桜美林大学 リベラルアーツ学群 心理学専攻プログラム(1) スキンシップが脳を育む[大学研究室訪問]

日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。身体心理学について研究されている桜美林大学リベラルアーツ学群の山口創(はじめ)教授の研究室をご紹介します。今回は、先生の研究について伺いました。



桜美林大学 リベラルアーツ学群 心理学専攻プログラム(1) スキンシップが脳を育む[大学研究室訪問]


■人に触れられると「愛情ホルモン」が分泌!

子どものころに転んでケガをしてしまった時、保護者にさすってもらうと元気が出たり、落ち込んでいる時に友達や恋人に肩をそっとなでてもらうと気持ちが落ち着いたりした経験が、皆さんにもきっとあると思います。私は、人に触れられる、あるいは触れることで得られる癒やしの効果について研究しています。
なぜ、人は触れられると癒やされるのか。それはスキンシップをとると、脳の下垂体から"愛情ホルモン"と呼ばれるオキシトシンが分泌されるからです。オキシトシンは出産の時に子宮を収縮させて分娩(ぶんべん)を促したり、母乳を出したりするホルモンとして知られています。最近の研究では、このオキシトシンは、人と人とが触れ合うことで盛んに分泌され、信頼や安心感を生んだり、きずなを深めたりすることもわかってきました。

私が行った調査でも、子どもの時に、たくさんスキンシップをしてあげると、穏やかで、優しい性格になり、キレにくいお子さまに成長するということが明らかになっています。この効果もオキシトシンの影響と考えられます。また、オキシトシンによって記憶力もアップすることが分かっているため、密なスキンシップをとっていたお子さまはIQも高くなるといえます。
また、オキシトシンは、触れられた人だけでなく、触れた人にも分泌されます。保護者もお子さまに触れることで、リラックスし、ストレス解消効果があるのです。



■幼少期以降もスキンシップを継続することが重要

ゼミでのワークの様子

日本では、幼少期にはたくさん抱っこやおんぶをしていてスキンシップを十分にしているご家庭が多いようですが、それ以降は徐々にスキンシップが減ってしまう傾向にあります。欧米は逆で、幼少期は日本に比べて少ないものの、思春期になっても保護者と子どもがハグするなどスキンシップを行う習慣があります。

保護者向けの講演では、日本でも思春期以降、スキンシップを継続してほしいと話をしています。ただ、いつもべたべたするのではなく、部活で疲れた時に脚をもんであげたり、勉強に疲れていたら肩をもんであげたり、ワンポイント型のスキンシップで、お子さまと心の交流をしてほしいのです。こうした接点を持つことで、保護者から「今までまったく話をしてくれなかった子どもが、学校のことを話すようになった」という話をよく聞きます。スキンシップは、自然に親密な関係になれるよいコミュニケーション方法なのです。
最近、介護現場でもスキンシップの効果が注目されています。認知症のケアとして、フランスでは「ユマニチュード」、スウェーデンでは「タクティールケア」というネーミングで実践され、日本にもその手法は広がっています。お子さまの場合とメカニズムは一緒で、触れることでオキシトシンが増え、認知症の症状が緩和することが明らかになっているのです。



■時代に求められている学問

身体心理学は、時代に求められている学問だと思います。現在、情報化の進展により、顔を合わせなくてもメールなどでコミュニケーションが簡単にできるようになり、人と人とが触れ合うことが以前より少なくなっています。ゼミで学生どうしが互いに触れるワークを行っているのですが、近年、「できない」と言って輪に入らない学生がいるのです。ほ乳類は、触れ合って育つことを考えれば、人との触れ合いを快に感じられないというのは少し心配です。
ゼミのワークでは、学生どうしがペアになり相手に触れるだけで、相手にメッセージが伝えられるかを試してもらいます。メッセージは、慰める、励ますなど4つの中から1つを選んでもらい、触れられたほうは、どの意味が込められていたのかを感じとるのです。好きと嫌いはわかりやすいですが、慰めるや励ますは、どちらか判断するのは難しいはずです。

ただ、正確に伝えられないところが、スキンシップのよいところではないでしょうか。「言葉のほうがストレートでわかりやすい」と思われるかもしれませんが、人に触れることでしか伝わらないメッセージというものがあると思います。また、体の感覚を伴った関係があれば、多少の行き違いがあっても修復できるはずだからです。


プロフィール


山口 創

1967年生まれ。専門は、健康心理学・身体心理学。子どもに触れることの影響や、タッチングの心理・生理的影響について研究。主な著書に、『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書)、『皮膚感覚の不思議』(講談社)、など多数。

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