[調査]「家庭の教育力の低下が深刻」と考える校長先生が9割

8月29日に、東京大学教育学研究科の基礎学力研究開発センターがシンポジウムを行いました。そのなかで、全国の小中学校の校長先生を対象としたアンケート調査の結果が紹介されています。その結果は、保護者の意見とはだいぶ異なるものではないかと思います。今回は、その結果の一部を取り上げます。

20年前と比べた教育の状況

2006年7月に、東京大学基礎学力研究開発センターが全国の小中学校、約1万の校長先生を対象にアンケート調査を実施しました。【図1】は、20年前と比べた教育の状況に対する校長先生の意見を示しています。

「子どもの学力」については「20年前と比べて下がった(悪くなった)」という評価が5割近くになっています。さらに「子どもが教えにくくなった」という意見が7割を超えており、とても高い割合になっています。

「家庭の教育力」については、9割の校長先生が「20年前と比べて下がった(悪くなった)」と感じています。それに対して「教師の指導力」は、「下がった」割合が3割弱で、「変わらない」が半数以上を占め、「上がった」が約2割となっています。

【図1 20年前と比べた教育の状況】

基礎学力研究開発センター シンポジウム資料より(2006年8月東京大学教育学研究科)


もう一つデータを紹介します。【図2】は、教育の障害になっている要因についての校長先生の意見です。「特に教育力のない家庭がある」という項目では、「きわめて深刻」「やや深刻」という意見が合わせて約9割になっています。また、「保護者の利己的な要求」も約8割。それに対して「教員の指導力が不十分」については、6割弱の校長先生が「深刻でない」としています。



【図2 教育の障害になっている要因】

基礎学力研究開発センター シンポジウム資料より(2006年8月東京大学教育学研究科)


【図1】の結果とあわせると、小中学校の校長先生には、日本の教育の状況が次のように見えていると言えそうです。

  • この20年間で、子どもの学力は低下していて、教えることも難しくなっている。教師の指導力はそれほど下がっていないが、家庭の教育力は大きく低下した。その家庭の教育力低下が深刻な問題で、教師の指導力は深刻な状況とは必ずしも言えない。


こうした校長先生の見方は、学校の先生の実感からそう離れていない気がします。しかし、保護者からすると、ずいぶん違うように感じられるかたもいらっしゃるのではないでしょうか。今回もぜひ、感想やお考えをお寄せください。

変化に対応できないなかでの危機

さて、20年間の家庭の教育力や教師の指導力の変化が実際にどうなのかは興味あるテーマですが、それは皆さまから寄せていただけるご意見に譲り、ここでは少し別の見方をしてみたいと思います。

仮に、この調査で見られた校長先生の意見のように、この20年間で家庭の教育力が下がるなど、大きな環境の変化があったとすれば、それに対応するためには教師の指導力は大幅に向上している必要があります。そのように考えると「指導力が変わっていない」とすれば、そのことが“深刻”なのかもしれません。

同じ調査のなかで、8割以上の校長先生が「教育改革が早すぎて現場がついていけない」と答えています(「強くそう思う」と「そう思う」を合わせた割合)。しかし、学校の外から見ると、むしろ改革は後手に回っているという印象を受けます。たとえば、小学校英語の議論が中教審などでされていますが、現実の状況はというと、かなり前から英語教室に小学生の子どもを通わせている家庭は少なくありませんでした。つまり、教育改革のスピードは「早すぎる」のではなく、むしろ「遅すぎる」ように思えてきます。

学校も含めて教育の制度や組織はなかなか変化しにくいものです。教師の指導力一つを考えても、人の能力をあげるには時間がかかります。それだけに、10年先、20年先を見て、今を議論することが重要となります。今年中には次の学習指導要領の改定案がまとまることになっています。長期を見通した、変化の激しい時代に耐えうるような案を期待したいものです。


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