東京学芸大学 教育学部 初等・中等教育教員養成課程 社会科教室 (2)  好きなことを学んで高めた専門性が社会に出たときの武器になる[大学研究室訪問 学びの先にあるもの 第2回]

東京学芸大学 教育学部 初等・中等教育教員養成課程 社会科教室 (2)
好きなことを学んで高めた専門性が社会に出たときの武器になる


日本が転換期を迎えた今、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。連載2回目に訪れたのは、江戸時代の歴史が専門で、大河ドラマの時代考証なども手がけている、東京学芸大学の大石学教授の研究室。前回に引き続き、後編の今回は、大学の学びと社会とのつながりや、高校生までのうちにやっておくべきことについて伺いました。



合宿での共同生活を通じて教員に必要な資質が養われる

私の研究室では年に2回、春は2泊3日、夏は3泊4日の合宿を行っています。この合宿は、専門性を高めるだけでなく、共同生活を送ることにも意味があります。研究室の学生の多くは教員志望です。教員の仕事では、児童・生徒や保護者との間で、また教員同士でも、さまざまな形でコミュニケーションをとらなければなりません。ところが、最近はこうした人間関係を築くのが苦手な学生が増えています。合宿は、そうした対人関係・人間関係を養う場になっています。


研究室の学生たち。合宿直前で、準備の真っただ中だ

合宿では、一人ひとりが近況について話す時間を設けています。一人暮らしの学生が多いこともあり、学生の生活の様子を聞く大切な機会になります。ところが、人前でひとつのストーリーを話すことが不得手な学生もいます。しかし、そんな学生でも、経験を積むことで、次第に自分を表現できるようになり、卒業後は立派に教員として活躍しています。「あのスピーチのおかげで、突然話すことになってもあわてなくてすむようになりました」という卒業生もいます。最近は、合宿に「ネタ帳」を持ち込む学生もいます。
合宿の運営は3年生が中心となり、参加する卒業生や4年生、そして下級生たちをリードしています。こうした伝統が作られ、引き継がれていくことを、私は誇りに思っています。



学生時代に身に付けた「過去に学ぶ」姿勢が社会でも生かされる

研究室の卒業生の多くは教員となりますが、なかには大学院に進んでさらに専門的に勉強をし、研究者になる人もいます。各地の博物館や地方自治体で文化財を担当する部署に勤務める人、出版社など企業に勤める人もいます。歴史を学んだことは、どんな道に進んでも生かされると思います。現在の社会は、ある日突然、生まれたわけではありません。歴史の積み重ねの末に今があります。歴史を知ることは、今を知るための大切な手がかりになるのです。

私は、NHK大河ドラマなどの時代考証の仕事もしています。めざすのは重箱の隅をつつく考証ではありません。近年の研究では、江戸時代は現代の日本の基礎が築かれた時代だということが明らかになってきています。そのような研究成果を生かし、現代に生きる我々が、登場人物や場面に共感し、学べるドラマをつくりたいのです。そのために、研究室の卒業生を中心に「時代考証学会」を立ち上げ、議論や研究もしています。こうした活動は、研究成果の社会還元です。時代劇が好きな学生たちも参加し、学問と社会との関わりを体験しています。



「ゆとり」が見直されつつある今こそ家庭で興味を育むことが大切に

今の学生は、「ゆとり教育」の真っただ中で育った世代です。ゆとり教育というと、マイナス面ばかりが強調されがちですが、私はむしろプラス面を強く感じます。フィールドワークで古文書の調査をする場合など、かつてはいくつかの班に分かれ、その一員として調査をしました。ところが最近の学生は、自分が興味を持つテーマを見つけて計画を立て、一人でどんどん調べていくのです。これは、一昔前の学生にはなかった傾向で、とても頼もしく思います。

私は時代考証の仕事にあたって、さまざまな分野の専門家のネットワークをつくっています。そのほうがより実証的でリアルな考証が可能だからです。こうした専門性は、今後、時代考証に限らずあらゆる分野で大切になると思います。スペシャリストとしての価値です。1人1人の専門性は、その人が本当に興味のあること、好きなことに打ち込んでこそ身に付くものです。ところが、最近の学校教育は、ともすると再び詰め込み教育に戻る恐れもあります。だからこそ、家庭では、お子さまが興味を持ったことを学ぶ環境を整えてほしい。それが社会に出て役立つ武器になり、人生を豊かにしてくれると思います。



学生に聞きました!

芳賀 学さん(2010年入学。福島県出身)

合宿で先生や先輩の思いを感じ今年は自分が合宿のリーダーに

小学4年生の時、担任の先生の影響で教員を志すようになりました。大学を卒業したばかりの若い先生でしたが、自信が持てずにいた私を励まして、変わるきっかけを与えてくれてくれました。それをきっかけに、私は行事などにも積極的に関われるようになりました。そんな経験から、先生に感謝するとともに、「自分も先生になりたい!」と思うようになったのです。5年生のころにはNHK大河ドラマの『利家とまつ』をきっかけに歴史が好きになり、高校時代の先生のすすめもあって、東京学芸大学に進んで大石先生の研究室に入りました。

研究室に入った最初のころはとまどいました。古文書を読むばかりで、歴史というより古文や漢文の勉強みたいでしたから。でも、昔の人が実際に書いた資料を、自分の手で読み解くのは、やりがいもおもしろさもあります。今は、ある村の米取引について調べているのですが、独自のルートで商いをしていた問屋が、大きな勢力に飲み込まれていく様子などが見えてくると、歴史の場面に立ち合っているようでワクワクします。合宿は、箱根に行っても温泉に入る暇もないくらいのハードスケジュールで、人前で話すのが苦手なので最初はとまどいましたが、先生や先輩が自分のためを思ってくれているのが伝わり、いい機会になっていると思いました。2年目の今年は、合宿のリーダーを務めています。

高校時代はバレーボール部に入っていました。つらくても何かをやり通した経験は、大学生になった今、勉強に限らず何かにがんばる時の活力になっていると思います。親からは「勉強しなさい」と言われることはありましたけれど、基本的には自分を信頼して見守っていてくれたと思います。その時はわかりませんでしたが、今になって考えてみると、そんな親に支えられていたんだなと思います。

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