教育用語解説|VUCA 教育用語解説|VUCA

2023.4.12

「VUCA」とは?その意味や、子ども・教育との関わり、取り組み事例を解説

「VUCA」(ブーカ)とは、「これからはVUCAの時代だ」のように、現在や将来の社会の様子を示す際に使われる、英語由来のビジネス用語です。近年は教育の世界でもよく用いられるようになりました。そもそもVUCAとは何でしょうか。教育との関連や、学校や家庭とのつながりでおさえておきたいポイントも含めて解説します。

VUCAとは、変化が激しく予測困難なこれからの時代を端的に示すキーワード

「VUCA」は「ブーカ」と読み、これからの時代を表す4つの英単語の頭文字をとった造語です。

V=Volatility:不安定
U=Uncertainty:不確実
C=Complexity:複雑
A=Ambiguity:曖昧

もともとは、アメリカとソ連の冷戦が終わった1990年代、国家間の問題が複雑になって軍事的な戦略を立てることが難しくなり、それまでのやり方ではうまくいかなくなってきた状況を指した軍事用語でした。2010年代ごろからは、不確実で、将来の予測が困難な社会の状況を示す言葉として、ビジネスを中心とした一般社会でも使われるようになり、やがて教育の世界にも広がってきました。

VUCAと教育の関連

世の中がVUCAになっている最大の要因は、世界のグローバル化やデジタル化です。現代では、日本にいても日々の生活が世界とつながっており、海外にルーツを持つ人々が身近にいます。また、さまざまなデジタル技術が進化したことで、人々の生活は大きく変わり、そのスピードも増す一方です。物事を決めたり動かしたりする要素が複雑で多岐にわたるため、次にどうなるかを予測することが難しくなるのです。

しかし、教育はそうした社会の変化スピードに追い付くことが難しい現状があります。物事の善悪や防災・防犯など、時代がいかに変わっても変わらずに教えるべきことがありながら、社会が変化した分学ぶべきことが増えていきます。また人生100年時代といわれるように、平均寿命が延びればそれだけ社会の変化を経験することになり、学ぶべきことも増えるでしょう。それらの中で、学校教育で教えるべきことは何かを改めて考え、時代に応じて絶えず取捨選択する必要が生じています。

VUCA時代に求められるスキル

子どもたちが将来を生き抜くために求められる能力は実にさまざまです。代表的なものとしては、環境の変化に対応する柔軟性適応力、既存のやり方にとらわれずに新たなアイデアを生み出す創造力問題解決力、多様な文化・社会的背景を持つ人々と協力するコミュニケーション力デジタルツールを使いこなすスキルなどです。国もそれらの重要性を認識しており、最新の学習指導要領に基づきそれらの力を身に付けさせるような教育活動が学校で行われています。

今回は、上に挙げたものに加えて、3つの大切なスキルをお話しします。

① 意欲
インターネットなどのデジタル技術を使えば、年齢や住んでいる場所などに関係なく、何でも学ぶことができます。逆に言えば、「知りたい!」「これは何だろう?」と思う意欲や好奇心がとても重要になります。その前提となる、自分が何に興味を持っているのかを自分自身が知っていること(自己理解)も大切です。最近はChatGPTのような生成AIが話題になっていますが、これらのツールを使いこなすためには意欲を持ち、自分自身が何をしたいかをイメージできていることが重要です。ツールが豊かになるからこそ、人間の意欲と想像力が重要になります。

② エージェンシー
OECD(経済協力開発機構)が提唱している概念で、自ら主体的に変革を起こすため目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力のことです。ポイントは、意欲をもって主体的に行動するのは大切ですが、自分の行動の結果が周囲にどのような影響を与えるかを考え、その結果に対して責任を持つことです。自分や周囲にプラスの影響を及ぼすように動くことの大切さは、国際的にも非常に重視されています。

③ AIを使いこなす力
これは、プログラミング能力などの技術的な力ではありません。AI技術が進展していくと、必要な材料(情報)を入れればそれを基にAIがモノやコンテンツを作ってくれます。人間には入れる材料の質や安全性を吟味する力や、AIに指示する能力、できたものが適切かどうかや魅力的かどうかを評価する力などが必要となります。評価するには、それに関する知識を学んでおく必要がありますし、そもそもどのような価値があるのかを知っておかねばなりません。例えば、AIを使った富士山の作品を見るとします。富士山のことをあまり知らずに、単にきれいだな、上手だなと感じるよりも、富士山の特徴を知っていたり実物を見たりしたことがあると、感動の幅も深さも格段に大きくなります。そうした前提となる知識や感性を広げることが大切です。

入試や学校の授業への影響は?

いまお話ししたようなスキルを身に付けられるように、世界的にはすでに教育カリキュラムが変化しており、いわゆる探究的な学びが増加傾向にあります。入試に関しては、欧米ではもともと一斉テストで選抜するのではなく、多角的な観点で選抜する傾向がありました。現在、日本でも、欧米と同様の傾向が強まっています。実際、日本の大学入試ではAO入試が増えています。

VUCA時代を生きる力を家庭でも育てるためには? カギは「ちょっと変化させてみる」

これからは、もはや逃れることができない「変化すること」に対応しようとするのではなく、自ら変化を起こし、楽しむ気持ちが大切になっていくでしょう。日々のルーティンだけでなく、いつもとはちょっと違うことをしてみることで、変化を楽しむ気持ちを持ちやすくなるはずです。外食や旅行などのイベントを行うほか、あえて興味のない分野の本を読む、帰り道を変えてみるといった些細なことでも構いません。言われてチャレンジするのではなく、自分から違うことを体験してみる。その体験の中から自分が楽しいと感じること、のめりこめることを探せるようにするとよいのではないでしょうか。

また、子どもが感じたことを親が否定しないことも大切です。何かを見て発した子どもの意見や感想がたとえ事実と違っていても、まずは子どもがそう感じたことを尊重しましょう。「それは違うよ、○○だよ」と言われた子どもは、自分の考えや感性に自信を持てなくなってしまいますし、自由に感じる心や創造性の芽を摘んでしまう可能性も。頭の中で何を考えてもそれは子どもの自由ととらえ、まずは一度受け止めることが大切だと思います。

AIネイティブ世代に伝えるべきもの

今の子どもたちはデジタルネイティブと言われますが、今後はさらに進んで、生まれた時からAIの存在が当たり前の「AIネイティブ」な世代が増えていきます。AIが日常生活にさらに深く入り込み、人と機械の役割分担が変わっていけば、人々の価値観も大きく変わっていくでしょう。そうした時代を生きる子どもたちに伝えるべきこととは何でしょうか。学ぶとはどういうことでしょうか。いま一度根本から考えてみる必要があるのかもしれません。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2023年4月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

こむら しゅんぺい


ベネッセ教育総合研究所
教育イノベーションセンター長

1975年東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員や中高生とのオンライン対話会を毎週開催しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな自治体・大学・高専のアドバイザー、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。
活動実績一覧
他に岡山大学 学長特別補佐(教育担当)、日本STEM教育学会幹事、 日本教育情報化振興会理事、内閣府子ども・若者調査委員、信州WWLコンソーシアム座長、仙台第三高校スーパーサイエンスハイスクール運営指導委員等を兼任。

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