教育用語解説|学力格差 教育用語解説|学力格差

2022.12.20

学力格差とは?背景にある要因や社会への影響は?概要や最新情報を解説

生まれ育った環境によって、子どもが獲得する学力に差がつくことを「学力格差」と言います。必要な教育を受け一定の学力を身につける機会は、本来平等であるべきです。しかし、現実には生まれや育ちの環境によって状況が異なることは、2000年代以降多くの研究者によって指摘されてきました。近年では、SDGsで貧困や教育機会の均等が持続可能な開発目標として提言されたこともあり、以前と比べれば、学校や家庭でも身近に感じられる課題となったように思います。

学力格差が及ぼす影響——社会全体の活力低下にもつながる

そもそも、学力に格差があると何が問題になるのでしょうか?まず一人ひとりが歩む人生の視点でみると、その最初の時点で本人の意思に関係なく生まれによって差がつくことが大きな問題です。しかも、その差は一時的なものに終わらず、教育達成(学歴など)や社会達成(職業や社会生活など)の差となり、生涯にわたって影響することも問題です。さらに、そうした達成を実現できた人とそうでない人の間に、「努力したから今の成功がある/努力が足りなかったから今の失敗がある」という偏りが生じたり、互いへの偏見や差別意識が生じたりする場合もあります。そうした結果、人と人をつなげる社会的な信頼感が低下して、社会全体がバランスを失ったり、活力が下がってしまったりする可能性もあるのです。

学力格差はどのようにして生じる?

学力格差が生じる背景にはさまざまな要因がありますが、代表的には次の2つがあると言われています。
1つは、家庭環境によるもの。もう1つは、地域の環境の違いによるものです。
家庭環境に関しては、教育にかけるお金の多少によって、高等教育への進学やそれに必要な学費や生活費、そこに至るまでの習い事や通塾費などに差が生じるという経済的な背景があります。それとは別に、保護者が子どもの教育に熱心かどうかや、家庭の中に本がたくさんある、家族との豊かな会話があるなどの文化的な背景もあります。
もう一方の地域の環境による違いについては、例えば都市部と地方部とでは教育機会の多少に差があり、それによって進学機会や塾・習い事などの選択肢が異なっている状況などを指すことがあります。

  1. 家庭背景
    1. 経済的背景→教育投資(高等教育への進学や学費・生活費、そこに至るまでの習い事や通塾費など)
    2. 文化的背景→学歴(子どもの教育への期待や熱心さ)、家庭の蔵書数、養育態度や言葉かけなど
  2. 地域的背景

    教育機会(進学機会、塾や習い事の選択肢、近隣効果など)

GIGAスクール構想の実現で状況は好転する?

近年では上記2つに加えて、社会状況の急激な変化や新たな教育政策も学力格差に影響する要因の1つと考えられます。代表的なものがコロナ禍による影響です。2020年の一斉休校期間やその後の2年以上に及ぶ学校教育活動の制限がありました。少なくともこの間、子どもたちの家庭生活や学習習慣、学校の先生や友達関係への影響は少なからずあったことが指摘されています。令和3年度の全国学力・学習状況調査の結果によれば、今のところ、臨時休校の期間の長さによって学力に大きな差はみられませんでした。しかし、今後中長期的には影響が顕在化する可能性も否定できません。

また、GIGAスクール構想も学力格差に何らかの影響を及ぼすと言われています。しかし、中長期的にみて格差が拡大するのか縮小するのかは、現在のところ判断できません。2021年度に全国の公立小中学校で一人1台端末が導入され、授業でのICT活用がますます広がりつつあります。デジタルを使った指導で個別最適な学びが実現できたり、教育資源の十分でない地域にオンラインで情報を届けることができたりすれば、これまで解決が難しかった教育機会の格差を縮小させる可能性もあります。しかしその一方で、活用の仕方によっては、一部の成績上位層や家庭背景に恵まれた子どもが学力を伸ばし、他の子どもとの差が広がる懸念もあります。

社会の変化やICTの進展が及ぼす影響は、引き続き注視していく必要があるでしょう。

格差の縮小に向けた、学校現場の取り組みとは

学力格差を縮めるには、学校での指導や学びの工夫も重要な役割を果たすことがわかっています。全国学力・学習状況調査の専門的な分析の結果によると、地域的には必ずしも恵まれていないにもかかわらず学力が高い学校の特徴として、「授業などで『アウトプットさせる』『教科を超える』『学び合う』活動が多い」、「個に応じたきめ細かい指導を大切にしている。一人ひとりへの認め、基礎・基本をすべての子どもに保証する『インクルーシブな学校』を目指し、それを実質化している」などが挙がっています。
おそらくこうした指導は、子どもがアウトプットする場やそのための仕掛けを設けていることが多く、その分学びの姿勢が主体的になり、たくさんの人の考えを聞くことで、自分の考えを広げる効果があるからでしょう。学校という家庭とは異なる関係性の中で、自分とは異なる背景の子と交流したり、その子に合った指導を受けたりすることで、格差はある程度まで乗り越えられると言えます。

家庭でできることとは

たとえ、教育資源が十分でない生活環境にあるとしても、保護者ができることはあります。1つは、生活習慣や学ぶ習慣を身に付けることです。人生100年時代と言われるように、人が社会とかかわる時間が延びていく中で、学校卒業後も、新しいことを学ぶことが必要な期間も延びていきます。その際に基本的な生活習慣や学ぶ習慣が身に付いていると、そうでない場合と比べて、人生をよりよくすることが可能となるでしょう。

もう1つは、家庭外で学ぶ場を多く作ることです。例えば地域のイベントに参加するなど、家庭内ではできない経験や人間関係を通して、さまざまな知識を得ることができます。テストの点数が上がるような即効性はありませんが、子どもの世界観を広げ、固定化しがちな学力格差の壁を解消する重要なポイントです。

まとめ

格差縮小の取り組みは始まったばかり

学力格差の背景にある問題は、学びの当事者である子どもたち自身に責任はなく、解決できないことばかりです。今、社会全体がこの問題から目をそらさず、認識しようと動き始めました。簡単な取り組みではなく、一人ひとりにできることは限られているかもしれません。しかし、学校や家庭、そして地域社会が心理的に安心・安全な場となって、すべての子どもたちを温かく見守り、格差に振り回されることのない自己肯定感を育めるような支援ができることを願います。

・参考文献
阿部彩(2008)『子どもの貧困:日本の不公平を考える』(岩波新書)
松岡亮二(2019)『教育格差—階層・地域・学歴』(ちくま新書)
耳塚寛明・浜野隆・冨土原紀絵(2021)『学力格差への処方箋 [分析]全国学力・学習状況調査』(勁草書房)
志水宏吉・川口俊明(2019)『〈統計編〉日本と世界の学力格差——国内・国際学力調査の統計分析から (シリーズ・学力格差 第1巻)』(明石書店)
ロバート・D・パットナム(2017)『われらの子ども:米国における機会格差の拡大』(訳・柴内康文)(創元社)

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2022年12月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

岡部 悟志おかべ さとし


ベネッセ教育総合研究所 教育基礎研究室 主任研究員

東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。博士(学術)。これまで高等教育や社会人領域の調査研究を担当。その後、一般教育市場(産業)についてのリサーチに携わる。現在は、乳幼児から初等中等領域までの、子どもの発達や成長、保護者の子どもへの関わりや教育観などに関する調査研究に取り組んでいる。

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