いまこそ中学受験について考える【後編】

前編では、中学受験を考えている方と受験せずに公立中学に進学させたいと考えている方、それぞれの理由などを紹介しました。アンケートでは、公立中学進学を考えている方が約56%、私立中学などの中学受験を考えている方が約14%でした。私立中学の定員が少ないために、誰もが中学受験を考えているわけではなく、地域差、保護者意識にも違いがありました。後編では中学受験に関するみなさんの本音をさらに紹介していきます。

中学受験への疑問や迷い

公立小学校で使っている教科書が薄いために、自分たちが教育を受けた頃との差に不安を覚えたり、子どもたちの「ちょっと物足りないかな」という姿を見て、焦る保護者たち。私立小学校の授業の様子を知り合いから聞いては、ますます不安にかられる……。
大都市部の6年制私立校や、中高一貫教育校を目指す生徒を対象とした塾では、入塾時期がますます早まっているようです。
大都市部では、有名塾の子どもたちの在籍者数や、特に首都圏における私立中学の受験者数も再び増加傾向にあるようです。

こうした現状を踏まえて、発見隊のみなさんからは今回さまざまなご意見をいただきました。前回ご報告できなかったご意見をしっかり紹介させていただきます。ご協力いただいたみなさん、本当にありがとうございました。

  • 本人のしっかりした意思があるなら反対はしませんが、それにしても、小学校の本来の学校生活をないがしろにしてまで準備しなければならない今の中学受験には疑問を感じています。たとえば、「塾の宿題が多いので学校の宿題に手が回らない」「運動会や修学旅行などの大きな行事はまだしも、小さな行事と塾の予定が重なったときは塾を優先させ、さらに受験直前になると、小学校を欠席して受験態勢に入る」など。(小学5年)

  • 我が家では中学受験はまったく考えていません。なぜならば、小学生の貴重な時期はその大半を受験勉強に費やすべきではなく、もっとお友達と思い切り笑ったり遊んだり自由になんでもやってみたりする最後のチャンスだと思っているからです。中学以降はどうしても勉強中心の生活になることは避けられず、部活もあり、まったくの自由な遊びの時間は取れなくなります。周りの塾通いとその宿題ばかりに追われる小学生を見ると、他人事ながらかわいそうに思ってしまいます。(小学4年)

  • (私立中学では)特色ある質のよい教育を受けられる点では魅力を感じますが、受験対策のための勉強となると、覚えなければならない知識量が多いだけでなく、解法テクニックなどを習得するための勉強がかなり多くなってしまうと思います。考える力が問われる今の時代ですが、中学入試対策の勉強の詰め込み方式は昔と変わっていない印象をうけます。学童期のまだ自我が確立していない、素直になんでもがんばってしまう時期に、子どもにこのような訓練をうけさせることに疑問を感じるため中学受験は考えられません。ただ地域によっては公立中学に問題があるなどの理由で受験を考えざるを得ない方もいらっしゃると思いますし、私立中学のメリットも大きいと思いますが。(小学4年)

  • いろいろな環境で育った子どもが集まる公立の学校は、そのまま社会の縮図であることを考えると、子供の将来にとってよいことだと思っていた。しかし、昨今、騒がれている学級崩壊や、教師の質や指導力の低下という問題を考えると、安心して公立の学校に子どもを預ける気持ちになれない。しっかりとした教育理念や方針のある私立の学校のほうに魅力を感じる。(小学3年)

ところで、私立中学出身の保護者から、こんなご意見もいただきました。

  • 自分は私立中学校出身だが、息子は友達といっしょの公立に行きたいと言っている。受験は小学校時代のテスト慣れ(場数をたくさん踏むこと)によって、大きな失敗はしないものだと思う。自分の意思で受験をするのか、漠然と親の勧め(命令)でするのか。何ごとも本人にとって、悔いの残らない選択をしてあげるのが、親の役目だと思う。(小学5年)

このようにさまざまなご意見があるように、受験準備の時期をどのように過ごさせるのか、非常に悩ましいところです。

子どものバランスある成長段階を踏まえる

これまで中学受験に関するみなさんのご意見を伺ってきましたが、「中学受験」のために小学生らしい生活ができなくなることへの不安や疑問が多く寄せられました。
早くは小学3年生から、本格的には4年生からスタートを迎えるとされる「中学受験対策」。
子どもの成長段階、つまり自我や自律ある生活態度の育成などとどのように付き合っていくのか、これも重要な問題です。
子どもの学力を育てるのは、間違いなく学ぶ場の基本である「学校の教育力」と「家庭の教育力」です。
Benesse 教育研究開発センターでは、この「学力」を広く捉えなおして、「豊かな学力作り」のためには「教科学力」と「生きる力」と「学びの基礎力」の3つがトータルに備わっていることが重要だと捉え、さまざまな調査を実施しています。学習を含めた生活のなかのどのような体験が、学力と関係が深いのか、これが分かると「中学受験」の判断材料にもなるかもしれません。

たとえば、「学びの基礎力」というものを、主に以下の4つのカテゴリーに分類しています。

  1. 豊かな基礎体験⇒家族や、学校の先生、友人が自分のことを認めて、気にかけてくれているという「他者との支えあい」を実感しているか。
  2. 学びに向かう力⇒勉強していておもしろい、楽しいと感じ、その勉強で身につけた知識はいずれ仕事や社会のなかで役立つと思っているか。また努力をすれば自分はできると思っているか。
  3. 自ら学ぶ力⇒自分で勉強の計画が立てられるか、宿題はきちんとしているか。
  4. 学びを律する力⇒わかるまで自分で努力をしているか、必要なものを揃えてから勉強しているか。

この「学びの基礎力」の4つのカテゴリーと、教科学力との関係をデータで見てみましょう。【図1参照】
教科の総合スコア(偏差値換算)と、子どもたちの日常の行動や考え方に対して、「とてもあてはまる」「まああてはまる」と回答したものを『肯定』、「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」と回答したものを『否定』として表中に分類しています。つまり、表中の最上段にあるように「家族が自分のことを気にかけてくれている」と感じている子どもは、その教科学力では「そうは思わない」子どもとは、小学4年生段階では明らかに差(5.3ポイント差)が見られることを示します。

  【図1:学びの基礎力と教科学力との関係】

※教科学力は「算数」「国語」の2科目の学習到達度調査に基づいて各スコアを偏差値換算
※上記データはBenesse教育研究開発センター(旧ベネッセ教育総研)が調査
  http://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/gakuryokukoujou/2004/chukan/index.html


これらの結果から、学習の役立ち度や物事をやりとげる喜びを味わった経験を持ち、日常も自分の力で学習の計画や宿題をこなし、普段からわからないことはそのままにしないといった姿勢を持つ子どもたちは、「学びの基礎力」が確実に育まれていると言えるかもしれません。
そして、その力は小学校段階のみならず、中学、高校段階での継続的な「学びの基本フォーム」につながるものであるはずです。

そこにはやりとげる自信(自己効力感※)につなげる日頃の生活態度であったり、計画力、継続力、自ら考える力、さらには他者(周囲)に認められているなどの「バランス」が重要です。
「調べてわかったことをもとに、考えをまとめることができる」などの力や、「自分がやりぬく」力を、小学生段階から身に付けるためにも、「塾」や「家庭教師」さらには「学校の授業」によって、与えられる一方の受け身の学習になっていないか、学びの動機付けが大人の価値観から与えられるものだけになっていないかを注意しておきたいものです。

6年間の中高一貫教育を受けるメリットはさまざまあります。しかし、学ぶ楽しさを持ち、自ら調べ、深め、自ら計画性を持って学び進められるかどうか……その力はすでに小学生段階から蓄積されていきます。前述のとおり、学力と関係の深い豊かな経験や、自ら学ぶ力を犠牲にするような中学受験になっていないか、しっかり考えたいものです。

※自己効力…自分の行為によって、望んでいる効果が生み出せると信じて行動していく、自分への期待の膨らみをベネッセ教育研究開発センターでは「自己効力」と定義しています。やり遂げた経験や、成長している実感が得られることでより高まっていくと考えられます。

中学受験の課題「お金」

一方、「中学受験」には経済的な課題も大きい……との声もあります。経済的な出費をみなさんはどう考えているのでしょう。

  • 中学受験を考える場合に、第一に親の経済力に左右されるという視点がすっぽり抜け落ちています。中学受験は、子ども本人が「する」「しない」ということが重要な問題ではなくて、親が「させる」「させない」、もっと言えば「させてあげられる」「させることができない」ということではないかと考えます。(小学1年)
  • 私の子どもは、ゆとり教育の影響をもろに受けています。国が迷走中だからとても不安になります。やはりゆとり教育は失敗でした、と言われても正直困ります。私の周りも、中学受験を考えているようです。ただ中学受験は、金銭的にも大変です。やりくりすれば私立学校に行かせることはできますが、それが難しい家庭も少なくありません。教育を受けるのも所得格差が影響してしまうのですね。(小学4年)
  • 受験に受かった子どもは、ある程度の教育を望み、経済的にもやりくりができる家庭の子供が集まる中学校に通うことになります。(中学生)

子どもの進学先が公立か私立かによって、教育にかかる費用は大きく異なります。2005年12月に発表された文部科学省の「子どもの学習費調査」では、「学習費総額」の公私間の差は、幼稚園では私立が公立の2.1倍(前回調査は2.2倍)、中学校では2.7倍(同2.8倍)、高等学校では2.0倍(同2.0倍)となっています。
公立中学校に通う場合の平均教育費用(1年間)約46.9万円に対して、私立中学校は約127.5万円と、年間で約80万円も家計の負担格差が生まれます。【図2参照】

【図2:中学校の学習費総額】

※「子どもの学習費調査」文部科学省:生涯学習政策局調査企画課調査
  http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/006/05120501/002.htm
※総額とは、学校外活動費(学習教材・塾・家庭教師など)と、給食費、学校教育費(授業料、教材)などの合算


中学受験をどう見るか

では、中学受験をどのように考えていくことが、子どもたちの幸せに、そして成長につながるのでしょうか。
中高一貫教育の学校現場では、入学後の「中だるみ」が危機感を持って語られることがあります。もちろん中学入学がゴールではないはずです。
大切なのは「何を学び、何を目指すために中学受験をするのか」を、親子できちんと話し合い、整理することではないでしょうか。これは公立中高一貫校の受験も同様です。

そのためにも、ご家庭でもできる限りたくさんの学校の先生、教育専門家の話に触れる、また教育関連の情報冊子、実際に入学したい学校の授業を見る、WEBなどをご覧になることをお勧めします。

では、子どもにとっての「よい教育」とは何でしょうか。

  • これから先の長い人生、温室ばかりで過ごすわけにはいかないので、さまざまなタイプの先生や友達がいる公立中で、日常生活を送ることもいい人生勉強になるのではないかと考えます。(小学3年)
  • 地域性もあるが公立中学は子どもにとって地域の友人を作れる場であり、そういう友人を持つ機会を失うことや、早くから高校大学のような選抜された似通った仲間しか知らないことはデメリットでもあると思っている。 (中学生)

といった公立学校教育が持つ多様性に期待するご意見もありました。いうまでもなく、私立学校のもつ校風、教育内容、難関大進学実績への期待もあるでしょう。

もとより、「中学受験」や「入学」はきっかけを与えることにしかすぎません。
どのような教育機会の選択であっても、最後は「自分の力で切り開く学びの姿勢」が必要であること、そしてそれは多様化し、変化の激しい社会にあって、継続的に自分の価値作りをできる力に結びついていくはずです。
いまや、「自ら学ぶ力」の低下は難関と言われる国立大学でも問題視されるなか、これからの「生涯学習社会」を子どもたちはどう乗り切るのか、小学校段階からどんな学習習慣が大切なのか……ぜひ考えておきたい問題です。

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