東京大学 生産技術研究所 (2) 学部選びに迷っている人は、難しく考えすぎず、得意なこと、好きなことが学べる分野に進めばいい[大学研究室訪問]

日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。答えを求めて、さまざまな大学の研究室を訪問します。前回に引き続き、今回は地球規模のダイナミックな水循環を解明している、東京大学の沖大幹教授の研究室の2回目です。



■大学の学びには、わかっていることを学ぶ「学問」とわからないことを解明する「研究」の両方がある

高校生のうちに知っておくといいのは、大学の勉強には「学問」と「研究」の両方があるということです。「学問」とは、教科書に書いてある、すでにわかっていることを体系的に学ぶものです。高校までの勉強は、ほとんどが学問でしょう。一方「研究」は、教科書に書かれていないこと、まだわかっていないことを解明するものです。時には、教科書に書かれている常識を覆すような研究もあります。ノーベル賞を受賞したiPS細胞の山中先生の研究などは、まさしくそうですね。

大学に入学すると、最初は主に学問をし、学年が上がるにつれて研究へとシフトしていくことになります。大学とは、さまざまな学問が並んだディスプレイのようなもので、学生は、それぞれの学問について深めながら、興味を持てるものを見つけ、研究テーマとするわけです。研究を進めていくうちに、テーマが変わることも珍しくありません。私の研究室にも、水の自然災害について研究するうちに、不慮の事故などで天寿を全うせずに亡くなる人の多さに気付き、そちらの研究に取り組んでいる学生がいます。私の研究室の本来のテーマとは違いますが、私は、それでもいいと思っています。自分が興味を持てる研究をすることこそが大切なのですから。



■大学で学んだことは10年も経てば古くなる 大切なのは未知のことを学ぶ姿勢

タイの洪水予測に関する研究も、沖研究室のさまざまな研究テーマのひとつ。日本に限らず、世界各地をフィールドに研究を進めている。(写真は2011年にタイで起きた洪水被害の様子=沖研究室提供)

研究の醍醐味(だいごみ)は、「目からうろこが落ちる」瞬間にあると思います。常識だったことが新たな知で置き換えられ、「そうだったのか!」とわかる。そんな気持ちを、学生たちにも味わってほしいですね。
最近、研究が進むスピードが上がり、教科書の内容を書き換える研究成果がどんどん発表されています。大学で学んだことも、10年もたてば古くなってしまいます。大学で学んだ知識が一生役立つと思ってはいけません。

人間の活動を無視しては自然科学が成り立たなくなりつつあるように、これからはどんな世界でも、専門以外の知識が求められます。ですから、大学時代に大切なのは、専門知識を身に付けるだけでなく、教養を学び、知識の増やし方を身に付け、知識をもとにして課題を解決していく経験を積み、正しいか、正しくないかを見抜く目を養うことです。そうして身に付けた学び方や考え方こそが、研究者になるにしても企業で働くにしても、一生役立つと思います。



■理系の人は歴史や経済が得意なことが武器になり、文系の人は数学が得意なことが武器になる

ここまでの話と矛盾すると思われるかもしれませんが、私は、高校時代には幅広い知識をたくさん詰め込んでおくことが必要だと思います。新しい発想は、さまざまな知識を結び付けることで生まれます。たくさんの知識を持っておけば、それだけ発想も豊かになります。ただし、得意な分野の知識だけを詰め込んではいけません。理系の人は歴史や経済が得意なことが武器になりますし、文系の人は数学が得意なことが武器になります。私自身、高校時代に幅広く学んでいたことが、その後も長い間、研究を支えてくれました。

好きなことが見つからず、学部選びに迷っている人は、難しく考えすぎず、自分が得意な科目や好きな科目の勉強と関連した分野に進めばいいと思います。勉強は時につらいものでもあります。たとえば、歴史の用語を覚えるのは勘弁してほしいけれど、英単語は我慢して覚えられるのなら、英語学や英文学に進めばいい。そして、大学ではそんな得意な分野、好きな分野で学問や研究に打ち込んでください。そのうちに、まったく違う分野への興味がわき、進路を変えることになったとしても、きっと役に立ちますよ。


ОBに聞きました!

岡澤裕子さん(2010年卒業、株式会社アルメック 海外室勤務)

「自分の評価軸をつくりなさい」という先生の言葉が、社会人になった今、苦しい時の支えに

沖先生の研究室に入ったきっかけは、先生の授業で紹介された「仮想水」という考え方です。モノをつくり出すにはたくさんの水が使われるから、モノを輸入するのは水を輸入しているようなものだという発想で、こんなふうに社会の現象を見る方法があるのだと、目からうろこが落ちる思いでした。研究室では、地球全体の洪水リスクの研究をしました。沖先生の言葉で特に印象に残っているのは「自分の評価軸を作りなさい」です。社会に出たら誰もほめてくれないし、叱ってもらう機会も減る。だから、自分の良い面も悪い面も客観的に評価して、自分を支えられるようになりなさいという意味です。この言葉は、社会に出てからも特に苦しい局面でよく思い出していて、沖先生にはとても感謝しています。

現在は、都市計画コンサルタントとして、東南アジアを中心とする各国での開発援助に携わっています。沖先生の研究室では、研究においてはただひとつの「正解」というものはなく、研究を通して問題に対して自ら考え抜くことが大切だということを学びました。社会に出てからも、問題を設定し、その問題に対する回答(=最終成果)をイメージしながらそこに至るプロセスを組み立て、必要なデータや情報を見極めることが求められます。そういったことを初めてひととおり経験したのが、沖先生の研究室だったといっても過言ではありません。学生時代に試行錯誤した経験が、今の仕事にも生きています。

研究にはひらめきが重要な要素だと思いますが、それが単なるひらめきとして終わらせず、研究の成果としてつなげるためには、やはりそれを支える日々の地道な努力が重要だと思います。そういう意味では、高校生までの習慣として、楽なほうに流されないように意識してきたこと、毎日こつこつ積み重ねる習慣をある程度付けたことは、研究を進めるうえで自分の強みだったと思います。そして、そのように教育してくれた両親にも感謝しています。

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