あえて長期的な目線で、子どもの将来を考える[高校受験]

いよいよ入試本番が近づいてきました。受験生の保護者の方々にとっては疲れやストレスが溜まりがちな頃だと思います。
そんなときこそ、受験から少し距離をおいて、お子さまのこれからの人生について考えてみるのもよいかもしれません。今回はあえて長期的な視点で、お子さまの将来と高校生活の関係についてお話しします。

「グローバル化」「AI化」の先へ

今の子どもたちの未来について考える際、避けて通れないのが急速なグローバル化やAI(人工知能)化の影響です。グローバル化と同時に、人口減少により国内市場は縮小していくとの見通しから、日本企業は海外市場に活路を求めています。そのため、海外大学出身の日本人や日本の大学出身の外国人の新卒採用が増えるとみられます。また、AIの能力が人間を超えるといわれる2045年までには、多くの仕事がAIに取って代わられ、なくなるともいわれています。

このように「先行きの不透明さ」を強調するニュースが多いと、私たちの発想は「就職に不利にならないように英語は不可欠」「AIに仕事を奪われないようにICT技術はしっかり身につけさせたい」といった「リスク回避」の方向に行きがちです。
子どもにつらい思いをさせたくないのは、保護者として当然の気持ちだと思います。しかし、「~しないように」と先回りするリスク管理の発想は、実は子どもの将来を縛ってしまうこともあるのではないでしょうか。

今の子どもたちは75歳まで働く?

また、最近「75歳」という年齢がクローズアップされています。定年を70歳とし、希望者は75歳まで働ける社会をといった議論も始まっているようです。その是非は別として、平均寿命などの伸長を考えると、今の子どもたちは75歳まで働く可能性は高いと考えられます。

また、企業の統廃合が激しくなり、「終身雇用制」が崩れつつある今後は、1企業で40年以上永年勤続できるとは考えにくいでしょう。同じ企業や業種の仕事で一生を終えられるとは限りません。いわば「二毛作」「三毛作」の人生が一般的になってくるのではないでしょうか。
そうなると、必要となるのは「方向を変える力」や「再び立ち上がる力」だと思います。環境や業種が変わっても、その中で自分らしさを生かせる働き方を見つけて、幸せに生き抜く力、「自分はどこでも生きられる」という自信とたくましさが、今後ますます必要になるのです。

高校で何に出会うか、何に打ち込めるか

そのようなたくましさは、どうすれば身につくのでしょうか。
先日、ある雑誌の企画で座談会の司会を務めました。男子校、女子校の卒業生(20歳代後半から30歳代前半)が、男女別学ならではの思い出や特徴について語り合う座談会だったのですが、男女別学以前に、各学校の校風や理念、高校時代に打ち込んだことが、卒業生たちの「今」に分かちがたくつながっていることを感じました。

たとえば高校時代、陸上競技に打ち込んでいた男性は、自身の故障の経験から形成外科医を志望したそうです。しかし、形成外科の現場を見て雰囲気になじめないと感じた彼は、現在、趣味で陸上を続けながら東大大学院で医療に関連した行動経済学の研究に没頭しているといいます。
また、別の女性は、理学療法士として一度就職したものの、もっと深く学びたいと京大大学院に入り直し、現在は小児専門の理学療法士として活躍しています。彼女の母校は「自分とは何か」をつねに考えさせる教育が特徴で、その学びが、障害のある子どもたちと向き合い、対話する能力を育ててくれたといいます。私は彼女の母校の2代前の校長に取材したことがあるのですが、「自分の闇を語れなければ、子どもの心は開けない」「生徒たちの望みや意志が、泉のようにわいてくるのを待つ学校です」といった言葉が非常に印象に残っています。
「何が近道か」「何が安全か」を先回りして教えるより、子どもの真の望みや意志が生まれるまで「待つ」ことが、今の教育に最も大切なことかもしれません。

目的地に安全に着くための「ナビ」より、着きたいと願う意志の「エンジン」を

大人は、子どもが道に迷わないよう、性能のいいナビゲーションシステムを与えようとしがちです。しかし、どの道が「安全」で、どの道が「近道」なのか、今は見えにくい時代です。むしろ今の子どもたちに必要なのは、自分なりの目的地を定め、そこに「行きたい」と願う強い意志のエンジンではないでしょうか。

意志のエンジンがなく、「どちらの道が近道か」「安全か」を示すカーナビしかついていなかった場合、カーナビが壊れたら、ドライバーは運転をやめてしまうと思います。しかし、目的地に本当にたどり着きたいという思いがあれば、車を降りて道を聞く、太陽を見て方角を見定めるなど、何とかたどり着く方法を見出すはずです。
意志のエンジンは、好きなことに夢中になった経験を通して育っていきます。高校で、子どもの意志が生まれ育つのを辛抱強く待ち、好きなことに精一杯打ち込めるよう応援してくれる先生や友達に出会えれば理想的ですね。

まさに今、受験生の皆さんはそのような場と見定めた志望校に向けて、努力を続けられているところだと思います。皆様のご健闘をお祈りしております。

プロフィール


安田理

大手出版社で雑誌の編集長を務めた後、受験情報誌・教育書籍の企画・編集にあたる。教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年、安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。
安田教育研究所(http://www.yasudaken.com/)

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