教育用語解説|レジリエンス 教育用語解説|レジリエンス

2023.2.1

「レジリエンス」とは?教育で注目を高める理由や子どもにとっての重要性を解説

2020年、宇宙飛行士の野口聡一さんが、自身が搭乗する宇宙船の名前を「レジリエンス」と名付けたことが話題になりました。レジリエンス(resilience)=困難から回復する力、という意味の通り、コロナ禍に負けない、という願いを込めたそうです。教育においても、このレジリエンスという力の重要性が注目を集めています。なぜ、レジリエンスが重視されるのか、その背景や意味などを説明します。

レジリエンスとは?——「しなやかさ」「たくましさ」などの幅広い意味合いをもつ

人は生きていく中で、たくさんの困難や失敗、脅威や逆境などのつらい体験に出合います。また、戦争や貧困、家庭不和、病気など、もともと困難な環境を抱えながら育つ人もいます。レジリエンスとは、そのようなつらい体験や不利な環境にうまく適応したり、精神的に落ち込んだ状態から回復したりする力のことです。レジリエンスがあると、日常生活におけるストレスに柔軟に対応したり、受けたストレスから早く立ち直ったりすることが可能となり、ときとしてストレスを糧にしてさらなる成長を遂げることがあります。逆境に打ち勝つという意味では強い精神力のような「たくましさ」のイメージもありますが、それだけでなく逆境に柔軟に対応する「しなやかさ」も兼ね備えた力です。

Well-beingの実現を求める世界的風潮が、レジリエンスの重要性を後押し

レジリエンスという言葉は、1980年代にハワイで行われた子どもの育ちに関する研究の中で最初に使われました(Werner & Smith, 1982)。教育の世界で注目されている理由は、レジリエンスの高さが社会的な成功と関係があり、しかも、教育などによってレジリエンスを高められる側面があるからです。そして、困難を乗り越える力を教育や子育ての中で育むことは、私たちがWell-being(よく生きる)を実現するうえで重要だと考えられてもいます。日本でも、阪神淡路大震災や東日本大震災などの災害を経験した子どものケアやその後の成長をどう支えるかという点で、レジリエンスの必要性が意識された経緯があります。

先天的な要因もあるが、教育で伸ばすことができる

レジリエンスは、生まれつき持った性格や気質と関連している部分もありますが、家庭における働きかけや園・学校での経験によっても伸びていきます。例えば、下の表の「2-2 子どもによって獲得される要因」などは、まさに現行の学習指導要領で育むこととされている「学びに向かう力」と重なるものです。OECD(経済協力開発機構)でも、国際的な学力調査であるPISAのなかで、社会経済的に恵まれない家庭にあるにもかかわらず上位の成績を収める生徒を「レジリエントな生徒」と名づけて、そうした生徒の学びに注目しています。

下の表は、お茶の水女子大学の岐部智恵子氏の研究をもとに、レジリエンスを構成する主な要因と含まれる特性を示したものです。氏のまとめはチャイルド・リサーチ・ネットでも詳しく紹介されているので、参考にしてみてください。

レジリエンスを構成する主な要因

1.環境要因:子どもの周囲から提供される要因(I HAVE Factor):
子ども以外の要因によるもので、本人の努力で変えることは難しい内容も含まれる。
・安定した家庭環境・親子関係
・親による自立の促進
・安定した学校環境
・学業の成功  など

2.内的要因
2-1.子どもの個人内要因(I AM Factor):
個人の気質にかかわる部分もあり、教育でできることは限定的。
・年齢と性別
・達成指向
・自尊心
・自律性 など
2-2.子どもによって獲得される要因(I CAN Factor):
非認知能力やコンピテンスにかかわるもので、家庭や学校教育で伸ばすことが可能。
・問題解決能力
・コミュニケーション能力
・衝動のコントロール
・根気強さ
・知的スキル など

岐部智恵子氏の整理をもとに作成

学校の活動には、レジリエンスを育む要素がたくさん含まれている

学校では、レジリエンスを高めることだけを目的とするような活動が存在するわけではありません。しかし、学級活動や行事、道徳、部活動などにおいて、自分や他者を大切にすることや、感情をコントロールすること、困難に立ち向かい目標をクリアすることなど、私たちがよりよく生きていくうえで必要な力がたくさん育まれていると言えます。レジリエンスは、そうした経験を通して結果的に培われていくのです。

また、意図的な教育活動ではありませんが、学校内の人間関係も大事です。人間関係が安定していると、友達や教員に支えられて失敗しても立ち直りやすく、自尊感情が育っていきます。そうしたあたたかい雰囲気の中で過ごす環境は、レジリエンスの力が発揮されるのに良い影響を及ぼします。

家庭で取り組めるレジリエンス教育の例

家庭でも、レジリエンスを高めるために特別な訓練が必要なわけではありません。それよりも、親子の間に信頼関係があって、家庭が子どもにとって安全・安心な環境であることが大切です。そのうえで、年齢に応じた適切な支援をしてあげれば、レジリエンスを高めることができます。

具体的には、子どもが小さいうちは、温かく優しい声で話しかける、スキンシップをとるといった愛着が重要です。そして、やりたいことに取り組める環境を用意し、困難なことがあっても優しく言葉をかけて、応援してあげるとよいでしょう。

もう少し成長して自分自身を客観的に捉えられる年齢になったら、困難が生まれている原因を自分のせいだけにするのではなく、多面的に考えるように促してみてはどうでしょうか。悪いことがあっても原因はさまざまに考えられることや、今の状況は長く続くものではないことを伝えるなど、自分の考え方を前向きなものに変えていく手助けをしてあげるとよいと思います。

まとめ

今回ご紹介した、家庭でできるレジリエンス教育はあくまで一例です。考え方の基本となるのは、「応答的な養育態度」です。それは、子どもの思いに気づき、愛情のある言葉や身体表現で、子どもの意図をできるだけ充足させてあげようとする態度のことです。これは、子どもの年齢に関係なく、また、園や学校においても保育者や教員が大切にすべき態度です。そのような関わり方は、他の能力(非認知能力など)を高める際も効果を発揮するので、ぜひ実践していただきたいと思います。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2023年2月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

木村 治生きむら はるお


ベネッセ教育総合研究所 主席研究員

上智大学大学院(教育学修士)、東京大学社会科学研究所客員准教授(2014~17年)・客員教授(2021~22年)、追手門学院大学客員研究員(2018~21年)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~現在)。
これまで、文部科学省、経済産業省、総務省などからの委託研究に携わるとともに、文部科学省審議会委員、独立行政法人国立青少年教育振興機構事業選定委員、内閣府調査企画委員会委員、埼玉県草加市教育委員会専門部会委員などを務める。

その他よく見られている用語