かけっこで1番になる! 基本編

本サイトの動画「かけっこ・速く走る方法・コツ(運動能力開発シリーズ)」では、身体運動科学の専門家である深代千之先生に、基礎的な運動スキルを身につけるための練習法について教えていただきました。
深代先生は、いつ、どんな運動を行えば良いか、発達段階に応じた練習法を研究されています。

<深代先生インタビュー>
「スポーツ科学で走りを分析した結果、股関節をうまく使って走ると、速く走れることがわかってきました。股関節のまわりにある筋肉は、速く走るうえで重要な役割を担っています。たとえば、足を後ろから前へもってくるときは、お腹の下あたりにある腸腰筋が強く収縮すると、足はギュンと速く前にもってこられます。前にいった足を後ろに振り戻すときは、お尻の筋肉(大臀筋<だいでんきん>)や、ももの裏の筋肉(ハムストリングス)を使って走ることが大事になります。つまり、股関節がうまく働いて、足を前後にスイングさせると、速く走れるとわかってきたのです」

では次からの「ドリル」を見ながら、実際に足が速くなる練習をしてみましょう!

▼「第1回『かけっこで1番になる!基本編』」動画

ドリル1
「足の力を効率よく使う」



速く身体を前に移動するには、地面をうまくける=前方向にまっすぐにけることが大切。男の子に多いガニ股で内側にけってしまう走り方、女の子に多いX足で外側にけってしまう走り方では、前にいく力になりにくいのです。



やってみよう! 線を中心にして走る
線を中心にして、まっすぐ走る感覚を身につけます。両足は肩幅ぐらいの広さです。
 <ポイント>
  ●着地したとき、つま先はまっすぐ前
  ●地面をけるときも、真後ろへける


ドリル2
「腕の運動エネルギーを足に伝える」


速く走るためには、「腕のふり」がとても大事になります。腕をふって肩をねじると、体幹(=体の胴体部分)であるお腹がねじれ、腰が逆にひねられるので、股関節をうまく働かせることができます。腕をふることで生まれるエネルギーが、腰の回転に伝わることを覚えましょう。



やってみよう! 腕をリズミカルにふる
(1)まずは、両腕を同時にふる練習。前足に体重をかけ、軽く手をにぎり、ひじは直角に。腕を後ろに引く感じで、勢いよくふり子のようにふります。
(2)次に、腕を左右交互にリズミカルにふる練習。後ろ足は爪先立ち。腰を回そうとするのでなく、腕の動きが伝わって自然に腰が回るよう心がけます。
 <ポイント>
  ●ひじや手首に力を入れないこと
  ●腕のふりと腰の回転の連動を意識する


ドリル3
「足で素早く地面をける」


速く走るには、足が前から後ろに地面を押す一瞬に、足首とお腹を固めて、大きな力を出すことが大切です。地面をける一瞬で、大きな力が発揮できるよう、体全体を固め、エネルギーをためた状態から力を出す感覚を養いましょう。



やってみよう! 足首ジャンプ・人間ドリブル
(1)一瞬で地面を押す感覚を身につけるには「足首ジャンプ」が効果的。両足をそろえて、イチ、ニ、サーンのタイミングで、地面をしっかりけって、高くジャンプ。着地の瞬間は、体を固め、空中ではリラックス。ボールになったつもりで、ポンポンポンと高く弾むようにします。
(2)「人間ドリブル」という練習も、地面を強くける感覚を身につけます。後ろの子は、前の子の肩に両手を置いて、バスケットボールのドリブルのように、前の子のジャンプにあわせてトントンと肩を押します。押されるほうは、自分がボールになった気分で真上に弾みます。
 <ポイント>
  ●足で地面をしっかりける
  ●なるべく足首でうける


ドリル4
「ももを股関節だけで素早く上げる」


ももを高く上げようとすると、タイミングが遅くなってあまり速く走れません。ももを股関節だけで素早くギュンと引き上げます。そのときひざと足首がリラックスしていると、スムーズにムチのように足が前に運ばれます。



やってみよう! 素早いももの引き上げ
(1)背筋を伸ばし、ひざと足首をリラックスさせた状態で、素早くももを引き上げます。足首が自然に円を描きます。
(2)次に、素早くももを引きあげたまま、3回ジャンプ。左右交互に。
(3)慣れてきたら、すばやく左右の足を切り替えします。
 <ポイント>
  ●ももを高くではなく、素早く上げる
  ●ひざや足首はリラックスさせる


ドリル5
「足の引き戻しの感覚をつかむ」


前の足を棒のようにして引き戻す動作は、競歩の軸足にとても似ています。競歩こそ、足の引き戻し感覚をつかむ股関節の運動です。「なるべく速く歩く競歩」をしながら、地面をうまくとらえるという感覚を身につけましょう。



やってみよう! 競歩
(1)ひざはあまり曲げないで、できるだけ速く歩きます。ここで大切なのは、ももをハサミが交差するように、地面についた足を棒のようにして引き戻すこと。
(2)慣れてきたら、競歩のスピードを少しずつ上げて、そのまま走りにつなげていきます。
 <ポイント>
  ●ももをハサミのように交差させる
  ●地面についた足を棒のようにして、後ろへ引き戻す


最後に、速く走るための理想的なフォームの確認です。
1.踏み込む足はきちんと前へ。
2.大きくふられた腕の力が、腰の回転につながっています。
3.地面を強くけって
4.素早くももを引き上げ
5.伸ばした前足を股関節を使って引き戻しています。
股関節のスイング動作で走る、理想的な走り方です。

股関節をダイナミックに動かして走る基本動作を身につけることで、だれでも、今よりずっと速く走ることができます。ぜひ、お子さまといっしょにドリルに挑戦してください。


プロフィール


深代千之

東京大学大学院 総合文化研究科 教授。(社)日本体育学会理事、日本バイオメカニクス学会理事長、日本陸上競技連盟元科学委員。文部科学省の冊子や保健体育教科書の作成にも関わる。*主な著書:「運動会で1番になる方法」「運脳神経のつくり方」など

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