大学入試改革を見据えて、今すべきこと(2)  家族の対話が学力につながる [高校受験]

2020年度から、大学入試が変わります。2014年12月、文部科学省の諮問機関、中央教育審議会が答申した内容を見ると、大学入試のみならず、高校と大学の教育改革をも目指して論議が行われていることがわかります。それに伴い、今後は高校入試も変わっていくと考えられます。

中学1年生から3年生を対象に、大学入試改革を見据えた、「考える力」を育てる環境づくりについて取り上げます。



■考える力を育てる環境とは

考える力を育てるためには、どんな環境づくりが必要なのでしょうか。
まずは、保護者のかた自身がさまざまなことに興味を持っていただきたいと思います。時事問題から、身近な地域の話題まで、さまざまな話を振って、子どもとたくさんおしゃべりをしてください。話すことが、考えるきっかけになります。

たとえば、TPPのニュースひとつをとっても、大人にもわかりにくい点が多いと思います。日本と諸外国の間で何が問題になっているのか、日本のJA(全国農業協同組合連合会)はTPPのどんな点に反対しているのか、これまでの日本の農業政策はどうだったのか……など、調べるとさらにさまざまな疑問がわいてくるでしょう。日本の生産者、消費者の中にもさまざまな意見がありますし、諸外国にもそれぞれ異なる立場があります。多様な意見を知るほど、考えがはっきりしてくるかもしれませんし、逆にわからなくなるかもしれません。どちらにせよ、無関心な状態とは違う視野が開けてくることでしょう。それが、「考える」ことの面白さです。

諸外国に比べ、日本では、さまざまな社会問題を子どもの目に触れさせないよう、配慮しすぎているのではないかという印象があります。たとえば、数日間外国の子と交流を行うと、日本の子は、1日目は準備してきた自己紹介や趣味の話題についてよくしゃべるけれど、2日目以降はおとなしくなってしまいがちという話を聞きます。2日目になると、互いの国の文化の違いや社会問題など、突っ込んだ話題が多くなり、「なぜ日本はTPPで議論しているの?」といった話を気軽に振られるけれど、日本の子の多くは、語学力以前に、普段からそういうことについて考える習慣がないため、会話ができないというのです。
まずは保護者自身が社会に関心を持ち、気軽に話し合う環境をつくっておくことが大切です。



■「相手の立場に立つ」習慣を

考えるきっかけは、時事問題に限らず、身近なところにもたくさんあります。
たとえば、電車・バスなどのつり広告の内容は、地域や路線によって異なりますし、時間帯によって歩いている人の年齢層や服装も町の特色によって違います。住み慣れた町とは別の環境に出かけると、自分が知っていたものとは異なる生活スタイルや価値観があることに気付き、当たり前だと思っていたことに疑問を持つきっかけが生まれます。

また、日本の伝統行事や生活習慣についても、機会をとらえてぜひ話題にしてください。最近は、「床の間」「鴨居(かもい)」などの意味がわからない子もけっこういますが、伝統文化の話題はそのまま国語や社会の勉強にも役立ちます。ぜひ「なぜ、~なんだろうね?」と、子どもに問いを発しつつ、一緒に考える機会をたくさんつくってください。

さらに、考える力を付けるためには、「相手の立場に立ってみる」ことが非常に大切です。「気配りができる」「人を思いやれる」のは、人の立場に立って考える想像力があるということです。たとえば、電車で高齢者のかたにサッと席を譲れる、ベビーカーをバスに乗せるのに苦労しているお母さんにさりげなく手を貸せる。身近な大人がそうしていれば、子どもにも自然にそのような行動が身に付きます。

近年の日本では、知らず知らずのうちに「駅で困っている人を助けるのは駅員さんの仕事」「自分には関係ない」などと考えてしまい、人の苦労に無関心になりがちです。しかし、無関心はそのまま、思考停止につながります。常に「自分にできることは何か」と考えて自分から動く力。それこそが、今まさに求められている「思考力」や「主体性」であり、「主体的・協働的な学習」に必要なものではないでしょうか。



■キーワードは多様性

とはいえ、同じ世代、同じような価値観の人しか周りにいないような環境では、なかなか考える力は育ちません。核家族化が進んでいるため、高齢者とほとんど接したことがなく「お年寄りは何に困っているかわからない」といった子も数多く見受けられます。
夏休みや休日には、親戚や知人の家に泊まりがけで遊びに行くなどして、異なる世代の人と数日間でも一緒に生活する機会を積極的につくってください。また、保護者自身の介護や子育ての体験について、気軽に話題にするのもよいことです。ボランティアや職業体験なども、知らない世界を垣間見るきっかけになります。

今後、グローバル化が進むほど、国籍や価値観の違う他者と対話し、共に考えながら問題を解決していく力が必要となります。それが今、大学入試改革、大学・高校教育改革において求められている新しい「学力」です。
この学力は、学校や塾と家を往復し、机に向かっているだけでは身に付きません。普段、家で「食器を並べる」といった簡単なお手伝いをさせるだけでも、「今日の献立にはスープがあるから、お箸だけでなくスプーンも必要かな」といった考える力、自ら行動する力を養うことができます。
中学生時代は、子どもたちの視野が、家庭や地域社会を越え、大きく広がっていく時期です。保護者のかたはぜひ、多様な世代、価値観、背景を持つ人と交流する機会を増やし、考えるきっかけづくりをしてあげてください。


プロフィール


安田理

大手出版社で雑誌の編集長を務めた後、受験情報誌・教育書籍の企画・編集にあたる。教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年、安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。
安田教育研究所(http://www.yasudaken.com/)

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