14 海の豊かさを守ろう 14 海の豊かさを守ろう

海洋汚染とはなに?原因や環境に与える影響、今できる4つの対策を紹介

私たちの生活に欠かせない自然環境の1つに、海があります。この記事では、海洋汚染の現状や将来予測について、海洋汚染の原因やそれらが与える影響をはじめ、日本と世界が行っている海洋汚染対策への取り組みを紹介します。海洋汚染について知りたい方は参考にしてください。

海洋汚染ってなに?

海洋汚染とは、人為的要因によって引き起こされる海の汚染のことをいいます。

この汚染には、プラスチックなどを含む産業廃棄物の投棄、船の事故などによる石油の流出などといった一時的なものと、工場や家庭からの排水などの化学物質が流れ出てしまう慢性的なものがあります。

ここからは、海洋汚染の現状と今後の予測について紹介します。

■1:海洋汚染の現状

海洋汚染の日本における現状として、海洋汚染確認件数(2022年1月1日~12月31日まで)は468件、そのうち油による汚染は299件(前年332件)、廃棄物による汚染が148件(前年139件)となっています。

また、世界の海洋には約1億5000万トンのプラスチックが漂流しており、さらに毎年少なくとも新たに約800万トンにのぼっていると指摘されています。

■2:海洋汚染の今後の予測

海洋ゴミの70%は分解されることがないプラスチックとみられており、その量は2015~25年のたった10年間で3倍にまで増加すると予測されています。

さらに、2050年には、海洋プラスチックゴミの量が海にいる魚の量を上回るという予測も発表しています。

また、このプラスチックゴミは自然分解されることがないために、劣化と粉砕を重ねながら「マイクロプラスチック」と呼ばれる微細片となり、やがて海洋生物の誤食によって体内に取り込まれているといわれています。

現在のペースでプラスチックゴミが海洋流出した場合、日本周辺や北太平洋中央部の海域で2030年までにマイクロプラスチックの重量濃度が今の約2倍に、2060年までには約4倍になるとしています。

海洋汚染の5つの原因

海洋汚染は、「国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約とも呼ばれる)」で大きく6つに分類されています。具体的には、陸上からの汚染、海底での活動による汚染、公海での深海底での活動からの汚染、投棄による汚染、船舶からの汚染、大気からの汚染などになります。

ここからは特に問題視されている5つの原因について解説していきます。

■1:生活排水

日常生活の中で、料理や洗濯など何気なく使う水は生活排水と呼ばれ、1人が1日に使用する水の量は250Lになります。この生活排水には、BOD量で約43g(1人/1日)といわれています。

BODとは生物化学的酸素要求量のことであり、微生物が水中に含まれる汚れを分解する際に使用する酸素量のことを指しています。通常、水中に溶けている酸素量は、約10mg/Lになります。

つまり、生活排水の汚れの分解のために、約4300L分の水に溶けている酸素が必要ということになります。

■2:海洋プラスチックごみ

海洋汚染を引き起こす原因の中でも早急に取り組むべき課題とされているのが、海洋プラスチックごみです。ここからは、海洋プラスチックごみの種類とそれらが問題視される理由についてさらに詳しく解説していきます。

容器包装等プラスチック

世界のプラスチック生産量は1964~2014年の間で20倍以上、2000〜2019年の間で2倍以上に増え、今後もますます増えていくと予想されています。

この海洋プラスチックごみの80%以上は、陸上で発生し海に流入されてものであり、その内60%以上が容器包装などの使い捨て用プラスチックとなっています。

漁具

漁網は耐久性に優れているためプラスチック製が多くなっています。漁網などのプラスチック製漁具の海洋放棄は、世界中で年間約64万トンと推定されています。

漁具、とりわけ漁網はウミガメやアザラシ、あるいはサンゴに絡まり、海洋生物が命を落とす危険性があります。さらに、漂流する漁網が、海洋を航行する船のスクリューに絡まってしまうことで事故につながる恐れもあります。

■3:ごみのポイ捨てや不法投棄

海洋環境にあるプラスチックごみの80%以上が、陸上から発生したものであり、その中でも意図的に廃棄されているものもあります。

海洋への不法投棄は、日本国内では一般市民によるものでは88件、漁業関係者によるものでは44件と報告されています(令和4年1月1日~12月31日まで)。前年よりも増加していると指摘されています。

■4:船舶からの油の流出

海洋への石油の流出は生態系への影響も強く、魚はもちろん、水鳥や海獣類の生命を脅かし、さらに海藻類の生長にも悪影響を及ぼしてしまいます。

そのため、船舶からの石油の流出を防ぐ対策や技術革新が行われています。石油流出は、1970年代には約40.2万トンまでに増加していましたが、1995~1999年の5年間には4万トン(年平均)にまで減少しています。

■5:企業の工業排水や廃棄物

日本では、工場排水への規制が強化されており、海洋汚染の件数としては少なくなっています。工場排水による汚染のほとんどが、故意によるものである点が問題といえます。

また、東京湾や瀬戸内海などで大きな被害をもたらす赤潮は、海中に含まれるリンや窒素などの有機物が増加することによって富栄養化が起き、その結果として海中のプランクトンが異常増殖し海の色を赤くしてしまう現象のことです。

この赤潮を引き起こす原因となっている有機物は、工場排水による傾向があります。

海洋汚染が与える3つの影響

海洋汚染が起きることで、私たちに一体どのような影響があるのでしょうか。ここからは、海洋汚染が与える影響を生態系、地球環境、そして私たちの健康の3つについてみていきます。

■1:環境汚染が生態系に与える影響

プラスチックごみは、波や紫外線などの影響によって劣化あるいは破砕していき、やがて微細片となっていきます。この欠片のサイズが5mm以下になったものは、「マイクロプラスチック」と呼ばれています。

マイクロプラスチックは、魚などの海洋生物だけに留まらずサンゴ礁にまで影響を及ぼす可能性があります。

このサンゴ礁は、様々な生き物や棲み処や産卵場所であり、さらに海水の二酸化炭素濃度調節に欠かせないため海の森とも呼ばれています。

けれども、マイクロプラスチックによって、海洋生態系を支えるサンゴ礁の成長が阻害され、最悪の場合にはサンゴ礁が死んでしまうおそれがあると指摘されています。

■2:環境汚染が環境に与える影響

プラスチックは、石油からつくられており、さらに焼却処分する際には二酸化炭素も発生しています。

そして、廃棄され海洋に流出してしまっているプラスチックごみは、海水と紫外線の影響で劣化する過程において、メタンなどの温室効果ガスを発生していると指摘されています。

これらのことから海洋プラスチックごみは、海洋汚染だけでなく地球温暖化を引き起こす原因にもなっているといえます。

■3:環境汚染が健康に与える影響

前述したようにマイクロプラスチックは、5mm以下の微細片のため魚や貝、カニなどの海洋生物が誤食したり、塩や飲料水の中に含まれていたりすることもあります。つまり、気付かないうちに人もプラスチックを体に取り込んでしまっている可能性がゼロとはいえません。

さらに、プラスチックには紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤などの添加剤が使用されており、これらの化学物質は、生物の消化液に含まれる油分に反応して溶け出していくことが指摘されています。

海洋プラスチックごみは、海洋生物や塩、飲料水を通して人が誤って体内に取り込んでしまうことで物理的にダメージを受けるだけでなく、溶けだした化学物質を体内にため込んでしまうおそれがあるため、健康への影響が懸念されています。

海洋汚染問題への世界各国の取り組み

海洋汚染問題に対する世界的な取り組みとして、古くは1975年の「ロンドン条約(廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約)」や1983年の「マルポール73/78条約(船舶による汚染の防止のための国際条約)」があります。また、1994年の海洋に関する新しい包括的な法秩序を規定した「国連海洋法条約」があります。

2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には持続可能な開発目標(SDGs)が掲げれており、その目標の1つに「海の豊かさを守ろう」があります。

この目標は、さらに7つの達成項目が設定されており、世界各国で海洋汚染問題に対して取り組みはじめています。

海洋汚染問題への日本の取り組み

日本における海洋汚染への取り組みは、未然に防ぐ対策として「船舶等に関する規制」や「未査定液体物質の査定」「海洋汚染防止指導」などがあります。

また、「マルポール条約」の締結によって1970年に「海洋汚染防止法」が定められ、油、有害液体物質、廃棄物の排出規制や焼却規制などが行われています。

海洋プラスチック問題への対応としては、2019年に『プラスチック資源循環戦略』が策定されました。3R+Renewableの基本原則と、6つのマイルストーンを掲げて、プラスチックの排出抑制やリユース・リサイクルを推進しています。

SDGsの目標に対して、自然環境や水産資源を脅かすことなく獲られた水産物であることを示す「海のエコラベル」や、プラスチック生産量やごみの削減代替製品の開発などの取り組みを推進する「プラスチック・スマートキャンペーン」を行っています。

海洋汚染を止めるために今できる4つの対策

海洋汚染が起きてしまう原因は、私たちの普段の何気ない行動にも関わりがあります。前述したように、家庭から出る生活排水や容器包装などに使用されるプラスチックごみ、ごみのポイ捨てなどがあります。

ここからは、私たちが海洋汚染を止めるために、今できる対策を4つ紹介していきます。

■1:生活排水に気をつける

生活排水の汚れのもととなるのが洗剤、油や食べ残しなどです。たとえば、使用済みの天ぷら油(20ml)ではBOD値が30gとなり、魚がすめる水質(BOD値5g/L以下)にするには6,000Lもの水が必要になります。

こうした私たちが何気なく送る日常生活から、水を汚してしまう可能性があります。そのため、今日からでも実行できる取り組みを行うことが大切になります。

具体的には、使用済み食用油の再利用や食器を洗う前に油汚れなどをふき取ること、また入浴時にはボディーソープやシャンプーなどの適量を守るなどが挙げられます。

■2:エコラベルの商品を購入する

MSCラベルとは、海洋管理協議会の厳格な規格に適合した漁業で獲られた持続可能な水産物にのみ認められる証のことをいいます。一般的には、「海のエコラベル」と呼ばれています。

私たちが、この「海のエコラベル」が付いた水産物を購入することで、水産資源や海洋環境を守り、さらに厳しい取り組みを守っている漁業者を支援することにつながります。

■3:ごみを捨てない、ごみ拾い活動をする

海洋ごみ削減の課題に対して、私たちができる取り組みの1つに海岸や街でごみを捨てないことはもちろん、積極的にごみ拾いをする活動があります。たとえば、環境省と日本財団は共同で、「海ごみゼロ」をスローガンに清掃活動を推進しています。

■4:プラスチックごみを出さないようにする

海洋汚染の原因となるプラスチックごみの削減のためには、プラスチック自体の消費量を減らすことも大切になります。

そのため、世界では使い捨てプラスチックの使用廃止に向けての動きがあり、たとえばEUでは2019年7月に「特定プラスチック製品の環境負荷低減に関わる指令」を発効し、9種の使い捨てプラスチック製品とオキソ分解性プラスチック製の全製品の市場流通禁止措置を取りました。

私たちも日常生活の中で、プラスチック製の皿やコップ、またストロー、ポリ袋の使用を控えたり、食品保存用のラップの使用を減らしたりすることで、プラスチックごみの削減につなげる取り組みを行うことが大切です。

環境汚染を知って今できることを始めよう

環境汚染を知って今できることを始めよう 環境汚染を知って今できることを始めよう

日本は海に囲まれた島国のため、古くから海の恵みを受けてきました。その海が、私たちの経済活動や消費行動によって汚染されている現状があります。

今回の記事では、この海洋汚染について現状や今後の予測にはじまり、海洋汚染を引き起こす原因やその影響、そして国内外での取り組みについて紹介してきました。

今、海に起きている問題について知り、できる取り組みをスタートさせる機会にしてみましょう。

【この記事に関連する目標】

※他の目標とも関連していますが代表的なものをあげています。

今回の記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)は、目標14「海の豊かさを守ろう」です。この目標では、7つの達成項目とそれを実現するための3つの方法案によって構成されています。

[参照元]

『令和4年の海洋汚染の現状(確定値)』(海上保安庁)

https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/r4/k230215_3/k230215_3.pdf

Executive Summary | Global Plastics Outlook - OECD iLibrary(OECD)

https://www.oecd-ilibrary.org/sites/de747aef-en/index.html

「プラスチック資源循環戦略」について(環境省)

https://plastic-circulation.env.go.jp/about/senryaku

『平成12年版 海上保安白書』(海上保安庁)

https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/books/h12haku/2bu5-1.htm

『ひろげよう キレイな水のある暮らし』(環境省)

https://www.env.go.jp/water/seikatsu/pdf/all.pdf

『環境省におけるターゲット領域に係る検討 平成29年3月15日』(環境省)

https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/target/3kai/siryo3-6.pdf

『海洋における将来のマイクロプラスチック浮遊量の予測結果について』(環境省)

http://www.env.go.jp/press/106411.html

『サンゴ礁の働きと現状』(水産庁)

https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/tamenteki/kaisetu/moba/sango_genjou/