考え抜かれた「手だて」が仕組まれた授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。


今回紹介するのは、東京都の中学校で英語を教えるx先生の授業です。授業を受けるのは、英語を初めて習い始めた1年生です。

x先生の授業で特徴的なのは、身体を動かして英語を覚えること。
それは、英語という新たな言葉を覚え、使えるようにするために、先生が最も効果的だと判断した方法、すなわち「手だて」です。

授業は、歌から始まります。この歌は、アバから最新のポップスまで、生徒も好きそうなものの中から、エフ(f)やヴィ(v)など日本語にない発音が含まれていることを基準に選ばれます。日本人には難しい発音も、歌いながら自然に身に付けさせようというねらいが込められているのです。
このように教材の選択・動き・発問などに「ねらい」を持っていることは、良い授業の条件のひとつです。

「先生たちは、当然『ねらい』を持って授業をしているのでは」と思う人もいるでしょう。そう、何となく授業をすることはしていません。多くの先生は、「ねらい」を持って授業をしています。
でも、良い授業とそうでない授業の差は、確実に出ます。それはなぜでしょう? その最大の原因は、「手だて」の差だと思います。
「どんな力をつけたいのか」という文章を書いてもらったとしても、先生の力量による違いはあまり出ません。なぜなら、学習指導要領に書いてあることを写せばよいからです(たまに、自分の言葉にしようとしてかえってわからない文章になったり、先輩の先生などのアドバイスを曲解してわかりづらいものにしてしまったりすることもありますが……)。つまり、「ねらい」となる「○○の力をつけたい」は、指導要領さえ読めば書けるはずなのです。
しかし、それを実現するために有効な「手だて」を選び、効果が発揮される状況を設定し、生徒たちの思考に沿った流れを実現できる人は少ないのです。

x先生の「手だて」の特徴は、「自然に身に付ける」です。
歌う時にはルールがあって、ジェスチャーつきで、歌詞の意味を体で表現しながら歌わなければなりません。
歌が終わると、宿題の答え合わせです。一人が読み上げ、合っていたらみんなが復唱します。次は、立たせてloveのvの音が正しく発音されているか一人ずつチェックします。OKなら座ります。
このようにクラス全員が、発言者の声に注目し、正解なら自分も参加する。または、声を出す機会が授業中に必ずあるといった、常に授業に参加する機会を用意するというのも「手だて」のひとつです。
生徒の実態にあった「手だて」が駆使された授業では、子どもたちが自然と主体的に取り組む姿勢になります。

この後、x先生は、教科書の例文を、声に出し身振りをつけて読みます。たとえば「I love tennis.」という文章では、Iで自分を指し、loveでは手でハートをつくり、tennisでラケットを振る。次に、その例文を基に、tennisをbaseballに変えるなど、自分のこと、身の回りのことを英語で話す会話を工夫するよう指導していきます。
ジェスチャーはいろいろあります。胸に手を当てるとmy、長い髪は、mother、文章を書く仕草はworks、libraryは本をめくることで表現しました。
常にジェスチャーをし、体で英語を覚えるのです。もし、思い出せないというときも、このジェスチャーが、記憶の片隅にある言葉を引っ張り出す鍵となります。
考え抜かれた「手だて」が仕組まれた授業の結果、生徒たちは、英語を使え、伝えられる楽しさを実感していきます。

授業参観などで、先生がどんな「教える技術」である「手だて」を使っているのだろうかと思いながら見ると、お子さんを教える時のヒントにきっとなると思います。


プロフィール

桑山裕明

桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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