「ノー、サンキュー」その後 第13回 [Oh,my Gooodness!]

親子で英語圏に住み、現地の学校に行きながら英語を学ぶ……。3歳の娘と母親である筆者は、夫のアメリカ転勤のために、そんな理想的な環境に飛び込むことになりました。果たして本当に「子どもは英語にすぐ慣れるから大丈夫」? アメリカに住みながら英語を学ぶメリットとデメリットとは? 筆者のアメリカ生活をとおして、日本に住むご家庭では、どんな取り組みができるのか考えていきます。
※「Oh,my Gooodness!」とは、「あらまあ!」という驚きを表すことば。

広い空一面を覆い尽くす淡いスカイブルー、そこに散らばる白い雲、そしてまぶしい朝日。素晴らしいカリフォルニアの空を見ながら、毎朝、私と娘は保育園に車で向かう。ハンドルを切りながら、私は後部座席のチャイルドシートの娘に話しかける。
「ねえ、きのうは『ノー、サンキュー』って言えた?」
「きのうはね、だーれも、ぶってこなかったの。だから言わなくて大丈夫だったの」
「よかったねー。でも、今日は誰かぶってくるかもしれないよ。そうしたら、なんて言うの?」
「ノー、サンキュー……」
弱々しくつぶやいた娘に、私はちょっと低い声でこう答えた。
「あのね、そんなふうに、かわいい声で『ノー、サンキュー』って言っていたら、いやだって気持ちが伝わらないのよ。いやなときは、こわーい声で、『ノー、サンキュー!!』って言わないとね」
「うん……」

娘は特訓をしてから「ノー、サンキュー」は言えるようになったのだが(「第8回 決死の特訓」)、どうも声が小さく、ちゃんと意思が伝わっていないようだった。こちらの保育園では、日本人よりも全体的に声が大きい。特に先生たちは、「ハーイ」だとか「How are you?」など、おなかの底から出す声でしっかりと叫んでいるのだ。慣れるまでは少々怖かったくらい。多分、日本で同じ声量で話したら「うるさい」と言われるだろう。

当然ながら、あいさつしようとしても大声で手を振りながら「ハーイ!!」と言わないと、気付いてもらえない場合がある。アメリカ人の子どもたちも、日本人の子どもたちよりは全体的に声が大きく、「ミス・ジェニー!!」と先生に助けを求めて駆け寄るときの声など、思わず「えっ?」と振り返ってしまうほどの迫力だ。

そんなわけで、「ノー、サンキュー」とせっかく言葉が出ても、声が小さいとほとんど意味をなさない。したがって、大きな声を出せることが課題となってくる。
遊び感覚で「ほらあ、怖い声で『ノー、サンキュー』言ってごらん。『ノー、サンキューッ!!』」と私が叫ぶと、娘もまねして同じように「ノー、サンキュー!!」と叫ぶ。
「うわっ、今のはちょっと怖かったね。上手だったよ」
「そうだよ。ちゃんと言えるもん」

私達のアメリカ滞在は4年間の予定だから、先はまだ長い。アメリカの子ども社会で娘が生き抜くためには、大声で毅然と「ノー、サンキュー」が言えるようにしなければならない。まるでピアノの練習をするかのように、私と娘は、「ノー、サンキュー」の練習を毎日続けている。

プロフィール

山本美芽

音楽・ノンフィクションライター。中学校教諭、養護学校教諭からライターに転身。現在は音楽と教育をテーマに執筆活動を行う。著書に「りんごは赤じゃない 正しいプライドの育て方」「子どものセンスは夕焼けが作る」など。2006年3月より米カリフォルニア州在住。1児の母。

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