犯罪が起こりやすい場所と地域安全マップ【後編】

子どもに地域安全マップを作製させる場合には、まず、子どもに「入りやすい場所」と「見えにくい場所」が危険な場所であることを教えます。次に、この二つの基準に基づいて街を点検するために、カメラ持参でフィールドワーク(街歩き)を実施します。街の探検を終えたら、街歩きで発見した危険な場所を、地域安全マップとしてまとめます。まず、模造紙に道路や建物などを描き、次に、そこに現像した写真を貼り、最後に、吹き出しなどを使ってコメントを書き込みます。

このような体験学習を行うと、子どもは、どのような場所で犯罪が起こりやすいのかが理解できるようになります。そうなれば、より安全な道を選ぶようになり、危険な道を歩かざるを得ないときにも、その自覚があるので、友達と一緒に行動したり、いつもより注意力を高めたりすることが期待できます。

このように、地域安全マップづくりには、子どもを守る効果が期待できますが、前回紹介した「犯罪機会論」を踏まえて作らないと、効果が小さいマップになってしまいます。また、作り方によっては、新たな問題をもたらす有害なマップになってしまうこともあります。

例えば、実際に犯罪が起きた場所を表示した地図(犯罪発生マップ)は、作り方を間違えた地図です。犯罪が起きた場所だけで、その後も犯罪が起き続けるわけではないので、その場所に執着していると、他の場所で油断し、犯罪の被害に遭うことにもなりかねません。また、犯罪が起きた場所を単純にそのまま地図に書き込むだけでは、危険な場所を見極める能力は育ちません。転校しても遠出しても、被害に遭わないためには、子ども自身の力で危険性を判断できるようになる必要があるのです。さらに、犯罪が起きた場所に執着すると、子どもの被害体験を聞き出すことに躍起になり、子どものトラウマ(心の傷)を深める危険性もあります。子どもから被害体験を聞いたアンケートは人権侵害に当たるとして、弁護士会に人権救済の申し立てがなされた地域もあります。

また、不審者が出没した場所を表示した地図(不審者マップ)も、作り方を間違えた地図です。不審者マップは、不審者かどうかの判断が主観的であるため、特定の人や集団(知的障害者、ホームレス、外国人など)を不審者扱いした差別的な地図になる危険性があります。そもそも、不審者かどうかを事前に見極めるのは不可能に近いでしょう。子どもに、単純に「不審者に注意しましょう」と教えることは、「進んであいさつをしましょう」とか「困っている人を助けましょう」などと教えることと矛盾し、子どもを混乱させてしまいます。しかし、犯罪が起こりやすい場所を事前に見極めることは可能です。そこで、子どもには、「犯罪が起こりやすい場所にいる大人には十分警戒し、犯罪が起こりにくい場所にいる大人とは積極的に関わろう」と教えれば、混乱は避けられます。

このように、地域安全マップは、犯罪が起こりやすい場所を描く、未来志向の地図です。ただし、地域安全マップは、子どもが日ごろ不安に感じている場所を表示した地図でもありません。日ごろ不安に感じている場所では、子どもでも注意しているはずなので、その場所を単純に地図に落とすだけでは、地域に潜む危険を発見する能力は育ちません。

そのような能力を向上させるためには、犯罪が起こりやすい場所のキーワード、つまり、「入りやすい」と「見えにくい」を十分に意識する必要があります。このような「物差し」を子どもに与え、それで地域を測らせれば、地域に潜む危険性の発見という「気づき」も生まれてきます。例えば、「この公園は安全だと思って一人で遊んでいたけど、入りやすく見えにくい公園なので、これからは別の、入りにくく見えやすい公園に行こう」というような意識と行動につながるのです。二つのキーワードに照らして、場所の危険性を判断し、地域に潜む危険性を発見するという「気づき」の過程こそが、被害防止にとって最も重要なのです。

この地域安全マップの内容を詳しく知りたい場合には、私の最新刊『犯罪は「この場所」で起こる』(光文社新書)を書店で手に取ってみてください。


プロフィール

小宮信夫

小宮信夫

立正大学文学部社会学科教授(犯罪社会学)。東京都「地域安全マップ専科」総合アドバイザーをはじめ、地域安全マップの作成方法の開発者として、全国各地で地域安全マップづくりを支援している。

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