日本語を忘れる 第18回 [Oh,my Gooodness!]

親子で英語圏に住み、現地の学校に行きながら英語を学ぶ……。3歳の娘と母親である筆者は、夫のアメリカ転勤のために、そんな理想的な環境に飛び込むことになりました。果たして本当に「子どもは英語にすぐ慣れるから大丈夫」? アメリカに住みながら英語を学ぶメリットとデメリットとは? 筆者のアメリカ生活をとおして、日本に住むご家庭では、どんな取り組みができるのか考えていきます。
※「Oh,my Gooodness!」とは、「あらまあ!」という驚きを表すことば。

日本人のお母さんたちで集まって子どもたちを遊ばせていたある日のこと。
「うちの子はこっちに来て半年で、英語に切り替わっちゃったのよ」
とあるお母さんが言った。
一瞬私は、自分の耳を疑った。うちの娘は、半年たっても「英語がいやだ」と言ってぐずっていたのに、その半年のあいだに、母国語が英語になってしまうなんて!

そこのご家庭は、母親が日本人で父親がアメリカ人なので、お母さんは日本語、お父さんは英語を話している。子どもたちは日本で生まれ育ち、幼稚園のころに渡米してきた。日本にいたとき、子どもたちは日本語を普通に話し、他の日本人の子どもと何ら変わるところはないように見えたという。そうはいっても父親の英語を聞いてリスニングの下地ができていたに違いない。

「アメリカに来て、こっちの学校に行き始めたら、あっという間に英語を話すようになったの」
「すごい! でも、お母さんは日本語で話しかけていたんでしょ?」
「そうなの。今だってずっと普通に日本語で話しかけているのよ」
 確かに、あとで様子を見ると
「そろそろ帰るわよ」
「Mommy, five more minutes!」(あと5分!)
といった具合に、お母さんは日本語、子どもは英語をしゃべっている。お互いに相手の言葉のヒアリングはできているのだ。

彼女はアメリカに来てからも、日本語の絵本は毎日のように読んで聞かせていたそうだ。あるときビデオがこわれて、日本語の番組が見られず、それがきっかけで英語のテレビを見始めた。しばらくすると、気が付いたら、子どもの言葉がすべて英語になっていたのだという。「あっ、と思ったけどもう遅かった。幼稚園のころって、英語を覚えるのも速いけれど、日本語を忘れるのも速いのね。英語を覚えてくれたのはうれしいんだけれど、今はもう日本語で話しかけても、英語でしか返ってこなくなったの」

彼女のお子さんたちは、将来アメリカに永住する可能性も大きい。英語がメインの言語になったほうがかえって良いかもしれないし、いずれ日本に戻る我が家とは事情も違う。とはいえ、この話は衝撃的だった。子どもには英語を覚えてほしいが、母国語が英語になってしまっては困る。

その後、いろいろな人から話を聞いてみたところ、小学校高学年以前にアメリカに来た子は英語のほうが優勢に、それ以降に来た子は日本語のほうが優勢になりがちだという。子どもの脳みその中で、限られたスペースを、日本語と英語が激しく奪い合っているのだろう。
アメリカの保育園に行かせて英語を大量にインプットしている以上、ものすごい努力をしなければ、これからうちの娘は日本語を確実に忘れていくに違いない。英語はもちろんだが、日本語を重視しないと大変なことになる。思わず背筋が寒くなる話だった。

プロフィール

山本美芽

音楽・ノンフィクションライター。中学校教諭、養護学校教諭からライターに転身。現在は音楽と教育をテーマに執筆活動を行う。著書に「りんごは赤じゃない 正しいプライドの育て方」「子どものセンスは夕焼けが作る」など。2006年3月より米カリフォルニア州在住。1児の母。

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