2024.7.25
教科担任制とは?そのメリットと課題を元教諭が解説
公立小学校の授業の一部を、学級担任以外の教員が受け持つ「教科担任制」が、2022年度から本格的に導入されました。教科担任制とはどのようなものか、その特徴やメリット、これからの方向性について、小学校での教科担任制を中心に説明します。
この記事のポイント
(小学校の)教科担任制とは
「教科担任制」とは、教科ごとに専任の先生が教えてくれる指導形態のことです。中学校や高校では、学級担任はいますが教科担任制が基本です。小学校ではこれまで、1人の先生が自分の担任するクラスについて、ほぼすべての教科を教える「学級担任制」が基本でした。2022年度からは、全国の公立小学校の高学年で教科担任制が導入されています。
ただし、すべての教科を一気に教科担任制にすることは人材確保や学校の運営上難しいため、当面は外国語・算数・体育・理科の4教科を優先的に進める考え方をとっています。2022年度の調査によると、学級担任以外の先生が指導した割合は教科によってばらつきがありました。理科や外国語は高く、国語や算数、体育は低い傾向でした。
また、教科担任制の対象学年の拡大も検討されています。2024年5月13日に行われた文部科学省の中央教育審議会では、教科担任制を現在の高学年(5、6年生)から3、4年生にも拡大する案がとりまとめられました。
出典:
令和4年度公立小・中学校等における教育課程の編成・実施状況調査の結果について-文部科学省
質の高い教師の確保特別部会(第13回) 配付資料 - 文部科学省 中央教育審議会 初等中等教育分科会
教科担任制の導入の背景と目的
教科担任制が取り入れられた背景として、小学校から中学校に入学した際に、新しい環境や授業の難易度についていけなくなるいわゆる「中1ギャップ」への対応が挙げられます。中学生になると学級担任制から教科担任制にかわり、学習内容も難しくなります。加えて、思春期特有の指導のきめ細やかさも求められてきます。そこで、小・中学校のつながりや学年の変わり目などをスムーズにすることで、学びの質を高め、義務教育の9年間をさらに有効なものにしようとしているのです。
また、タブレットなどを使った指導(GIGAスクール構想)を進めつつ、多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、才能を存分に伸ばすことができるような、新たな授業・指導が求められていることも挙げられます。
学びの質を高める仕組みと、よりよい指導。その具体策のひとつが教科担任制なのです。国は、各地域や学校の実態に応じた教科担任制を進めようしています。具体的には、指導形態別にいくつかのタイプがあります。
小学校の教科担任制の分類
1 完全教科担任制 …中学校同様に全ての教科で専科指導を行う
2 特定教科における教科担任制 …特定の教科を専科として指導を行う
3 学級担任間の授業交換 …学級担任同士で授業を入れ換える
4 学級担任とのチーム・ティーチング …学級担任を含む複数の教員で分担して指導する
※参考:義務教育9年間を見通した指導体制の在り方について-文部科学省
中1ギャップの解消など、子どもにとって教科担任制のメリットは複数ある
教科担任制を導入することのメリットは大きく4点あります。
1つめは、専門性の高い教員がさまざまな教材を活用してより熟練した指導を行えることです。より分かりやすく、質の高い授業によって、子どもの学習内容の理解度が高まり、学力向上につながります。
2つめは、教員1人が担当する授業数(持ちコマ数)の軽減や授業準備の効率化によって、教育活動が充実したり、教員の負担が軽減したりすることです。
3つめは、学級担任だけでなく、教科担任を加えた複数の視点で子どもを理解することや信頼関係を深めることで、子どもの心が安定することです。近年は、コロナ禍による影響や小学生の不登校の増加など、学校が子どもにとって安心・安全な場であることがますます重要になっています。教科担任制によってその効果を高めることが期待されます。
4つめは、小・中学校間の連携によって、小学校から中学校への円滑な接続(中1ギャップの解消など)が進むことです。教科担任制では、中学校の教員が、特定教科の高いスキルを生かして小学校の専科を受け持つケースが増えるでしょう。すると、小・中学校の教員が互いの授業を参考にしたり、情報を共有したりする機会も増えます。「小学生の指導ではここがつまずきやすかったから、(中学校の)授業でも振り返る時間をとろう」「中学校ではこんな抽象的な内容を指導するのか。普段の(6年生の)授業でも意識してみよう」などと、小・中学校が互いを意識した指導を行うことができます。子どもにとっても、中学校での授業の雰囲気をあらかじめ知っておくことができ、指導された経験がある先生が中学校にいることで安心感が生まれます。結果、中学校生活になじみやすくなり、「中1ギャップ」の解消が期待できるのです。
これらはいずれも、先行実施した学校での調査研究結果などから成果が確認されています。
他にも、教員自身の声として「自分の好きな教科について何回も語りながら授業できることは、自身のウェルビーイングにもつながる」「学年担任全員で学年の子を見るという気持ちになれる。経験が浅くても心強い」といった声があがっています。
教科担任制には課題やデメリットも
教科担任制を進めるにあたって、懸念点もあります。過疎地域や小規模校では、教科担任制を実施できるだけの先生数に余裕がありません。教員の数を全体的に増やさない限り、全国的な普及や全教科での実現は難しいでしょう。また、小学校と中学校とでは必要な教員免許の種類も異なりますし、授業1時間あたりの長さも45分・50分と異なります。同じ学校内の中学校から専科の先生を呼ぶ場合などは、そうした小・中学校の仕組み上の違いを乗り越える難しさがあります。
加えて、学級担任がすべての教科を教えることで、「いま国語でこの表現を学習したから、他の教科でも同じ表現を積極的に使っていこう」といった、複数の教科を連携させる指導(カリキュラム・マネジメント)の視点が薄れがちになります。教員が教科どうしを連携させる意識を持ち続けられるような、学校ぐるみの工夫が不可欠になります。
同様に、学級担任制では子どもの特徴や家庭環境、その日の体調・状況などに応じた指導を臨機応変に行えていましたが、教科担任制により1人の子どもを複数人で指導する場合は、教員間で意識的に情報を共有する必要性が高まります。
教科担任制の導入事例
その地域・学校の特徴や課題を踏まえた工夫により、教科担任制の効果を高めている事例も。
北海道のある小学校では、国語、社会、算数(学級担任の授業交換)、音楽(専科)、理科、外国語(中学校教員による授業)の6教科を教科担任制にしています。担当する教科は、学級担任の担当授業時間数のバランスや教員の経験や得意分野を考慮して決定。また、担当しない教科の指導力を落とさず、担当する教科の専門性を高められるように学校ぐるみで研修の機会を増やすよう工夫しています。さらには、中学校の授業にも定期的に参加することで、小・中学校の両方の視点を持って指導できるようにしています。
それらの工夫によって、業務の負担軽減や、小中学校間の連携の強化など多くの成果を得られました。児童自身も、「それぞれの先生の得意な教科だから、授業が分かりやすい」「中学校に行っても、知っている先生がいるので安心できる」といった効果を実感しています。
出典:小学校高学年における教科担任制に関する事例集~小学校教育の活性化に繋げるために~(令和5年3月)-文部科学省
教科担任制の今後の展望
限られた教員数や制度上の制約のもとでは、小学校における教科担任制は当面、学級担任どうしの授業交換が中心となることが予測されます。しかし、教科担任制のメリットが最大限に発揮されるためには、専科による指導の割合を高める方向性が望まれます。専科の割合を高めることと、必要な制度や予算の手立てを講じることはセットで進めることが大前提です。
学校現場においても、日々の授業に対する教員の意識を変えていくことが必要かもしれません。教壇上から一斉指導する授業から、子どもが主体となってICTを活用しながらおのおののペースで学びを進めるスタイルに変えていくのです。すると、教科担任制への移行スピードが遅くても、最終目的である「これからの時代に必要な力が身につく」授業に近づけるのではないでしょうか。
取材・執筆:神田有希子
※掲載されている内容は2024年6月時点の情報です。
監修者
庄子寛之しょうじひろゆき
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 主任研究員
臨床心理学科を修了し、人をやる気にさせる声かけや環境づくりを専門とする。
全国各地で研修を行い、研修回数は400回を超え、受講者も10,000人以上となる。