「起業家教育」で小中学生の学習意欲向上にも期待

日本でも経済・雇用環境が大きく変化しつつあることは、保護者の方々が実感していると思います。新卒で採用された会社で定年まで働き続ける「日本型雇用慣行」や年功序列制も、徐々に崩れつつあります。今の子どもたちが働き盛りになるころには、そうした流れがいっそう進んでいることでしょう。そうした近い将来を見越して、注目されているのが「起業家教育」です。自ら事業を起こす人材を育てようというものですが、必ずしも大学や専門高校だけの課題ではありません。

経済産業省は2015(平成27)年度予算案の中に、「起業家教育事業」(外部のPDFにリンク)を盛り込みました。大学等でビジネスプランコンテストを開催するなど起業家教育を普及させることはもとより、小・中学校を対象として地元起業家との交流・職場見学、事例集の作成などに取り組み、全国的な普及を図りたい考えです。
小・中学生のうちから起業家精神を育むことは、確かに将来の夢を広げるという点では有効でしょう。経産省でも、起業家精神を持つ人材の裾野を拡大することで、実際に起業する人々を増やしたい考えです。ただ教育の面から考えると、そうした直接的な効果にとどまらない意義がありそうです。

いま学校では、「キャリア教育」の充実に取り組んでいます。キャリア教育と聞くと一見、就職活動のためか、就職後のステップアップのためと思ってしまいますが、教育界では独特の定義をしています。「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」(2011<平成23>年1月の中央教育審議会答申<外部のPDFにリンク>)というもので、一定の職業に必要な知識や能力などを育てる「職業教育」とは区別しています。しかも、幼児期の教育から高等教育(大学などの教育)まで、体系的なキャリア教育を進めるべきものとしています。
たとえば、小学校でのキャリア教育の目標は、(1)自己及び他者への積極的関心の形成・発展(2)身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上(3)夢や希望、憧れる自己イメージの獲得(4)勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の形成(国立教育政策研究所のパンフレット<(外部のPDFにリンク)>)とされており、校外活動や「総合的な学習の時間」はもとより、生活科、社会科だけでなく理科、家庭科などの授業でもキャリア教育を行うことを求めています。学んでいる内容が社会とつながっていることを実感することで、学習意欲にもつながるとされています。

2014(平成26)年11月には学習指導要領の全面改訂を求めた諮問が行われましたが、そこでも生産年齢人口の減少や技術革新の時代を見据えて「一人一人の多様性を原動力とし、新たな価値を生み出していくことが必要」だとしています。
これからの時代は、たとえ会社勤めであっても決まった仕事だけこなしていればよいわけではないことも、保護者の方々が実感していることでしょう。起業家精神を育むことは、起業する・しないにかかわらず、今後の社会を生きる子どもたちに必要なキャリア教育なのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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