難聴に進行する恐れも!? 子どもの耳痛や耳の病気

耳が痛いという場合、原因はいくつかに分かれます。最も多いのは、中耳などの耳内部に起きる炎症です。痛みの原因としては、大部分がこれに該当すると言ってよいでしょう。
激しい痛みを伴う場合、言葉を発することができない乳幼児でもしきりに耳を押さえたり、耳に手をやったりするしぐさを見せたりするので、痛みの原因が耳にあることくらいはわかるかもしれません。しかし耳には痛みを伴わない疾患もありますし、他の疾患が原因で難聴へと進行する場合もあります。


耳の構造上、子どもは中耳炎になりやすい

 「耳」と呼ばれる顔についた突起物が「耳介」です。耳介の下部は特に「耳たぶ」と呼ばれていますね。耳介の奥、入ってきた音を振動させる鼓膜までを外耳(道)と呼びます。鼓膜から先が中耳で、その奥が内耳です。内耳にはバランス感覚を保つ三半規管、また音を感じ取るための蝸牛(かぎゅう)や聴神経があり、頭蓋骨の中に入っています。

 

中耳には、外耳に入ってきた音を振動させて増幅させ、脳が聞き取りやすくするという役目があります。中耳から先を耳管といい、耳管は奥に行くほど下がっていますが、子どもの場合はその角度が緩やかであり、年齢とともに下がる角度が大きくなっていくのが特徴です。また、子どもの耳管は太く、年齢とともに細くなっていきます。耳管は先の方で鼻の奥とつながっています。いずれも、中耳炎が子どもに多い理由です。

 

では具体的に子どもが痛がる耳の疾患にはどんなものがあるのか、詳しく見てみましょう。

 

 

耳に痛みを伴う急性中耳炎

≪原因≫

急性中耳炎はウイルスや細菌が原因で起きる、中耳の炎症です。いわゆる「風邪」はウイルス性の疾患ですが、子どもが風邪をひいたときに中耳炎を併発することが多いのは、風邪の原因がウイルスにあることと、子どもの耳の構造に起因しています。先に述べたように、子どもの耳管は太くしかも傾斜が緩やかなので、鼻から侵入し鼻の奥に付着したウイルスが耳管を伝って中耳まで届きやすいのです。風邪の治りかけといった時期に、子どもが耳を押さえて泣き止まないなどという場合、急性中耳炎を疑ってよいでしょう。

 

≪症状≫

急性中耳炎の症状は、発熱と耳だれ、さらに患部の痛みです。風邪をひいた子どもが耳を押さえて夜泣きするという場合がときどきあります。なぜ夜中に起きやすいかというと、横になることと関係がありそうです。恐らく、中耳への血流が増えるせいではないかと言われていますが、医学的根拠は乏しいようです。

 

≪対処≫

激しい痛みを伴うことが多いので、まず痛みをとってあげることが大切です。家庭でてっとり早くしてあげられることは冷やすこと。ウイルスによる炎症が原因でもあるので、冷やすことには一定の効果が期待できます。

 

受診後の治療としては、抗生剤の投与や耳だれの元である膿(うみ)を出すための治療です。ただし抗生剤は原因菌が耐性をもつ可能性がありますので、近年では慎重に投与する傾向にあります。中耳炎は完治しやすい病気ですし、子どもの場合は原因が風邪にあるということが多いです。そのため最近は痛み止めの処方にとどめ、切開や抗生剤の投与をせずに、保存的治療といって経過観察する場合が増えています。急性中耳炎は聴力低下の一因ともなります。自分の判断で通院を止めたりせず、専門医に大丈夫と言われるまではしっかりと診てもらってください。

 

 

難聴を引き起こす滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)

≪原因≫

鼓膜の内側にある中耳腔に滲出した液体が貯留された状態です。この貯留液は耳管の炎症によって滲出した液体がたまったもので、外耳から侵入したものではありません。従って、水泳で耳に水が入ったからといって、滲出性中耳炎に直結するわけではありません。
耳管が通常に機能した状態であれば、この滲出液は粘膜を通じて吸収されるか耳管から鼻腔に抜けて排出されます。急性中耳炎が充分に完治しないまま放置した場合など、このような状態になり滲出性中耳炎へと進行することがあるので要注意です。

 

≪症状≫

痛みや発熱を伴うことはほとんどありません。最も顕著な症状は難聴です。中耳腔内に貯留された滲出液が音の伝達をブロックしてしまうため、耳が聞こえにくくなります。痛みを伴わないため、周囲にいる人が異常に気づくという場合もあります。

 

・今までより話し声が大きくなった

・後ろから呼びかけても、かなり大きな声で呼ばないと振り向かない

・テレビの音を大きくしたがる

 

このような傾向が見られた場合、専門医を受診してください。

 

≪対処≫

外科的な治療が中心となります。

・耳管通気
 →耳管に空気を通し、滲出液の排出を促します

 

・鼓膜切開
 →鼓膜を小さく切開し滲出液を排出します。鼓膜は自力で再生し切開痕を塞ぎます

 

・チューブ
 →切開した鼓膜にチューブを入れ持続的に貯留液を排出します

 

滲出性中耳炎の場合、滲出液がたまる原因を特定することができない限り、聞こえづらい状態が再来します。そのため、根気強い治療が必要です。耳と鼻はつながっていますので、専門医による適切な治療が不可欠と認識しましょう。

 

 

小児性難聴を放置すれば慢性化してしまいますし、日常の生活に支障をきたすことになります。また放置した結果、真珠腫性中耳炎や癒着性中耳炎に進行する場合もあります。真珠腫性中耳炎は、顔面麻痺(まひ)や髄膜炎を引き起こしたりします。治療には手術が必要となってしまいます。
このように滲出性中耳炎は痛みを伴わない疾患なだけに、しっかりと見守ってあげてください。

 

 

プロフィール



医療法人社団悠翔会 悠翔会在宅クリニック川崎 院長

宮原裕美
芝パーククリニック 内科医員

子育て・教育Q&A