【4年生】 ほめる? 叱る? [中学受験歳時記コラム ~いま取り組むべきこと~ 第9回]

ほめる? 叱る?

保護者の役割は、成長に応じてベストのタイミングで働きかけ、環境を整えていくこと。6年生の1月~3月に行われる入試に対応するために、毎年の受験生活は○月にはこれを、と目標とするべきスケジュールがあり、それは歳時記のようにも感じられます。
このコラムでは、4年生から6年生のお子さまと保護者のかたに、毎月特に取り組んでほしい重点事項を紹介していきます。
今回のテーマは「ほめる? 叱る?」。特に4年生の家庭学習の指導で、注意したい点について取り上げます。



受験勉強を始めると、「叱りたいこと」が増えてくる!

受験勉強を始めると、成績によって塾のクラス分けや席次が決まるなど、子どもたちがはっきりと「序列」を付けられるようになります。序列が思うように上がらないと、大人は歯がゆくなり、どうしても叱りたくなってしまう。時間を忘れて遊びに夢中になるといった子どもらしい姿も、それまではかわいいなと思っていたのに「時間の管理ができなくてだめね」というふうに否定的にとらえがちになります。つまり、受験勉強が始まったとたん、大人は叱る材料に事欠かなくなるのです。

保護者が厳しくしつけるべきことは「うそをつかない」「約束を守る」といった社会規範に関わる部分です。勉強に関して子どもを叱っても、子どもの気持ちが前向きになることはまずなく、子どもの自主性をそぐばかりで、よいことはありません。
大切なのは、お子さまが自分から勉強に向かえるようにサポートすることです。そのためにはむしろ、大人に必要なのは「叱らない技術」かもしれません。



成績が上がらない--小さな成功体験を持たせる

成績を上げたいなら、まず小さな成功体験を持たせてあげることが大切です。成績は、人より時間をかけて勉強すれば上がります。たとえば、お子さまが得意そうな単元だけに絞って、皆が1週間でやるところを、2週間かけて、一緒にゆっくりと勉強してみる。そうすると、その単元はきっとよい成績がとれると思います。成功体験は、とりあえず一つでいいのです。成功できればうれしくなって、また味わいたくなるもの。小さな成功体験を重ねるうちに、お子さま自身も「少し早めにとりかかればいいんだ」「たくさん練習すればいいんだね」というふうにコツがわかってきます。すべての教科や単元で、成績を上げる必要はありません。勉強の量を加減しながら、自信を付けさせてあげるよう心がけてください。



なかなか勉強しない--声かけに工夫を

普通、子どもにとって勉強は「嫌なこと」です。1日1時間勉強すると約束しても、どうしても気持ちが勉強に向かず、遊びのほうにいってしまうのはよくあること。お子さまが勉強以外のことをしたがっている時は、それを尊重しましょう。「今はそっちをやりたいのね。じゃ、勉強の時間はあとでとろうね。何時からにする? 一緒にやろう」というふうに声をかけて、自分でスケジュールを組み立てる方法を学ばせてあげてください。子どもたちは、塾では決められた時間割どおりじっと座って勉強しなければならず、遊びたい気持ちを我慢しているわけですから、塾から帰ったら好きなように遊ばせることも大事です。つらいことのあとには楽しいことがあると実感できるように、お子さまの時間の使い方はゆったりと見てあげてください。



どうしても伝えなければならないことは“Iメッセージ”で

成績や時間の使い方について叱っても、効果は期待できません。しかし、先に述べたような社会規範や約束に関わる点など、どうしてもお子さまに厳しく言わなければならないことはあると思います。
その場合は、「~しなさい」と強制するのではなく、「私は~と感じる」のように、自分を主語にして気持ちを伝えることが大事です。たとえば「あなたならできると思っていたのに、私は悲しい」「お母さんは残念だわ」というふうに。このような言い方をI(アイ)・メッセージといいます。Iメッセージにすると、相手の気持ちや主体性も尊重しやすくなります。

また、保護者のかたが本気であることを伝える工夫も必要です。どういう言い方をすれば、お子さまに気持ちが伝わるか、これまでの経験に照らして考えてみてください。たとえば、大好きなおやつのあと「一つだけお願い」と切り出すとか。「あ、お母さんは真剣なんだ」と感じ取れば、お子さまは素直に聞いてくれると思います。
一般に、お小言ばかり言っても子どもはよく聞きません。行動学では「ほめる」と「叱る」の比率は3:1だと受け入れやすくなるといいます。よいところをなるべくほめたあとで、一つだけ注意するとよいようです。



叱る時は、第三者やグループを意識して

なお、勉強に関わることで唯一叱ったほうがよいのは、塾で習ってきた知識を学校で得意げに「ぼく知ってるよ」とぺらぺらしゃべっている場合。知っていることを発表したり、わからない子に教えてあげたりするのはかまいませんが、クラス内の他の子の気持ちを考えない行為は、将来本人のためにならないので注意すべきです。「叱る」場合は、社会やグループ、第三者を意識することが大切です。

一方、保護者のかた自身、叱りたいことがいっぱいあるのに我慢しているとイライラしてしまう、という場合も「第三者」を巻き込むとよいのです。たとえばお子さまに勉強を教えていると、つい怒ってしまいがちなら、お子さまの友達も何人か呼んで、一緒に教えてみる。そうすると、一人ひとり理解のしかたに特徴があることもわかり、教え方が上手になりますし、「うちの子だけがわからないわけじゃない」と安心できたりもします。また、教える教科をパートナーのかたと分担し、教え方についてあとで意見を言い合うといった方法もあります。一対一の関係だと、保護者にも子どもにも少しずつ甘えが生じ、互いの感情をぶつけてしまいがちですから、第三者を入れるのは有効です。

指導に当たってなにより大事なのは、子どもの成長を楽しむことです。保護者のかた自身に、楽しむ余裕がなくなってしまったような場合は、いったん勉強をお休みしてしばらくお子さまの自由にさせるのも一つの方法です。「勉強しなくていいの?」とお子さまが言い始めたころが、勉強再開のよいタイミングかもしれません。

次回のテーマは「習い事、やめる? 続ける?」。受験勉強に本腰を入れたい5年生の2学期に向けて、習い事をどうするかについて取り上げます。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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