東京工業大学 地球惑星科学専攻(2)独創的な発想は若さよりも知識と経験から生まれる[大学研究室訪問 学びの先にあるもの 第10回]

日本が転換期を迎えた今、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。連載10回目に訪れたのは、太陽系以外の惑星=系外惑星を研究し、宇宙と生命の謎に迫る、東京工業大学の井田茂教授の研究室です。研究者として活躍するために高校生までに何をすべきか、海外で高く評価されている日本の研究者の強みなどについて教えていただきました。



■楽な道を選んでいたら人より抜きんでられない

「経験の長い研究者より、若い学生のほうが、柔軟ですばらしい発想を持っている」--、一見それらしく聞こえる言葉ですが、私はそんなことはないと思います。発想とは、天から降ってくるものではありません。発想のヒントになる事象を見ても、知識や経験が乏しい学生には、何も感じられないでしょう。知識や経験を積み重ねているからこそ、たくさんのものが瞬間的につながり、独創的な発想が生まれるのです。

だからこそ、学生には「血へどを吐くくらい勉強しろ」と冗談まじりに求めています。人間の能力なんてだれも似たようなもの。楽な道を選んでいたら、他の人から抜きんでられません。他の人は「これくらいでいいか」と妥協するところで、自分はやめずにさらに先へ突き進む--そんな姿勢があれば、いつか頭ひとつ抜け出て、他の人には見えないものが見え、さらに研究がおもしろくなります。研究の醍醐味(だいごみ)はそこにあると思います。



■日本の研究者の強みを育む「輪講」形式

学生にはまず、論理構築のしかたを徹底的に身に付けてもらいます。そのために、教科書になるような書物を、数人で担当場所を決めながらリレーして読んでいく「輪講形式」の講義を行います。事前の読み込みが不十分だと、「どうしてそう言いきれるの?」「この式、正しいかちゃんと確かめた?」などと厳しく突っ込まれます。それを乗り越えることで、論理立てて物事を考える力が付くのです。

これは日本の大学独自の方法ですが、とても優れていると私は思います。海外では個人で勝手に勉強するのが主流です。優秀な人がどんどん進めるというメリットはありますが、基礎を確実に身に付けるには日本の方法が適しています。サッカーの一流選手の華麗なプレーが、地道なドリブルやパスの練習のうえに成り立つのと同じことです。実際に、日本の研究者を「基礎がしっかりしている」と高く評価し、採用したがる海外の研究者も多くいます。



■他人からずれていることこそ大きな武器になる

今の社会や学校には、みんなに合わせることを求める雰囲気があります。研究室の懇親会などでも、ひと昔前ならしょっちゅうけんか腰の議論が起きていたのに、今はそんなことはなく、みんな場の空気を読んで、和やかな雰囲気に終始しています。確かにそれは、社会を円滑に成り立たせるためには好ましいことかもしれません。しかし、それだけが大切にされる風潮には疑問を感じます。


東京・目黒区の東京工業大学岡山キャンパス内にある研究室にて

研究でも仕事でも、他人と同じであることより、ずれていることが武器になります。大学も企業もそんな武器を持った人材を求めているでしょう。だから保護者の皆さんには、もしもお子さんが他人とずれていると感じたら、それを才能だと思ってください。大きな可能性を持つお子さんを、あえて平均値にそろえないでください。家庭だけでなく学校や社会でもそんな雰囲気が生まれれば、子どもたちはのびのびと才能を伸ばせると思います。



卒業生に聞きました!

松倉大士さん(2012年大学院修了、経営コンサルタント)

まずは10分、自分の頭で考える経験を

私は、井田先生の研究室で、惑星が形成される理論を研究していました。大学院入学時は研究者をめざしていましたが、新たにチャレンジしたいことが見つかり、現在は研究を離れ経営コンサルタントとしてのキャリアを歩んでいます。

経営コンサルタントは、会社が抱える問題の原因や解決策を伝え、経営陣の意思決定に関わる仕事です。そして、情報を集め、分析し、まとめながらも、常にそれが問題の解決にどうつながり、それをどう伝えればいいかを考え続けていることが大切です。井田研究室での刺激的な研究生活を通して、未知の問題に対し「本当にそうなのか?」と常に問いかけながら立ち向かう癖が身に付いたと思います。その経験は、分野は違えど今の仕事へ直結していると確信しています。

高校生の皆さんも、普段の生活で、問題集の問題に限らず、恋愛や部活動の人間関係などさまざまな問題にぶつかっていることと思います。そしてこれからも答えのない未知の問題にぶつかることがあるでしょう。そんな時、まずは10分、自分の頭で考えてみることが大切だと思います。もちろん一人では解決できないことも多々ありますが、何も考えずに人から教わるよりも吸収力が何倍も上がります。そんな経験を重ねるうちに、将来どこで何をやっても成果を出せる問題解決力が養われるのではないでしょうか。

プロフィール


井田 茂

京都大学理学部物理系卒業。東京大学大学院理学系地球物理学専攻修了。現在、東京工業大学地球生命研究所教授。専門は地球惑星科学。太陽系をはじめとした惑星系について、コンピュータ・シミュレーションなどを用いて理論的に研究し、宇宙・地球・生命の起源に迫る。

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