勉強のやる気を引き出すには?学生も大人も実践できる方法を調査からひもとく 勉強のやる気を引き出すには?学生も大人も実践できる方法を調査からひもとく

2023.4.17

勉強のやる気を引き出すには?学生も大人も実践できる方法を調査からひもとく

前回の記事「成績優秀者の勉強法4つ!調査でわかった『勉強の仕方がわからない』を解消するアイデア」では、「上手な勉強のしかたがわからない」子どもがこの4年間で増加していることを背景に、成績優秀者から学ぶ勉強方法のヒントをご紹介しました。

今回は、同じ調査(東京大学社会科学研究所と株式会社ベネッセコーポレーションの社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所が2015年から行っている調査)から、もう一つの気になる調査結果に注目したいと思います。それは「勉強しようという気持ちがわかない」子どもも、この4年間で増加しているという事実です。
勉強しようという気持ち、いわゆる「勉強のやる気」は「勉強方法を理解して勉強すること」と関連が強いことは前回の記事でお伝えしました。勉強方法をいろいろと工夫しようとする行動は、どんな理由であれ、勉強しようという気持ちがないと起こりません。また、成績優秀者に共通する傾向として、「自分に合った勉強方法を理解していること」と「勉強しようという気持ちを持っていること」が、分析を通して浮かび上がってきました。
整理すると「勉強へのやる気が源泉となり、勉強時間や勉強方法の工夫が生まれ、よい成績につながる」と言えます。これは皆さんのご経験からも容易に想像できるのではないでしょうか。ただ、わかってはいても、なかなか湧いてこないのがやる気です。そこで、「勉強へのやる気」を高めるにはどうすればいいのか、今回はこの調査結果をもとに解説したいと思います。

やる気ってなんだろう?

「やる気を高めること」を心理学の言葉で「動機づけ」といいます。動機とは、物事に取り組む原 因や理由という意味で、物事に取り組む原因や理由がはっきりしていれば、人は自然とやる気が高まるとされます。
ひとが物事に取り組む原因や理由(=動機)には、大きく3つの種類があります。(図1)

図1 図1

① イヤイヤ型
外発的動機づけの一つ。
自らの意思で行うのではなく、外部からの報酬や賞罰、自分への評価を気にして、義務的に勉強する場合。
(例)それをやらなければしかられるから、やればご褒美がもらえるから、人に負けたくないから。

② 目的のためならやるぞ型
外発的動機づけの一つ。
自発的に勉強する意味や必要性を認識し、自分の実現したいことと結び付けて、積極的に勉強に取り組む場合。
(例)希望の学校に進学したいから、将来になりたい職業があるから。

③ ウキウキ型
内発的動機づけの一つ。
外部からの評価や、何かに役に立てたいなどの見返りを期待することなく、純粋に勉強することそのものが楽しい場合。
(例)勉強が楽しいから、学んでいる内容が面白いから。

成績優秀者の「やる気」の高め方

では次に、成績優秀者はどのように勉強のやる気を高めているのでしょうか。成績によってやる気の種類がどのように違うかを見たのが図2です。

図2 勉強する理由~勉強への動機づけ~(成績別) 勉強する理由~勉強への動機づけ~(成績別)

※数値は、「とてもあてはまる」と「まああてはまる」の合計(%)
※東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査」2022年
※対象は小4~高3生8,120名。分析は、小4-6生:中学生:高校生が1:1:1になるように重みづけを行った
※成績上位層と下位層の差が大きい順に並べた
※成績は5教科(小4のみ4教科)の合計について、学年ごとに上位層、中位層、下位層が均等になるように分けた

ここからは、次のようなことがわかります。

1)成績上位層はいろいろな方向からやる気を高めている

図には(1)から(5)のやる気を高める理由・方法(動機づけ)が並んでいますが、(1)以外の4項目では「成績上位層」のほうが「成績下位層」よりも高い比率になっています。成績がよい子どもは、1つだけの理由や方法でやる気を高めているのではなく、いろいろな方向からやる気を高めているということです。

2)成績上位層は自分自身で調整できる方法でやる気を高めている

下位層より上位層のほうが多かった項目は、(2)~(5)の4つです。いずれも、自分の中で調整できる自律的な動機づけと言われるものです。例えば、(3)の「希望する(高校や)大学に進みたいから」の場合、志望校に合格したいと思うのは本人自身であり、それを勉強するきっかけにするかどうかや、思いの強さなども自分自身で決めることができます。そのような自分の中で調整できる「やる気」を高める方法は、勉強に集中しやすく、成績に良い効果をもたらすようです。
一方、上位層より下位層のほうが多かった項目は「(1)先生や親にしかられたくないから」でした。これは非自律的な動機づけと言われ、他者からの評価や行動がやる気のきっかけとなっており、他者の反応によって勉強へのやる気が左右される恐れがあります。

年齢や個性によって変わる「やる気」の高め方

やる気の高め方には大きく3種類あるとご説明しましたが、勉強に関して、実際にそれらをどのくらい行なっているのでしょうか。学校段階別に見たのが図3です。

図3 勉強する理由~勉強への動機づけ~<学校段階別> 勉強する理由~勉強への動機づけ~<学校段階別>

※数値は、「とてもあてはまる」と「まああてはまる」の合計(%)
※東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査」2022年
※対象は小4~高3生8,120名。

ここからは、次のようなことがわかります。

1)小学生

小学生の間は、外部からの評価や、何かの役に立てたいなどの見返りを期待することなく、純粋に勉強することそのものを楽しみやすい時期です。実際、勉強する理由として(5)の「新しいことを知るのがうれしいから」と回答した割合が7割近くいます。このようなウキウキ型のやる気は、やる気のなかでも強く、長く続く効力を持っていると考えられています。保護者のかたは、お子さまが新しいことにウキウキ、ワクワクする知的好奇心を大切にできるといいのではないでしょうか。

また、「先生や親にしかられたくないから」と回答した小学生が6割近くいることからもわかる通り、大好きな先生や親の喜ぶ顔がみたいから一生懸命やる、というやる気は有効です。この場合は、他者や外部からの報酬や賞罰、自分への評価があるから勉強するという意味で「イヤイヤ型」ではありますが、身近な人との信頼関係がとても大切な時期に、保護者や教師との関係性を理由に勉強することは、やる気を高める一つの方法として前向きに捉えてよいと思います。

2)中学生

中学生の回答割合が多かったトップ2項目は、「(3)希望する(高校や)大学に進みたいから」と「(4)将来なりたい職業につきたいから」でした。個人差はありますが、中学生は多くの子どもが高校受験をきっかけの一つにして、将来の進路やつきたい職業を考え始める時期です。また、描きはじめた将来と今取り組んでいる勉強を結び付けて、「勉強するのは、自分がやりたいことを実現するためなのだ」と自分自身で理解(メタ認知)できるようになってくる時期でもあります。そうした発達プロセスが影響している様子が調査結果からうかがえます。

「(2)友達に負けたくないから」という理由で勉強する割合が小学生や高校生よりも多い点も中学生の特徴です。発達上、大人よりも友達との関係へと強い関心が寄せられていくこの時期の特徴が、友達に負けたくないという自尊心に影響し、勉強のやる気につながっていると考えられます。

3)高校生

高校生は、将来への希望やそのための進路をより具体的に考えていく時期です。中学生と同様に、勉強のやる気を高める最大の理由は「(3)希望する(高校や)大学に進みたいから」と「(4)将来なりたい職業につきたいから」です。その割合は中学生よりも高く、回答者の4分の3前後にのぼります。中学生の頃よりもさらにメタ認知が発達し、大学や専門学校などより将来に近い進路選択をしていく中で、「目的のためならやるぞ型」の動機づけが有効に働きやすいことがわかります。

やる気UPのためにできることは?

ここまで、勉強に関するやる気のお話をしてきましたが、やる気を高めるための基本的な考え方は勉強に限ったことではありません。スポーツや音楽、芸術、習いごと、大人になってから取り組む仕事などにも同じことがあてはまります。また、年齢にもかかわりなく、子どもにも大人にもあてはめて考えることができます。

やる気を高めるためのポイントは大きく分けて2つあります。

① やる気UPの方法は人それぞれ。自分/お子さまに合う方法を見つけて試す

やる気が高まる理由は人それぞれです。ただ、共通して言えることがあります。それは、やる気を高めるためにできることは1つだけ、あるいは1回だけで終わるものではないということです。その時の状況や年齢、発達段階、個性などに合わせて、自分に合うやる気アップの方法を柔軟に変化させていくことが大切です。

例えば、中学生や高校生の場合は、友達がやっているやり方や予定の立て方を取り入れてみましょう。やってみて自分に合わないと思ったら別の方法を試してみればよいのです。勉強のやる気については、たとえ将来の目標や具体的な志望校がはっきりと決まっていなくても、友達には負けたくないというライバル意識があれば、それがやる気のエンジンになります。

保護者のかたは、お子さまの年齢や個性などに応じて、やる気を高める方法をお子さま自身が見つけられるように支援していただきたいと思います。お子さまをほめるときは、成果だけでなくがんばったプロセスについてもほめることで、やる気がさらに高まるでしょう。成長につれて保護者が直接支援するきっかけは減りますが、スランプに陥っているときは保護者のかた自身が同様の経験をしたときの様子を話してあげるなど、お子さまが自分でやる気を取り戻すきっかけを作る手伝いができるといいですね。

② なぜ勉強するのかを考え、将来のために必要だと納得できるようにする

中学生や高校生になって勉強が難しくなると「こんなことを勉強していったい将来何の役に立つんだろう」と思ったことはありませんか。そんな疑問や葛藤を抱いたままではやる気もなかなか出にくいものです。どんな小さなことでもいいので、勉強をするといいことがあるな、後で役に立つな、と思えるようなことを想像してみてはいかがでしょうか。志望校に合格したらやりたいことや、目標とする進路に進めた時の自分を想像してみましょう。そうした未来のためにいまは勉強しないといけないのだ、と自分で納得することがとても大切です。

お子さまが小学生のうちはそうしたことを独力で考えることは難しいため、保護者のかたが「地理で世界の国や都市を覚えると、海外旅行に行ったときに楽しいよ」とか「ゲームのプログラミングには、算数・数学や英語の知識が役に立つよ」など、今学んでいることが、お子さまの次の興味につながるような働きかけをして、自律的なやる気を高める手助けができるとよいでしょう。
保護者のかたは、今ご自身が取り組んでいる活動や、学生時代の経験を思い出しながら、勉強することの大切さをいま一度考えてみるとよいかもしれません。お子さまの勉強へのやる気を高めるために、それらをふまえながら声をかけることができれば、身近な存在の実体験に基づくアドバイスはお子さまにとって説得力のあるものになるはずです。

まとめ

調査から「勉強のやる気を引き出す方法」についてご紹介しました。「何のために勉強するのか」をあわせて考えながら、前向きに勉強に取り組んでみてください。次回は同調査から見えた「勉強を習慣化させる方法」についてご紹介します。

取材・執筆:神田有希子
※掲載されている内容は2023年4月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

まつもと るな


ベネッセ教育総合研究所 主任研究員

京都大学大学院教育学研究科修士課程修了(教育学修士)。乳幼児から高等教育まで幅広い教育段階において、子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究に多数携わる。自律的学習者が育まれるプロセスと、そこに適切な支援の在り方に関心を持っている。

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