「ピア効果」で学力を向上させている学校[中学受験]

中学受験の頂点にある難関校には、学力と意識・意欲の高い生徒が集まる。そのような学校は第一志望校として受験し、入学してくる生徒ばかりなのだから意識・意欲も高いのは当たり前だろう。しかし、難関校に合格できる生徒ばかりではない。入学時の学力がそれほど高くはない学校の中にも、「ピア効果」が期待できる意識と意欲が高い学校は実在するのだろうか。

中学入試での偏差値の割に、6年後は顕著に大学合格実績を伸ばしている神奈川県の女子校(“顕著な女子校”と称す)がある。その学校は、難易度は高くないほうに属する。高校からも生徒を募集しているので、優秀な生徒が高校入試で入ってきているのかと思って調べてみると、大学合格実績はむしろ中学から入学した生徒のほうが多く挙げていることがわかった。どのような「ピア効果」が働いてこのような結果になったのか調べてみた。

グラフ1は「顕著な女子校」の卒業生100人当たりのGMARCH合格者数(人)を2008年~2012年の実績と2013年の予想をもとに推移をまとめたものである。2008年~2011年の合格実績はなだらかな増加傾向にあり、2011年以降急激に上昇している。2012年は、たまたま卒業生の質が高いということもあるだろうが、その場合は2013年の合格実績が2011年の合格実績レベルに戻ることになるだろう。
しかし、2013年は、2012年の実績を上回り、さらに顕著に増加すると予想される。2013年の予想は、高校3年時の模擬試験結果から毎年行っているが、精度はそれなりに高いようだ。

グラフ2は、2011年10月に行った生活面と社会的能力面の中1~高3の自己評価(5段階評価)をグラフにまとめたものである。生活面でも社会的能力面でも学年が上がると共に評価は高くなることで、学校が重視している人間教育が生活面だけではなく社会的能力面でも成果があることがわかる。
ここで注目したいのは、昨年、模擬試験結果から大学合格実績が急増すると期待されていた高3生(グラフ1の2012年合格実績)は、中1~高1よりも自己評価が高いが、高2よりも自己評価は低かった。高2(現在の高3で、グラフ1の2013年合格予想)は、2011年の10月時点での学力は例年並みで、2012年の合格実績を上回ることは期待できなかった。
しかし、今年(2012年)の春に行った模擬試験では、高2(現在の高3)の学力が急上昇したことがわかった。そして、その後も学力は伸び続け、グラフ1のような合格実績の予想ができるまでになった。これは、2年前から学校が学校改革の一環として行事による社会的能力面での向上に取り組んだことが考えられる。
まだ、分析中ではあるが、能力面の行動力や思考力が向上した結果、大学受験に対する意識・意欲の「ピア効果」が生じ、結果として学力の向上となったことが推測できる。



グラフ1 急激に大学合格実績を伸ばしている神奈川県の女子校(顕著な女子校)


グラフ2 2011年生活面と社会的能力面 自己評価(5段階評価)中1~高3

5段階評価の内容
5:この項目の内容を理解し、自分自身の判断で自然にできるようになった
4:この項目の内容について理解が深まり、ある程度できるようになった
3:普通にできると思うが、さらにこの項目についての理解を深める必要があると思う
2:できる時とできない時がある。もっともっと自覚を深めたい
1:まだできていない


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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