東京工業大学 地球惑星科学専攻(1)新しい分野だからこそ学生にも「世界初」の可能性が[大学研究室訪問]

日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。答えを求めて、さまざまな大学の研究室を訪問します。連載10回目は、次々に発見されている太陽系以外の惑星=系外惑星を研究し、宇宙と生命の謎に迫る、東京工業大学の井田茂教授の研究室です。



■太陽系の惑星の常識を覆す「系外惑星」が次々に発見

私の専門は惑星科学です。惑星と聞くと、地球や火星、金星などを思い浮かべるでしょう。そうした太陽系の惑星以外にも、宇宙には恒星の周りを回る惑星があるはずだ--以前からそう考えられていましたが、約20年前までは、1つも存在が確かめられていませんでした。太陽系の惑星の観測結果から、中心に近い惑星は金星や地球のように岩石でできていて、遠い惑星は木星や土星のようにガスでできているなどと推測するしかなかったのです。

ところがその後、太陽系以外の惑星=系外惑星が次々に確認され、常識が覆されました。木星や土星のようにガスでできているのに、中心の恒星のすぐ近くを約3日で1周する灼熱(しゃくねつ)惑星「ホットジュピター」や、楕円(だえん)軌道を恒星からの距離を大きく変えながら回り、夏と冬の温度差が100度以上もある「エキセントリックプラネット」などが次々に発見されました。水がある可能性の高い地球型惑星「スーパーアース」もたくさん見つかっています。



■インターネットがもたらした、研究の飛躍的な加速

系外惑星が次々に発見されている状況は、たとえば日本の歴史だけを研究していた歴史学者に、ヨーロッパやアフリカなど、たくさんの国の歴史を示したようなものです。常識が覆され、新しいテーマがどんどん見つかっています。すでに確立された学問では、経験の浅い学生が国際的に認められる研究をするのは難しいでしょうが、惑星科学には、学生にも「世界初」の研究成果を生み出す可能性があり、やりがいを感じながら研究に取り組んでいます。

研究が加速されている背景には、観測技術はもちろん、コミュニケーション技術の進歩もあります。以前は、図書館に足を運んだり、紙の雑誌を送ってもらったりしなければ、必要な資料を入手できませんでした。ところが今は、インターネット上で論文が無料公開され、簡単に入手できます。世界中の研究者とリアルタイムで議論もできます。こうした技術の進歩の影響の大きさは、惑星科学に限らず学問全般にいえることだと思います。



■データは大切だが、データに振り回されてはいけない

私たちの研究室の研究手法の基本は、コンピュータ・シミュレーションです。惑星を観測して得られたデータをもとに仮説を立て、シミュレーションをしながら、惑星や太陽系がどのように生まれたか、理論を構築します。たとえば、地球のように水があって、生命が生まれ、進化していった惑星がどのようにして形成されたのかも、シミュレーションによって明らかにしようとしています。


惑星が生まれていく過程の
コンピュータ・シミュレーション
(c)玄田英典(東京工業大学・地球生命研究所)

新しい惑星が見つかれば、新しい観測データがもたらされます。そうしたデータをチェックすることは、研究を前に進めるためにとても重要ですが、私は学生たちに、「データに振り回されてはいけない」とも指導しています。新しいデータは新しい理論を生み出すきっかけになる一方で、それは必ずしも正しいとは限らず、修正される可能性が少なくありません。それに、私たちの目的は、日々更新されるデータを説明することではなく、データをもとにして、太陽系や惑星の成り立ちなどを解明することです。



学生に聞きました!

國友正信さん(博士課程2年、神奈川県出身)

高校の部活の「練習日誌」が研究に生かされている

高校1年生の時、井田先生が出演しているテレビ番組を見ていたら、先生が、「地球とそっくりの惑星が今後10年以内に見つかるかもしれない。これは人類の世界観を変える発見になる」とおっしゃっていました。その言葉を聞き、研究のスケールの大きさに身震いし、「この先生のもとで研究したい!」と思って受験勉強に励み、合格できたのです。

現在は、太陽系以外の惑星の軌道について、シミュレーションをもとに構築した理論を、実際の観測データと比較しながら研究しています。井田研究室では、世界最先端の研究をし、成果を出すことが求められます。海外に出かけ、英語で議論をすることもたくさんあります。厳しくはありますが、刺激を受け、大きく成長できます。初めての国際会議で大勢の人の前で話した時の緊張と達成感は一生忘れません。

私は高校時代、サッカー部で練習日誌をつけていました。練習内容だけでなく、コンディションや課題、反省点も書き留め、それをもとに、自分に何が足りないかを考えるのです。サッカーと科学の研究ではまったく畑違いと思われるかもしれません。しかし、その時に培った現状の把握力や結果の分析力は、研究にも生かされていると感じています。


プロフィール


井田 茂

京都大学理学部物理系卒業。東京大学大学院理学系地球物理学専攻修了。現在、東京工業大学地球生命研究所教授。専門は地球惑星科学。太陽系をはじめとした惑星系について、コンピュータ・シミュレーションなどを用いて理論的に研究し、宇宙・地球・生命の起源に迫る。

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