「入学定員管理の緩和」で入試は楽になる? これからの大学改革のポイントとは

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私立大学入試に関して、「入学定員管理の基準が緩和される」というニュースを目にされた保護者も少なくないと思います。
このニュース、果たして入試にどのような影響を及ぼすのでしょうか? 実は今、入試だけでなく、大学そのものの在り方を見直す議論が進んでいます。
今回はそのポイントを解説し、大学のどんなところに注目していただきたいかをお伝えします。

この記事のポイント

「入学定員管理の緩和」で、入試はどうなる?

 そもそも、「入学定員の管理」とは、どのようなことでしょうか。
入試とは、あらかじめ決めた入学定員どおりになるように合格者を選抜する試験です。
しかし、ほとんどの私立大学では、入学辞退者が出ることなどを見越して、入学定員よりも割り増して多めに合格者を発表します。その結果、入学定員どおりの入学者数になればよいのですが、そうならないと、学生が不利益を受けることになります。

 たとえば、多すぎれば、教室の数が足りなくなったり、教員に質問しづらくなったりと、学習環境が悪化します。逆に少なすぎれば、学生同士の交流の機会が少なくなるなど、やはりマイナスの影響が出てしまいます。

 そうならないように管理することを「定員管理」と呼びます。この管理に失敗して、入学生数が一定の基準を超えて多すぎたり少なすぎたりすると、助成金がカットされるなどのペナルティがあるため、大学はこれまでも「今年はどれぐらい合格者を出すか」を慎重に判断してきたわけです。

 2016年度以降、都市部の大学への学生の過度な集中を解消する目的もあって、この基準が厳しくなりました。これが「入学定員管理の厳格化」と呼ばれるものです。
この基準がかなり厳しかったので、大学によっては極端に合格者数を少なくしたり、何度も追加合格を出すことで調整しようとしたりしました。
この結果、難易度が急激にアップする大学が多くあった一方、合格をあきらめていた大学から3月の後半になって合格通知が来る、などということも数多く見受けられました。

 このように、受験生に混乱をもたらすような入試が続いたため、その解消のためにも基準を緩和しよう、というのがニュースでも取り上げられた「入学定員管理の基準の緩和」です。具体的には、管理の基準を入学定員から収容定員(≒大学全学年での定員の合計)に切り替えるので、大学にとっては合格者数の調整がしやすくなります。
 緩和といっても入学定員管理そのものがなくなるわけではありませんので、これからも大学が合格者数を少なくしたり、追加合格を出したりすることはあります。しかし、ここ数年見られたような極端な変動は少なくなっていくことが予想されますので、受験生にとってはプラスの変化だととらえてよいでしょう。

入試だけではない大学の変化

 この「定員管理」を大学に求めているのは、「大学設置基準」という文部科学省の省令です。これは、大学が備えておくべき最低限の基準を定めたものです。
今回の「入学定員管理の基準の緩和」も、この大学設置基準を改正することで実現することになります。

 ではなぜ今、大学設置基準を改正するかと言えば、「今の大学での学びの実態と合わなくなってきた」というのが大きな理由の一つです。
たとえば、定員管理は「教室での一斉授業」を前提としています。
しかし、コロナ禍などを経て、大学ではオンライン授業が一気に拡充しました。
そのなかで、海外や他の大学の学生と時間や場所の制約なくディスカッションするようなオンライン授業は教育効果が高いことがわかってきました。
しかし、現状の基準では単位として組み込める時間数に上限があるため、今後も継続させたい大学には足かせとなります。
そこで、大学設置基準での制限が緩和される見込みです。
同様に、実社会と連携した教育を充実させるために大学教育に参画している実務家としての社会人が、大学の教員として大学のカリキュラム決定などにも参画できるよう基準を見直すことなども予定されています。

 このように、今の大学での学びの実態に合わせて、おおもとの基準である大学設置基準を改正し、大学が大胆に教育内容を改善しやすくしようというのが、今の大学改革の方向性です。
「入学定員管理の基準の緩和」も、その一環であるととらえてください。

保護者も今の大学を確認してからアドバイスを

 大学改革を求めているのは、文部科学省だけではありません。
たとえば、首相官邸に設置された「教育未来創造会議」や日本経済団体連合会(経団連)からも、これからの大学に対する期待の声が寄せられています。
それらに共通するのは「大学でしっかり学んで、変化の激しい社会でも学び続けられる人材を育成してほしい」というメッセージです。
この声にこたえるためにも、熱意のある大学はどんどん教育内容を改善していくでしょうし、大学設置基準の改正でそのスピードは加速されるでしょう。

 このため、入学定員管理の緩和により入試の混乱が収まったとしても、それだけで安心するのではなく、志望校がどのような授業を行い、どのような資質・能力を育成しようとしているのか、受験生本人がしっかり確認することが重要になります。

 保護者の中には「大学ではアルバイトとサークル中心の生活だった」「授業にまじめに出なくても単位は取れた」という経験をもっているかたも多いでしょう。
もちろん今の大学でもそのような過ごし方をすることは可能ですし、勉強以外の大学生活も大切であることは何ら変わりありません。
しかし、大学での学びに対する社会からの期待が高まり、「生涯学び続ける力」が求められる現在では、「大学入学後に主体的に学ぶこと」もそれと同等に重要になります。
保護者から高校生に大学に関するアドバイスをする際には、自分の経験談に終始せず、今の大学の変化について保護者自身も確認してから行うように心がけてください。

まとめ & 実践 TIPS

 大学の授業の内容は、保護者のかたが知っているものから大きく様変わりしています。
これまでは「入試を突破しさえすれば、卒業までは一直線」だった大学も、これからは「入試で合格するよりも、卒業するほうが大変」という大学が増えていくことでしょう。

今の大学の学びがどうなっているか、高校生と一緒に最新の情報を集めるようにしてみてください。

プロフィール


村山和生

ベネッセでは進研模試等を通した高等学校への進路指導支援、大学入試分析、進路説明会講師等を担当。2012年からはベネッセ教育総合研究所・高等教育研究室のシニアコンサルタントとして大学の教学改革支援や入試動向分析、「VIEW21大学版(現:Between)」編集長等を担当。16年からは「ベネッセ i-キャリア」にて大学生向けアセスメント分析や大学IRのための統合データベース開発などを担当。17年からは一般財団法人大学IR総研の調査研究部にて、研究員として高等教育全般の調査・研究と教学改革支援、ならびにIRの推進支援に携わる。
ベネッセコーポレーション帰任後は、学校支援事業の経営企画業務に従事。21年からベネッセ文教総研の主任研究員として、高等教育を中心に「学修成果の可視化」「IR」を主なテーマとして調査、研究、情報発信を続けている。

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