ペア学習で英語が好きになる[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。「NHKデジタル教材」という番組とWebを組み合わせた教材作りや、全国のとびきりの授業を伝える番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。

今回は、富山県の中学校で英語を教えていたi先生の授業を紹介したいと思います。もっとも特徴的なのは、i先生は、2人1組で学ぶペア学習という手法を授業に取り入れている点です。
ペアは、英語が苦手なパートナーが、教えてもらいたい友達をペアリーダーとして選んで作られています。このペアを作って学ぶことで、友達同士、悩みをうちあけやすくし、英語を話す機会を増やしていきます。
また、このペアというコミュニケーションの最小ユニットは、習熟度別指導や少人数指導がやりやすい形です。つまり、ペア学習は、実践的なコミュニケーション能力を身に付けるには非常に適した形であり、この能力を身に付けると、相手の言っていることに耳を傾け、前向きな意見を言い合い、共に学び合おうとするような集団へと自然に変容していきます。まさに、居心地の良い学級です。
「学級作り」を授業の原点にすることは、最も重要な授業の達人の要素のひとつです。

i先生がペア学習を始めたのは、およそ20年前だそうです。それまでは、最初に教師が説明し、それから声に出すなどの表現をする活動を行っていました。つまり、先生の指示で生徒が動くような授業です。また、「入試に出るぞ」「テストに出すよ」といった外発的な指導もしたそうです。生徒たち自身が意欲的に向き合うための仕掛けがないのですから、結果も当然出なかったそうです。
それが、期末テストの答え合わせを生徒同士で行った時、一組の女子ペアがとても楽しそうに学んでいるのを見て自分の授業方法を改善したのだそうです。この時、A子さん(英語の得意な生徒)は、B子さん(苦手な生徒)に対して、答えを一切言わずに、キーワードに線を引かせ、ヒントを言って答えを導きだしていたのです。B子さんは「ああ、そうか!」や「あっ、わかった!」などの言葉をどんどん発していたそうです。
生徒たちを授業の主役にするために、i先生は、ペアで共同作業をしたり、ペア同士を競い合わせたりと、さまざまなバリエーションを取り入れました。

今回、ペアたちが取り組むのは、「トライアングル・ディスカッション」という課題で、パートナー3人が3分間英語で会話を続けるというものです。非常にゴールのイメージを持ちやすい課題です。このようなハッキリした目標を提示するのも授業の達人の要素のひとつです。

まず、ペアリーダーとパートナーは、何を勉強できればよいのか、計画を立てます。「文法」や「ヒアリング」といった弱点を確かめ合うほか、「徐々にやろう」など進め方も考えます。
i先生は、ペアが学習の工夫を重ねるのを見守るとともに、アンケートをとり、細かな指導を加えていきます。

先生がペアリーダーへアドバイスしているところのやりとりの一例です。
先生:どう?
生徒:微妙。
先生:どんなところが微妙なの?
生徒:言いたいことはあるが単語が出てこない。
先生:単語が出てこない時あなたは何と言っているの?
どんなアドバイスをしているの?
生徒:日本語で「何を言いたいの?」と聞く。
先生:できるだけ知っている単語で繋げること。さらに、「知らない単語を全部英語に変えていくのではなくてよい」とサポートしてね。
そうすると彼も考えるようになっていくから。
何が駄目かを指摘するのではなく、≪どうすればよいのか≫を指摘する。これも授業の達人の要素のひとつです。

また、なかなか言いたいことが見つからず、会話が続かない場合、表現力を身に付ける練習を行います。練習場所は階段。1階と2階に分かれ、顔が見えない状態で会話をするのです。聞こえるのは声だけ。すると、相手が見えないと伝わっているかどうかがわからず心配になります。だから、何とか伝えたいという気持ちが高まってきます。つまり、伝えたい気持ちを大切にする練習です。相手を思いやる気持ちこそが、会話を続ける原動力なのです。

自分の意見をしっかり言えた生徒。
会話を深める努力をした生徒。
積極的に話を盛り上げた生徒。
途切れそうになると、必死に話を繋いだ生徒。
トライアングル・ディスカッションは、みんながんばりました。

最後に、i先生が語った言葉が印象に残っています。
「大切なのは、コミュニケーション。相手の話を聞いて、何とか繋げようとするのが、コミュニケーションの原点。そのためには、「何を言いたいのだろう?」と相手に関心を持つということ。
相手のメッセージに対して、自分はこんなことを言ってあげたいという気持ちを持ってほしい。そして、表現力を身に付けて、魅力ある人間になってほしい。この人と話したいと思われるような魅力ある人間になってほしい」
授業に、生き方のメッセージが込められている。これも授業の達人の要素のひとつです。

最後に、きっと疑問に思うかたもいると思うので書きたいと思います。
学力差のあるペアを作ることを差別と考える生徒はいないかということです。
i先生は、ペア学習を始める前に、必ず1時間オリエンテーションの時間をとるそうです。その時、「上下関係が生まれたり、間違いを笑ったりするようなクラスにしてはいけない。お互いに相手のことを考えると二人とも伸びるが、一方が自分勝手なことをすると二人とも落ち込む」と伝えます。
また、ペア学習を進めていくうちに、ペアリーダーが命令をしたり、パートナーが協力しなかったりするような場面が見られた場合は、厳しく指導するそうです。
ペア学習は、生徒たちに任せながら、先生が生徒の個性を見抜く力がより求められる授業方法だと思いました。

プロフィール

桑山裕明

桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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