動物学者の今泉忠明先生が語る、子どもの知的好奇心を伸ばす子育て

数々の図鑑の監修を務められている動物学者の今泉忠明先生。今泉家は先生のお父さん、お兄さん、そして息子さんも動物学者の三代にわたる動物学者。子どもの頃から生き物や動物が大好きだったという先生に、子どもの好きな物事から知的好奇心を広げる方法ついて伺いました。

虫への興味はあらゆる知的好奇心への第一歩

お子さまが虫に興味を持ち始める年齢になると、ポケットにダンゴムシを入れて持ち帰ったり、アリにいたずらをしたりして遊ぶことも多いかと思います。そんなとき、保護者のかたは「やめて!」「だめじゃない!」と言う前に、ぜひ一呼吸置いてほしいのです。

子どもが虫に興味を持つのは、発達の過程としてはごく当たり前のこと。というのも、生まれたばかりの赤ちゃんの段階では、周りにいるのはお父さん、お母さんを認識します。次に、時々顔を合わせるおじいちゃんやおばあちゃんの存在を知り、「生き物っていうのがいるんだな」となんとなくわかってくるのです。
時には、自分の足の指を口に入れてみて、自分という人間を調べることもあります。そうして世界を認識していく過程で、外の世界に目を向けると、犬や猫などが歩いているのを目にして、人間以外の生き物がこの世の中にいるということがわかってきます。
そして、犬や猫の次が虫の出番。足元をよーく見ると、「小さい生き物がいる!」ということに気づくわけです。これが、ダンゴムシであり、アリというわけです。「ダンゴムシはつかまえてもつかまえてもたくさんいる」「アリは踏んでも次々と穴から出てくる」など、興味を持って虫に接する中で、ポケットに入れて持ち帰るということもあるでしょう。

保護者のかたは大人ですから、「アリだって生きているのだから踏みつけるのはかわいそう」「ダンゴムシは臭い」など、大人なりの考えをもっているかもしれませんが、子どもは子どもなりの興味をもって虫に接しています。人間は様々な経験の中で育っていきますから、虫で遊ぶという経験もたっぷりさせてほしいのです。
保護者のかたは、「虫は嫌いだからやめて!」と言うのではなく、まずはいきなり出てきた虫に動じない精神を身につけられるといいですね。そんな保護者のかたの姿を見ると、子どもは嬉しくなり、「お母さん(お父さん)は自分の考えをわかってくれる味方だ」と思うようになります。
そこで、「次は、ポケットじゃなくて虫かごに入れて持ってきてね」などと案を出すと、素直に聞き入れてくれるでしょう。保護者のかたが嫌いだからといって、頭から虫を持って帰るのを禁止すると、ポケットに隠して持って帰るようになりますし、「汚い」「嫌い」「危ない」などと一刀両断すると、子どもも「そういうものか…」と思い、興味関心が広がらなくなってしまいます。

一緒に調べることで、知的好奇心を発展させる

お子さまが興味をもった物事を知的好奇心に発展させるためには、保護者のかたも一緒になって楽しむのが得策です。
例えば、虫の場合なら「ダンゴムシがいる場所ってどんなところだろう?」「アリの行列は障害物にぶつかったとき、どうなるだろう?」などと問いかけながら一緒に調べます。「自分で調べなさい」といっても、子どもはどう調べていいかわからないですから、一緒に図書館に行ったり、本を読み聞かせたりして、最初は手助けしながら教えてあげられるといいですね。

気がつけば動物学者三代 気がつけば動物学者三代
<講談社/今泉 忠明 (著) 1,296円(税込)>

2016年に発売され、100万部を突破した「ざんねんないきもの辞典」(高橋書店)。その監修を務めた今泉忠明さんは、お父さん、お兄さん、そして息子さんともに動物学者という、三代にわたる動物一家の一員です。その今泉さんが、自らの生い立ちから動物学者になるまで、そして、なってからの奮闘を、いまここに明かします!

プロフィール


今泉忠明(いまいずみ ただあき)先生

動物学者(生態学、分類学)。1944年、動物学者である今泉吉典の二男として、東京に生まれる。東京水産大学(現・東京海洋大学)卒業後、当時、国立科学博物館に勤務していた父の誘いで、特別研究生として、哺乳類の生態調査に参加。その後、文部省(現・文部科学省)の国際生物学事業計画調査、日本列島の自然史科学的総合研究などにも参加した。伊豆高原ねこの博物館館長、日本動物科学研究所所長などを歴任。監修をつとめた『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)は、2018年、「こどもの本総選挙」で第1位に選ばれた。動物関連の著書が多数あるほか、『講談社の動く図鑑MOVE』をはじめ、たくさんの動物本の監修も行っている。兄、息子ともに動物学者という“動物一家”の一員である。

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