英語学習の果てに 第14回 [Oh,my Gooodness!]

親子で英語圏に住み、現地の学校に行きながら英語を学ぶ……。3歳の娘と母親である筆者は、夫のアメリカ転勤のために、そんな理想的な環境に飛び込むことになりました。果たして本当に「子どもは英語にすぐ慣れるから大丈夫」? アメリカに住みながら英語を学ぶメリットとデメリットとは? 筆者のアメリカ生活をとおして、日本に住むご家庭では、どんな取り組みができるのか考えていきます。
※「Oh,my Gooodness!」とは、「あらまあ!」という驚きを表すことば。

「いやだいやだ」と言いながらも娘が保育園に慣れて「やれやれ」と思い始めたころのことだ。ネットサーフィンをしていたら、憂うつな言葉が目に入ってきた。
「私の子どもは英国で生まれて3つまで英国で育ったけれど、日本に帰ってきて1カ月もしたら、英語なんて全然話さなくなってしまった」
新しい文部科学大臣が、小学校の英語の授業について語ったとき、そんなコメントが含まれていたという。「うちの子も、そうなるかも……」と思った瞬間に、なんだか一気に目の前がずーんと暗くなった。

いま、これだけ苦しい思いをして親子で英語に慣れるための努力を必死に続けて、泣きながら我慢して英語の保育園に毎日かよって「英語をしゃべれるようになったとしても、日本に帰ったら、結局ゼロに戻ってしまうのではないだろうか」「日本語はまわりよりも遅れていて、ヘンな英語交じりの日本語を話して、周囲から浮いていじめられたら?」考えれば考えるほど、私は恐ろしくなってしまった。

滞在3年目、4年目を迎えている日本人のお母さんたちに話を聞くと、みんな似たような心配をしているらしい。在米2年を過ぎたあたりから、英語が上達するかわりに、日本語があやしくなるそうだ。特に小学校に入って、朝から午後まで英語の環境で過ごすようになると、てきめんに英語のほうが優勢になるという。あるお母さんは、「この前、うちの子は『教室』って言葉が出てこなかったのよ」と憤慨していた。「『ほら、classroomだよ。classroom。あれ、なんだっけ日本語で……?』とか言っているの。いつも家では日本語で、って徹底しているのに、ショックだったわ」
日本に帰国すると、しばらくは日本語に苦労するが、やがて取り戻す。そのかわり英語は2カ月から半年で忘れてしまうそうだ。維持させるためには、アメリカンスクールに毎日かようぐらいの覚悟が必要なんだとか。「結局、英語がいくらできたって、日本に帰る以上は日本語がきちんとできないと話にならないのよね……」とママ友達はため息をつくのだった。

こうした話を聞いてはいたものの、うちの娘はまだ大丈夫だろうと私はたかをくくっていた。ところが10月のハロウィーンのころに、娘はかぼちゃを「パンプキン」と覚えてしまったのだ。かぼちゃを見ると、娘は必ず「あっ、パンプキン!」と声をあげる。いくら「かぼちゃだよ」と教えても、口から出てくるのは「パンプキン」なのだ。
アメリカでは保育園に行ってもテレビを見ても「かぼちゃ」なんて誰も言っていないから、仕方ないといえばそれまでだ。しかし「こうやって日本語を忘れていくのか」と、私は恐ろしくなった。それ以後は、保育園で「dinosaur」のテーマに取り組み始めたら即座に「今日、恐竜のことを習ったの?」などとしつこく話しかけ、英単語よりも日本語を先に覚えさせるようにしている。

英語ができないと嘆き、英語が少しできるようになったら、今度は日本語があやしくなる。まったく英語教育というのは、一筋縄ではいかない茨(いばら)の道だ。

プロフィール

山本美芽

音楽・ノンフィクションライター。中学校教諭、養護学校教諭からライターに転身。現在は音楽と教育をテーマに執筆活動を行う。著書に「りんごは赤じゃない 正しいプライドの育て方」「子どものセンスは夕焼けが作る」など。2006年3月より米カリフォルニア州在住。1児の母。

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