東京農業大学 農学部 昆虫学研究室 (1) 研究者にも、専門の殻を軽やかに脱ぎ捨てることが求められています [大学研究室訪問]

日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。答えを求めて、さまざまな大学の研究室を訪問します。
第1回は、昆虫の機能を生かしたものづくりに取り組む、東京農業大学農学部の長島孝行教授の研究室です。



■昆虫の吐くシルク(糸)から、メタボ予防のゼリーができる!?

色とりどりのさまざまな繭

私たちは、昆虫の持つ機能を社会に役立てる「インセクト・テクノロジー」に取り組んでいます。その代表がシルクです。シルクというと皆さまは、カイコの繭からできる、すべすべした繊維を想像するでしょう。しかし、地球全体を見渡せば、カイコに限らず何と10万種を超える虫たちが、色とりどりの個性豊かなシルク(糸)を吐いています。

そんなシルクの機能を調べてみたところ、紫外線カット、脂肪吸着、抗アレルギー性など、驚くほどたくさんの機能が備わっていることがわかりました。すでに、私たちが明らかにしたシルクのさまざまな機能をもとに、紫外線を99%カットする日傘、メタボ予防のゼリー、2日間履き続けても臭わない靴下など、たくさんの商品が生まれています。



■資源を使い捨てない「千年持続社会」実現のために

なぜ、シルクには多彩な機能が備わっているのでしょうか。この謎を解くため構造を電子顕微鏡で観察したところ、小さな穴がたくさん開いていました。この穴こそが、たとえば脂肪が吸着するなどといった、機能の源だったのです。こうした構造を生かした新たな化学繊維などを開発するのも、昆虫の機能を役立てるひとつの道でしょう。しかし、私たちはあえて、虫が作ったシルクを素材にしています。その裏には、地球の未来への危機感があります。

近年、石油などの地下資源をもとにたくさんのものが作られ、私たちの生活は豊かになったように見えます。しかし、その結果、地球環境は汚染され、資源はなくなろうとしています。このままの生活を続ければ、人類は滅びるでしょう。今、求められているのは、資源を使い捨てる社会から、資源を使わずに自然のバランスを保つ「千年持続型社会」への転換です。虫が作ったシルクを使うことは、その実現につながるのです。



■分野の壁を超え、国や企業とも一緒になって

間近に迫る危機から人類を救うことは、大学の使命のひとつだと私は思います。私以外にも、同じように考えている研究者はたくさんいます。彼らは皆、分野の壁を超えて研究者が交流し、国や企業とも一緒になって知恵を出し、行動すべきだと考えています。専門性を養うことは確かに研究者にとって大切ですが、それは、自分の専門に閉じこもっていればいいということではありません。

私の研究室でも、昆虫の機能を研究するだけでなく、商品の開発や販売まで、企業と連携して取り組んでいます。学生たちにも、研究の段階から、それがどのように社会に役立つのかを見通すように指導しています。ビジョンもなく研究に取り組むのは、登山靴を履いてからどの山に登るかを決めるようなものです。今は、弁護士が知事や市長に転身し、誰にもできなかった改革を進めていく時代です。研究者にも、専門の殻を軽やかに脱ぎ捨てることが求められているのです。


OBに聞きました!

小川晃弘さん(2008年大学院修士課程修了、財団法人日本食品分析センター勤務)

研究室でいろいろな経験を積んだことが、今の仕事に生きています。

私の研究テーマはインドネシアに生息する蛾(が)・クリキュラの「黄金の繭」でした。もともとは害虫として嫌われ、黄金の繭も捨てられていましたが、私たちの研究でその機能が明らかになり、さまざまな商品が生まれたのです。私は特にその美しい黄金の色が生まれるしくみと繭の利用方法を研究し、その一部を特許申請に結び付けられました。

現在は食品や医薬品などの分析機関に勤務し、様々な会社を訪問して、分析の提案や試験設計の調整等を行う仕事をしています。大学時代の研究内容とは、直接関係ありませんが、研究室での経験は大いに役立っています。研究室では、様々な人の知恵や力を借りて研究を進めたり、他のメンバーの研究を手伝ったり、インドネシアの現地の人の家に1か月住まわせてもらったりと、さまざまな経験を積めました。それが、今、さまざまな人の立場に立って考え、橋渡しになるための力となっているのです。

高校時代には、受験勉強だけでなくいろいろなことに興味を持って取り組んでほしいです。特に、部活には思いきり打ち込むことをすすめます。私は中学・高校・大学とラグビー部で、特に高校時代にはケガに悩まされました。両親も心配だったでしょうが「あなたが納得するまでは」と、続けさせてくれました。おかげで、たいていのことではへこたれない根性と度胸が付いたと、感謝しています。

プロフィール



東京農業大学農学研究科博士課程修了後、高校教諭などを経て現職。ニューシルクロードプロジェクト代表、千年持続学会理事も務める。昆虫の機能を社会に役立てる「インセクト・テクノロジー」を提唱。著書に『蚊が脳梗塞を治す!昆虫能力の驚異』(講談社α新書)など。

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