今こそ考えたい、塾の効果と自ら学ぶ力

「塾」について、 前回の速報版にて「教育発見隊」アンケート結果(有効回答数:966人)をお伝えしました。
今回は、「どんな学習塾に通っているのか」、「家庭学習の時間はどのくらいか」などについて見ていきましょう。

塾通いの実態
塾に対する満足・不満足
重要視される家庭学習
家庭学習時間の実態
塾に依存していませんか?
「自ら学ぶ力」は、自分でつけるもの
 

塾通いの実態


前回の「教育発見隊」アンケートの結果から、塾に通っている子どもの割合は全体で34.5%でした。学年別に見て、小学校4年生から増え始め、高校受験を控えた中学3年生がもっとも多く、55%を超えます。

実際に塾にもいろいろ種類があります。高いレベルの私立中学受験などを目的とした、小学校段階からの「進学塾」もありますし、普段の学校での授業を補完する「補習塾」もあります。また、補習クラスから受験クラスまで、さまざまなレベルのクラスが用意されている「混合型」の塾もあります。
どのような塾に通う人が多いのか、実際にデータを見てみましょう。






【図1】のグラフを見ると、中学・高校進学前になると、明らかに進学塾への通塾が増えていることがわかります。
小学校3年生までは学校の授業を補う補習塾、小学校4年生から6年生にかけては進学塾に通う数が伸び、私立中学受験への準備する様子がうかがえる結果となりました。また、補習と進学を目的とした「混合型」の塾は、中学生に多いようです。学校の授業補完もしながら、3年かけて高校受験への準備をし、高校のレベルに合わせて受験対策をするからだと思われます。


 

塾に対する満足・不満足

ここで、現在通っている塾のどのような点に満足しているのでしょう。少しご紹介します。

  • 学校の授業レベルのフォローだけでなく、いけると思えば上級学年の問題をやってくれたり、理解度がもう少しと思える問題については、授業直後にフォローの時間を取ってくれる。また学期末にはきちんと保護者面談をしてくれ、必要があれば面談予定時間を超えてもきちんと最後まで話をしてくれる。

  • わからないというとすぐに対応してくれ、補講をしたり練習問題を渡してくれたりする。また、同じくらいの成績の子と上手に競わせてさらなるステップアップを促してくれている。

  • 少人数制なのでわからないところの質問がしやすい。


一般的に、子ども一人ひとりに合わせた個別指導に満足している方が多いようです。また、学校にはないサービスを塾に求める方もいるようです。


  • つまずいているところがあれば、立ち止まって、あるいは戻って教えてもらえるので、弱点を克服できる。テスト前はその学校のテスト範囲に応じて(いろんな学校の生徒が来ている)テスト対策をしてくれるので、定期テストでの成績がグンと上がった。
  • 先生がとても熱心です。親の言葉、子どもの言葉を聞き流さず受けとめてくれているように思います。塾の日は、実際は週2日なのですが自習室は自由に使えるので毎日のように通っています。
  • 初めての子どもですが、受験に対しての心がまえや、学校訪問会の案内、子どもの事について学校の先生ではなかなか回答のいただけないことをはっきりと教えていただける。また、子どもの性格も含めた学習指導が行われている。

一方で、塾に満足している肯定的な声の反面、通っている学校への不満の声も少なからずありました。


  • そうでない方もいるとは思いますが、いまどきの学校の先生は子どもと親に嫌われないことが第一で本当に教育に熱心に取り組んでいる先生はあまりいません。小学校では熱意をもって、指導してくださる先生に幸いにもお会いできましたが、中学に入ってからは、事なかれ主義の先生にしかめぐりあっておらず、いまいち踏み込んでいけません。
  • 子どもが言うには、英語も数学も学校の授業だけでは分からないらしい。授業の進度も遅く、1年で終わらず、2年に持ち越す事も。塾とは比べ物にもなりません。学校は、勉強以外のこと(運動会、音楽会、クラブ活動)を一生懸命する場になっています。
  • 公立の中学に入学したので、学校の名にかけて受験を成功させるという意欲がまったく感じられません。進路に関しても学校の懇談で塾の先生はどう言われていますか?といった感じです。なので塾の名にかかっているという民間意識で真剣に取り組んでくださいます。
  • 学校は友達を作るところ、塾は勉強するところになっている。

塾への期待の大きさや安心感の反動からか、学校教育の現状への不満として厳しい回答がありました。
一方で、塾に満足していない方では、次のような声が上がりました。


  • テンポが早すぎて子どもが理解して自分なりに飲み込む余裕が足りないと思う。クラス替えをよくするので、クラスが変わるたびに授業の重複ややらずに飛ばされる部分ができてしまい、むらができてしまう。
  • 学習塾に行っても子どものやる気がないと成果は上がらない事が分かった。苦手な教科が今一つ理解できないようだ。
  • 個別指導塾なので、競争意識が出ないので、受験時に心配です。
  • 子どもをよく見て指導して欲しい。以前行っていた塾は満足していたのだが、だんだんと先生の手が足りなくなり問題集だけさせておくような状態になってしまった。塾でわからなかったことを学校で補習するような感じで、塾に通う意味がなくなってしまった。

学力低下や大都市部での公立学校への不安が言われる中、学校教育にすべてを任せるよりも、塾で習得したいレベルに合わせて個別的な丁寧な指導を期待しているご家庭が多いようです。進度の速い授業や、徹底した指導、難易度の高い問題、きめ細やかなクラス替え…。しかし、このような「対・学校」へのスタンスが行きすぎ、過度の塾依存、塾主導の学習に陥ってしまう危険性も考えたいものです。

次のような声もありました。


  • 進学塾ということで通わせ始めましたが、思ったほど授業も難しくなく、自宅での学習時間も以前より減ってしまい、結果として、子どもが塾に行っている事で満足してしまい、自主的な学習意欲は減退してしまったような感があります

これは問題ですね・・・。
「家ではちっとも勉強しないから、せめて塾に行っている間だけでも勉強してくれれば」と考える保護者の方もいるようですが、塾に通っていても、習ったことを家庭学習の中で復習する習慣がないと、本来の学力は身についていきません。


 

重要視される家庭学習

ベネッセ教育研究開発センター顧問の深町芳弘先生は次のようにお話しされます
「2002年から本格的に導入されたゆとり教育ですが、実は学習内容の削減は80年代から徐々に進められ、20年前と比べると中学校では3割減っています。数学は2割5分、理科と社会は4割ですね。ですから、意識の高い保護者の方は、ご自分が学んできたことよりも子どもの学習量が減ってしまう、という不安感から塾へ通わせる方も多いようです。
文科省も学力低下に課題意識を持っていますし、その対策のひとつとして、2006年度には教科書改訂が施行され、一度削減された単元が教科書に戻ってきます。しかし、削除された単元は戻ってきても、学校の授業数がその分増えるわけではありません。つまり、学校では、削除された単元や発展的な領域を学ぶよりもまず、基礎的な勉強を学ぶことが中心になります」
では、これから の学び方をどう考えればよいのでしょう。

「これからは家庭学習がカギになる、ということです。学校と家庭学習を上手に連携させることが重要、ということです。例えば、音楽の授業でリコーダーを習うとします。リコーダーの運指法や演奏法は学校で習いますが、たった1時間で習った曲を上手に吹くことは出来ません。授業以外で、自分で何度も練習することが必要になります。これは算数・数学でも同じ。特に数学は自分で繰り返し勉強しないと定着しませんからね」

「ゆとり教育」で学習内容が軽減されたことが災いして、子どもたちが勉強しなくなったということも指摘されるようになりました。文部科学省としては授業内容を易しくすることで、生徒の8~9割は学習内容を理解できるようになるだろうという目論見だったのですが、実際、中学校で「授業が分かる」と答えた生徒はわずか4割に過ぎませんでした。この授業理解力の低下というのが、時間数が減ったためなのか、自分で勉強する時間が減ったからなのか、見極める必要があります。


 

家庭学習時間の実態

では、子どもたちは家庭でどのくらい勉強をしているのでしょうか?



【図2】の発見隊のアンケート結果によると、家で「ほとんど勉強しない」という中学生が10%前後いることがわかります。しかも高校受験を控えた中学3年生で家庭学習1時間未満が4割以上いることにも驚きです。




【図3】『義務教育に関する意識調査』 (2004文部科学省の委嘱調査)

Benesse教育開発センターが文部科学省より委嘱され行った『義務教育に関する意識調査』の結果(図3)では、ほとんど勉強しない中学生が4割に達していました


家庭学習の目安は、学年×15分と言われています。小学1年生なら、15分、小学6年生なら90分が目安になるわけです。
発見隊アンケートの調査結果を見ると、小学校6年生で90分以上の学習時間の子どもたちは25%程度でした。
では、塾で学習している時間と、家庭学習の時間は、まったく別のものなのでしょうか?

 

塾に依存していませんか?

塾にもいろいろあります。どの塾に通っていても、基本原則は「自分ひとりで考え、やりぬく時間」が子どもの学力を伸ばしていくのです。理解の早い子は、自分でどんどん学んでいけばよいし、学校で習わないことでも、自分で学ぶことによって興味関心が広がります。そもそも学習は個別に成立していくもの。どんなに進学率の良い塾に通っていても、個人のやる気や興味がなければ、本当の学力は伸びないのではないでしょうか。低学年の頃から、塾に子どもを通わせている方から、こんな声が上がりました。


  • 子どもが行っていたところは、低学年の頃から、いかによい成績をとりよりよい中学に合格し、効率よく問題を解くかが主体だったように思います。確かにそれが前提なのかも知れませんが、確実に1つずつ自分のものにし次へと続く気持ちが少しずつ萎えてきたような気がします。解ける喜びよりなんとなく教えてもらったやり方を暗記し、解いて答えがあって、次へ進むといった感じでしたので、もっと、子どもに考えさせる、次へ進みたい、もっと知りたいといった気持ちを育てられるような授業内容、進行速度、宿題の量を考えて欲しいです。

また、次のような声もありました。


  • 教科書的な通りいっぺんの知識や、入試やテストで点数がとるための知識の伝授ではなく、学校の授業では触れられない、学問的な面白さや、深く追究していくと分かる楽しみのようなことを体験する場も作って欲しい。
  • できれば学校での授業の分からない所を掘り下げるとか、勉強することに興味をもたせてほしいものです。本来子どもは興味を持てば自分からすすんで勉強するものですから。

 「自ら学ぶ力」は、自分でつけるもの

今回もたくさんのフリーアンサーをいただきました。その中で、前出のように学んでいく楽しさ、知識や理解が深まっていく面白さを塾での学びに求める声が多かったように感じます。
しかし、これら自ら学ぶ喜びや手ごたえは、本来自らの力で獲得し、体感することで、さらにその学習が深いものになっていくはずです。
「自ら学ぶ力」をすべて塾に任せ続けるのは、これからの社会に求められる課題発見能力や思考力を育む機会を失いがちになります。自分で寄り道しながら自分にあった勉強法を探していくことが、自ら学ぶ力になっていくはずです。

子どもは、学校・地域・家庭での共育(共に育てる)が大切であると言われます。塾任せになってはいないか、学校教育を否定していないか・・・を親としてしっかり考えたいものです。
人が学び続ける前提にあるのは「何のために勉強するのか」という問いに、小・中学校の段階であっても、自分なりの答えを持っていることが求められるのではないでしょうか。

最後にエピソードをひとつ。
高校受験を終えて、公立高校での1年生の春。塾通いの必要がなくなったある生徒が、今にも泣きそうな顔で担任の先生のところに来ました。
「先生、辞書の使い方がわかりません」
「予習の仕方やノートの取り方を教えてください」
国立大合格者が毎年200名を超えるこの高校での、ここ数年続く春の職員室の風景です。

解法のテクニックや、言われるままにドリルを繰り返し、自らの課題を乗り越えるために、どんな学習スタイルが必要なのかを、小・中学校段階で徐々に身につけることができなかったツケは、いざ自分自身で学習に向かったときに、ほころびが出てきます。
皆さんは、どのようにお考えですか?

いただいたご意見ご感想

この記事をご覧になった方からいただいたご意見ご感想を以下、掲載いたします(誤字修正や文意をそこねない程度の修正をしています)。


  • 今大手メーカーの契約社員として働いています。私たちの上司は新人教育もしている方で、ぼやいていたことがあります。「教えたことに対してはとても理解力がある。でも、実践となると弱い。そして打たれ弱い。」と・・・。結局一流大学を目指し、自分で考える前に、塾で正解の導き方を教えてもらった。一生懸命方法を暗記した。その’つけ’が一流企業に入った今になって初めてでてきたのではないかと思う。


  • 3年間塾に通って、私立中に合格し、今、まさに痛感していることでした。春休み前から、再び塾に通い始める人が多く、自らの学習スタイルをいつ確立するのかと疑問に思っていました。大学入試までまだ、余裕のあるこの時期に、我子には、試行錯誤しながら、自らの学習スタイル(課題の克服方法)をしっかりと見つけて欲しいと思っています。私の考え方が、間違えていなかったことに自信を持ちました。

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