「小1プロブレム」を乗り越える ~背景から原因を探る

近年、小学1年生の教室で、子どもたちが先生の話を聞かない、授業中立ち歩くなどの事態が頻発しています。「小1プロブレム」と呼ばれるこの問題に詳しい、白梅学園大学学長の汐見稔幸先生に、その背景とこの問題を乗り越える方法について伺います。

■小学校の学びになじめない子どもたち

「小1プロブレム」が指摘され始めて約20年たちます。東京都教育委員会の調査(2011<平成23>年)によると、都内の公立小学校の5校に1校で、まだ「授業中に勝手に歩き回る」などの問題が起きています。その原因については、長年「幼稚園や保育所、家庭でのしつけが不十分なのでは」といった議論がされてきました。しかし、これまでの取り組みや調査から、問題の本質は単純な「しつけ」問題ではないことがわかってきています。

幼稚園や保育所での生活は「遊び」が中心です。遊びの中では、友達とけんかになることもあるし、危ない目にあうこともあります。やりたいことを自分で選ぶ代わりに、失敗は身をもって引き受けなくてはなりません。そんななかで、子どもたちは「生きている」手ごたえを得、好奇心や考える力を育てていきます。遊びは、体や頭を使って、自分の世界を「手作り」する、主体的な営みで、「自分は自分の主人公」というかけがえのない感覚を手に入れることができる場でした。

放課後も子どもたちの世界で、一歩学校から出たら、原っぱや川などで思い切り遊ぶことができました。ここにも「自分たちが主人公」と感じられる世界が豊かにあったので、「学校は学校」と割り切ることが可能でした。

■「小1プロブレム」の背景にある息苦しさ

ところが今は、遊ぶにしても室内が多いため、遊び方も枠が決められがちです。習い事などで忙しく、時間のない子も数多くいます。なのに、学校も同じ論理で行われている。子どもの主体性が十分に発揮されるとはいえません。授業中はじっと座って先生の言うことを聞き、質問されたら答え、大事だと言われたことを覚えるように訓練される。つまり、「学び方はすべて先生が示す」スタイルです。これでは家庭生活で抱えたストレスが解消される場がないだけでなく、学校でも増幅されてしまう可能性があるわけです。

■子どもたちのメッセージをどうとらえるか

子どもや若い世代は、社会の変化に敏感です。変化が起こる時には、従来の制度は変わっていかねばなりませんが、簡単にはそうなりません。そこに敏感な世代との摩擦が起こるのですが、私は、「小1プロブレム」はその典型だと思っています。

1960年代末の大学紛争、70年代初めの高校紛争、70年代末から80年代前半の中学校での校内暴力、80年代後半の小学校高学年の荒れ、そして90年代後半からの小1プロブレム。すべて社会の変化に学校が追い付いていないことが生み出した問題です。学校が自分たちを正当化すると学校は子どもたちにとってどんどん息苦しい場になっていきます。その意味で、今学校の対応が注目されているのです。

あらためて言いますが「小1プロブレム」は、社会の変化に学校が追い付いていないことによって起こっている問題だと思っています。でもそのことに今、学校は気が付きつつあり、教育界も大きく変わりつつあります。「幼保小連携」の強化によって、つなぎを滑らかにしようとしているのもその努力の一つです。お近くの小学校ではどんな取り組みがなされているか、ホームページなどで調べてみてはいかがでしょうか。

プロフィール


汐見稔幸

白梅学園大学学長・東京大学名誉教授。文部科学省「中央教育審議会」教育課程部会委員も務める。著書に『本当は怖い小学一年生』(ポプラ新書)がある。

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