カウンセリングに来た高校生と接していましたが、かえってひかれてしまったという経験が何度かありました。「先生に、『行け』と言われたので来ました」というテンションの低い生徒に、いきなりハイテンションで向き合うと、相手は余計に話せなくなってしまうようです。

「今日、学校、どうだった?」
「試験は? できたの? できなかったの?」
「ねぇ、どうなの? 教えてよ!」
こちらが、話させたい一心で向かい合うとかえってうっとうしく思うのが子どもの本音のようです。

「初めまして。石川と言います。今日はよろしくお願いします」
おとなしい雰囲気の生徒には、こちらも落ち着いて穏やかに話し始めます。相手がうつむき加減だったら、こちらも少し背中を丸めてうつむき加減。相手が机にひじをついたら、私もひじをついて話しかけます。
「話すことないっすよ。だりー」
つっけんどんな相手には、
「そっか、話すことないかー。だりーね」
こちらもペースを合わせます。
面談中、一言も話さないでずっとノートに絵を描いている子がいます。そっと横に座って、私も絵を描いたり、「それ、何の絵?」と筆談したりします。筆談に筆談で返ってくることもありますが、そんなことを続けていると、ふっと笑顔になったり話し始めたりします。
相手と同じテンションになって、呼吸とペースを合わせてみると、相手から安心感が引き出されます。安心感があって初めて、相手は話し出せるのではないでしょうか。


言葉以外のメッセージに耳を傾ける

学習塾の先生で、英語がどうしても苦手な子どもに、中学1年生の内容からじっくり教えてみたという先生がいらっしゃいました。この子は、わかっているのかわかっていないのかもはっきり意思表示をしないので、わかっているつもりで進めていたら、たちまちついてこられなくなっていたそうです。
先生は、相手がうなずくタイミングを見ながらポイントを伝えていきます。この場面は、一見、ティーチングの場面のように見えますが、相手がちょっとでもうなずくのが遅かったり、うなずかなかったりしたら、それを見逃さず、「ここでつまずいているのか」ということを確認します。それから、説明し直すと、あいかわらず、相手はほとんど話しませんが、きちんと解答できるようになるのだそうです。
この先生のすばらしいところは、「話したくなかったら話さなくてもいいよ」というところにまず立っていらっしゃるところです。そして、子どもがどう感じているのかを、単に発している言葉からではなく、表情や態度から聞き取っていらっしゃるところです。


「話さなくてもいいよ」という空気を作る

何も話さないと「それでいいのか!?」とつい否定的、悲観的になってしまいます。いつもいつも子どもが自分のことをペラペラとしゃべってくれることがベストな状態ではありません。「話しやすい環境」を作ることもコーチングなら、相手を尊重して「話さなくてもいいよ」という安心感ある空気を作ってあげることもコーチングではないかと私は思います。


プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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