相手を納得させられる「証明」に挑戦する数学の授業[こんな先生に教えてほしい]
毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。
今回紹介するのは、高校2年生の数学の授業です。大阪府のAB先生の第一声は……「○○君、納得した? ホンマ? ケチつけるのなら、ケチつけてもいいんやで! エエカ?」
生徒との距離の近さを感じさせる発言です。身近に感じながら、話を聞きたいと感じさせる大人。これは、よい先生の条件のひとつだと思います。
この授業は、証明問題についてでした。授業中、思わず笑ってしまったのが、生徒に証明の方法を考えさせている時の、先生のアドバイスです。
「証明には、たくさん仕方があるが……その中で、一番カッコイイやつを探せ! でも大事なのは、相手に伝わることやで!」
「こう来たか!」と思いながら生徒を見ると……みんな「わかった!」という表情をしているのです。先生と生徒の信頼関係を感じる瞬間です。このような関係を築けるのは、当然よい先生の条件のひとつです。
さて、「暮らしの中で役立つ数学」がモットーのAB先生の証明問題の授業ですが……まず先生は、「まず、幼稚園児になれ!」と言い、「秋の遠足でイモ掘りに行って、大きなイモを掘りあてたとする。そして周りを見渡し、君だったら何と言う?」と生徒を指名しました。
生徒:俺のが大きい。
先生:そうやな! でもな……後ろで掘っとったやつが……「何を言う、俺のが大きい」と言った。どないする?
この2人の勝負をどうすればいいのか? 生徒たちは、いろいろなアイデアを出します。
生徒1:ほかの人に見てもらう。
先生:でも、20人に聞いて10対10だったらどうする?
生徒2:重さを測る。
先生:「俺は、体積のことを言っているんや」という反論が出たらどうする?
生徒たちは、無言に……。
ここで、先生は「証明とは、生きていると必ず出てくる自分や他人の主張や発見を相手に納得してもらうためのもの。つまり、どうすれば相手が納得させられるかを学ぶためのトレーニングということ。だから、知っておくと役に立つ」と伝えたのです。さらに、「どんな手を使ってもいい。ただ、誰にでもわかりやすく説明できないといけない」と付け加えました。
次の問題は、小学3年生の妹に聞かれたという設定でした。
「三角形、3つの角度を足したら180度。それはなんで?」
生徒3:
先生:小学3年生にわかる? もっと単純に行こうぜ。
生徒4:紙を切って、角を切って貼ると直線になる。
先生:いけるな。
すると……、
先生:じゃ今度は、紙を破ったらいかん。
生徒5:紙を折ったら?
先生:折ってみようか?
すると……あえて、うまくいかないように折り……。
先生:うまくいくときといかない時が出たらいかんな……誰がやってもできる方法を考えよう。
生徒たちは考えました。
1)まず、Aと底辺を結ぶ線が垂直(90度)になるよう折る。
2)続いて各頂点をA(赤)、B(青)、C(緑)の順で折る。
3)三角形の内角(A+B+C)は一直線になり、180度となる。
最後の問題は……
1
1+2
1+2+3
1+2+3+4
1+2+3+4+5
この中から規則性を見つけ出し、証明するというものです。
AB先生は、「まず、答えを出して、じっくり眺めるように!」という指示を出しました。
生徒6:足す数が全部で奇数の時、最後の数と真ん中の数をかけると答えになる。
たとえば、
1+2+3+4+5=15
最後の数5と真ん中の数3をかけると
5×3=15
先生:そのとおり!
発見したことを文章にして、整理してと伝えます。
証明に欠かせないことは3つ。
(1)発見した規則性は、整理して文章にする。
(2)数字と文字で正しく式を作る。
(3)相手に説明する時、イメージがわくように図など使う。
生徒(7)は、
1
1+2
1+2+3
1+2+3+4
1+2+3+4+5
・
・
・
1+2+3+4+5+……+n=x
これを
n²-(x-n)=x
という式で表しました。
つまり、最後の数の2乗から前の段の合計を引くと答えxになります。
これを図を使って説明すると、
x-nとは……
ということなので……
したがって、n²からx-nを引くというのは、
ということになり、求めたい1+2+3+4+5+……+n=xとなる。
この授業でAB先生が工夫したのは、「教師の教えすぎを排除する」ことでした。生徒が発見したことに対して常に驚きの表情を見せ、「本当か? いつでもそうなるか?」と一言添えるようにしたこと。それだけだと言います。
そして、「手応えは、どうでしたか?」という質問に対する答えは……。
「やはり生徒はすばらしい。待てば必ず何かを見つけてくれる。授業はいつも筋書きのないドラマで、スリリングやな……」
こんな授業だったら、数学を苦手という子どもたちも好きになるのではないかと思いました。