五輪メダリスト宮下純一さんインタビュー「人生で大切なことはすべて水泳から学んだ」

子どもの習い事として定番人気の水泳。お子さまがスイミング教室に通っているというご家庭も多いかもしれません。スポーツをするうえではどんなことが大切で、その経験は人生にどんな影響を与えるのでしょうか? 北京オリンピック競泳メダリストで、現在はスポーツキャスターとして活躍中の宮下純一さんのインタビューをお届けします。

スポーツは自分で納得した練習に取り組むことで身になっていく

子どものころ、水泳をするうえでの両親の関わりは基本的には「褒め」。できないことを叱られることはありませんでした。

大会で負けてしまった時も「残念だったね」という感想ではなく、「負けてどう思ったの?」と聞かれることが多かったです。僕が負けて悔しかったと言うと、「なんで負けたんだと思う?」「次にできるようになるためにはどうしようか?」「わからないなら自分で調べてみなさい」と次の行動につなげられるような言葉はかけられましたが、泳ぎ方や練習メニューなど水泳そのものについてのアドバイスを受けたことはありませんでした。

今、僕も水泳教室で指導する身になって思うのは、「人から一方的に押し付けられた知識や練習方法は身にならない」ということ。僕も1児の親としてよくわかるのですが、とにかく情報があふれている世の中で、そこで見たり知ったりしたことを「あの有名選手はこんな練習メニューをやっている」「我が子と同じ年ですごい量の練習をしている子もいる」などと、つい押し付けてしまいがちです。それが、まだ補助輪が外れていないのにロードレース用のメニューになっているなんてもことも。

お子さん自身が自分で考え、納得したうえで段階を踏まえて取り組んでいくことが、自分に合ったやり方を身につける近道なのかもしれません。これは、水泳以外も同じことで、僕もテレビなどでコメントをする際に、付け焼き刃の知識で臨んで、その場はなんとかしのげても、その知識はなかなか自分の身になりません。「これってどういうことだろう?」「そうなんだ、面白い!」と思って深く調べたことは、知識としてしっかり頭に残っている。スポーツ以外にも共通して言えることだと思います。

「感謝を伝えること」は厳しいレースで勝ち抜く手だてでもある

水泳を続けるなかで、両親やコーチに言われ続けていたことの一つに「とにかく感謝を忘れないようにしなさい」ということがありました。小学生だと表彰台に上がると嬉しくて自慢したくなるけれど、「やったー!」と言うのではなく「ありがとうございますと言いなさい」「(タイムが)速くなればなるほどに頭を下げなさい」と教わりました。

当時は、大人の言っていることもわかるけれど、喜びの気持ちをストレートに表に出せないから、ふてくされながら「ありがとうございました」なんて小さな声で言っていたこともあったけれど、両親が言いたかったのは「速い選手じゃなくて愛される選手になりなさい」ということだったんです。

これは、ステップが上がっていくにつれてライバルが多くなっていく中で勝ち抜いていくための手だての一つでもあるんです。コーチが担当しているたくさんの選手の中からどうやって自分に目を向けてもらうのか? それには、目立つ存在でいる必要があります。

目立つというのは記録という意味もありますが、「この子のために何かやってあげたい」と思ってもらうことでもあります。そんな存在になるには、自分から相手のよいところを見つけ、好きになる必要がありました。

僕は、コーチもたくさん変わっているしスイミングクラブも移籍しているけれど、どのかたにもよくしてもらえたのは、そういった教育があってのことだったと思っています。

大学時代の監督の口癖が「水泳は人生の予行練習。水泳から人生を学べ」というものだったのですが、僕の場合もまさしくそのとおりで、水のかき方やキックだけでなくライバルとの駆け引きや恩師への感謝、目標に向かって自分をつきつめるやり方、そしてこの経験を今の仕事に生かす方法など、水泳から人生で大切なことのすべてを学びました。

プロフィール

宮下純一

宮下純一

スポーツキャスター / 北京オリンピック競泳メダリスト
鹿児島県出身。5歳から水泳を始め、9歳の時コーチの勧めにより背泳ぎの選手となる。鹿児島県立甲南高等学校から筑波大学に進学、体育専門学群で学び、中高教員免許を取得。2008年8月北京オリンピック競泳男子100メートル背泳ぎ準決勝で53.69秒のアジア・日本新記録を樹立、決勝8位入賞。同400メートルメドレーリレーでは日本チームの第1泳者として、銅メダルを獲得。2008年10月、競技者として有終の美と感じられる結果に現役を引退。現在は、水泳・スポーツの美と感動、アスリートという人間の心のドラマやストーリーを伝えられるスポーツキャスターとして幅広く活動。(財)日本水泳連盟競泳委員として選手指導・育成にも携わっている。

月曜 隔週 レギュラーにて出演中
・文化放送「なな→きゅう」7:00~9:00
・TBS「ひるおび!」11:55~14:00

プロフィール

Benesse教育情報サイト編集部

東京大学大学院 情報学環 准教授。デジタル教材の開発や評価など、情報技術を利用した学習環境について研究している。主著として「デジタル社会のリテラシー」(岩波書店)「未来の学びをデザインする」(東京大学出版会)など。

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